第30話
カリフォルニア州のロスアンジェルス近郊アナハイムにあるディズニーリゾートの玄関前広場。ここでサンダース大統領の集会が開催されていた。大統領が演説している会場の周辺では、同時にサンダース反対派のデモも集結していた。彼らは、「NOサンダース!」とか「サンダースはナチス主義」「反ジェンダー主義を許すな!」などと書かれた横断幕やプラカードを掲げて行進していた。
真理亜は、ロスアンジェルスの市街地には目もくれず、そこを目指していた。
会場では、サンダースが気を吐いていた。
「俺は自身の財産を投じて、この国をもとの強いアメリカに戻すんだ。俺はこの国が大好きだ。お前たちもそうだろ」
聴衆たちが「そうだ」「そうだ」と唱和した。
「だが、どうだ? 最近のこの国は、南から違法にやって来た移民どもが、この国を食い荒らしている。俺たちの稼いだ金が、俺たちの税金が、彼らを養うために使われているんだ」
聴衆達からのブーイングが起きた。
「そうだ。俺とともにこの国のために闘ってくれ!」
「サンダース。サンダース。サンダース。サンダース……」聴衆の大合唱が起きた。
そのとき、会場の外の方から悲鳴が聞こえ始めた。見ると、反サンダース派の群衆やら、一般の観光客や通行人などがことらに走ってくる。
「何だ? 俺の反対派の奴らが、襲撃してきてるのか?」
次に、こんもりとした森の向こう側に、真理亜の頭が見え始めた。
「御神乱! 御神乱!」「食われるぞ! 逃げろー」人々は叫びながら、こちらにやって来ている。
「御神乱です! 大統領、避難して下さい」側近がサンダースをヘリへ促す。
「お、おう」
そのときに既に、真理亜は既に会場のすぐ隣の駐車場まで迫って来ていた。
逃げる群衆はパニックになっており、大統領たちにも平気でぶつかっていった。そのために、大統領一行は、うまくヘリに到達することができなかった。
「道を開けろ!」「大統領に道を開けろ」SPが声高に叫びながら大統領を誘導していく。
真理亜の巨大な体は、会場に入って来ていて、真理亜の頭は逃げる大統領一行の方を向いていた。
何とか、ヘリコプターに到達したサンダース一行。すぐにローターを回転させた。周囲にいた群衆の身体がローターの激しい風にあおられた。
大統領のヘリコプターは、垂直に上昇し、真理亜の顔面のすぐ目前をかすめていった。そのヘリを腕を大きく伸ばしてつかもうとした真理亜。しかし、すんでのところでヘリコプターは、その間をすり抜けて大空に舞い上がっていった。その行く先を仰ぎ見る真理亜。
「何だ、あいつは! 俺のことを狙っているのか?」非難するヘリコプターの中、サンダースがそう言った。「軍はどうしてるんだ。遅いぞ」
「今、向かっているみたいです」
サンダースを仕留め損ねた真理亜は、すぐに海岸の方へと引き返した。
そこへ海軍の攻撃ヘリ部隊が空から現れた。
「いいか、頭を狙え。それ以外は効果が無いと思え」隊長が指令を出す。
「しかし、周囲は住宅地です」
「注意して一撃でやれ。いいか、よく狙いすますんだ」
「了解」
しかし、真理亜は、頭を振りながら蛇行して海へと急いだ。なかなか照準が定まらない。
「なかなかロックオンすることができません!」
しかし、何発かのミサイルがヘリから発射された。真理亜は、それを身体をくねらせながらよけた。
「ズガーン!」「ズガーン!」轟音とともに、それたミサイルが高級住宅地に着弾した。みるみる住宅地に火災が拡がっていった。
「バカヤロウ! ちゃんとロックオンしてから出ないと発射しちゃダメだろうが」
「すみません!」
一機の攻撃ヘリが真理亜の頭部にロックオンした。
「ロックオンしました。発射します」
発射されたミサイルが真理亜の頭部めがけて飛んで行く。しかし、そのとき真理亜は、ハンティントンビーチにまで到達しており、海に飛び込んだ。
ミサイルは、海中に没した後、大爆発を起こしたが、真理亜に命中したかどうかは判然としなかった。
「目標、見失いました」「海に逃げました」
「海軍の原子力潜水艦にでも攻撃要請するか……」隊長がつぶやいた。
ロスアンジェルスからほど近いロス岬海軍基地。ここに真太と村田は収監され、取り調べを受けていた。当初は、空母ドナルド・トランプから生還してきた軍人ということで、優遇を受けていたのだったが、先日の報道で明らかにされていた「空母内で御神乱とともに暴れまわっていた東洋人の存在」という事柄にひっかかり、急遽、取り調べを受けていたのだ。
「ですから、我々は御神乱とは無関係なんですって!」村田が弁明した。
「確かに、艦内で御神乱には遭遇しましたよ。それで、メルトダウンが始まって、すんでのところでオスプレイで逃げて来たんです」真太が言った。
「しかし、艦内にいた東洋人というのは、お前たちだけだ」
「本当ですって、俺たちは御神乱とは関係無いし、中島真理亜なんて女性には会ったこともない」真太が口を滑らせた。
村田は真太の方を向いて「しまった」という顔をした。
「ナカジマ・マリアと言うのか? その御神乱になった人間は」
「あ、いや……」真太が口ごもった。
「やはり、お前たちだったんだな」
と、そのとき、敷地内に警報がとどろいた。
「スクランブル! スクランブル! 敷地内に御神乱が侵入。施設を破壊している。総員、すぐに攻撃態勢を取って応戦しろ」
「真理亜だ」真太はそう思った。
「おい、この二人を房へ入れておけ」
真太と村田は再び留置された。
真理亜は、軍の施設や航空機、船舶等を破壊しながら、真太達の収監された施設へとやって来ていた。兵隊たちは応戦していたが、奇襲されて航空機等が破壊された状態では、小火器での応戦が精いっぱいだった。
そのうち、隣のサンディエゴ海軍基地からの援軍がやって来た。
「ガガーン。ガラガラ」真太と村田の収監されている留置場の屋根が崩壊した。見ると、カリフォルニアの青い空を背景にして真理亜の顔が見えた。
「真理亜!」真太がつぶやいた。次に「まりあーっ!」と大声で叫んだ。
「おい、今だ! 逃げよう!」村田が真太に促した。
「お、おう」
二人は留置所から飛び出すと、外に止めてあった一台のジープを奪い、軍の施設から東に向かって逃亡した。彼らのジープの後方では、ロス岬海軍基地が大爆発を起こし始めており、炎と黒煙に包まれていた。
「あれじゃーサンディエゴ海軍基地の方もやられたな」村田がジープを運転しながら、そう言った。
海岸一帯は炎と煙に包まれて、黒くカリフォルニアの空を焦がしていた。その炎の向こう側に真理亜の黒い巨体が見えていた。
「なあ、村田、海岸の方にまわってくれ」真太が村田に言った。
「ああ、いいけど……、何をするつもりなんだい?」
「ちょっとな」
二人の乗ったジープは、真理亜のいる海の方へ回り込んでいった。彼らが岸壁のそばに車を止めて太平洋の方を見ると、真理亜は、今まさに海に入って行こうとしていた。
その真理亜の後ろ姿に向かって、やおら真太は、声を限りの大声で叫び始めた。
「真理亜―! ありがとー!」
しかし、真理亜には真太の声が聞こえているのかどうか、無反応だ。
「真理亜―! 愛してるー!」
「真理亜―! 俺はお前のことを愛してるんだー!」
「俺はお前を必ず元に戻して見せる」
「ぜーったいに、お前を戻して見せるからなー」
「そしたら、俺と結婚してくれー!」
「真理亜―! 愛してる! 俺と結婚してくれー!」
真理亜の青白く光る背中に向かって叫び続ける真太だった。
相変わらず、真理亜には、その声が聞こえているのかどうか分からぬまま、真理亜の青白く光る巨大な背中が太平洋に沈んでいった。
村田は、そんな真太の行動を、呆気にとられた顔で真太を見ていた。
真太と村田が運転するジープ内に聞こえてくるラジオのニュース。ロスアンジェルスでの一連の事件を報道していた。
「本日、午後、ロスアンジェルス近郊のロングビーチに上陸した御神乱は、その後、アナハイムのディズニーリゾートで行われていたサンダース大統領の集会を襲いました。急遽その場から避難した大統領は無事で、付近で御神乱に襲われた人もいませんでしたが、建物の倒壊等により怪我をした人が多数出た模様です」「その後、御神乱は西海岸沿いにあるサンディエゴ海軍基地とロス岬海軍基地を破壊し、誘爆を起こした基地は、今もなお炎に包まれております」「御神乱はハンティンビーチ近くの海に消えた後、現在は、海軍の潜水艦部隊が御神乱の捜査を開始しております」
ロスアンジェルスの御神乱について、日本のニュースが報じていた。
「昨夜、アメリカカリフォルニア州アナハイム集会場に御神乱が出現し、サンダース大統領の演説会場は大混乱になりました。大統領は、専用ヘリコプターで会場を脱出して無事でした。その後、御神乱はカリフォルニア地区にある複数の軍施設を破壊した後、太平洋の海に消えたものと思われます」「この御神乱は、大戸島のものではなく、ホノルルとサンフランシスコに現れたものと同じ個体であると思われますが、先日、青島から拡散したとみられる御神乱ウイルスとの関連性しつきましては、いまだ分かっておりません」
レスリー・オーエンは、ニューヨークのイエローキャブの運転手だった。その日、彼は妻のスカーレット・ヨハンソンと子育てのことで朝から口論になっていた。彼ら夫婦は黒人だった。
昼過ぎ、レスリーがガソリンスタンドで給油中のこと、たまたま、そこを通りかかったスカーレットと口論になり、レスリーはスカーレットに怒鳴っていた。そして、彼が妻に手を上げようとしたとき、若いニューヨーク市警の警官が駆けつけて来て「動くな」と言った。
しかし、夫婦喧嘩のこと故、レスリーは警官の言うことなどに耳を貸さなかった。
「いや、誤解だ。俺たちは違うんだ」レスリーは警官にそう言い、身分証をポケットから出そうとした。
その瞬間、その白人の警官はレスリーの頭を至近距離から撃った。
「キャー!」レスリーはその場に崩れ落ち、スカーレットの悲鳴がその場に響いた。
「何てことをするの! 私たち、子どものことで夫婦喧嘩をしてただけだったのに……」
その白人警官の名前はサミュエル・ジョンソン。彼とスカーレットは、その後駆けつけて来た市警のパトカーに乗せられて連行されていった。
スカーレットは事情聴取され、サミュエルは逮捕された。
この事件は、すぐさま全世界のニュースに乗った。そして、またしても罪も無い黒人が白人警官に殺害された事件となり、BLM運動に火をつけた。はたして、全米でBLMの抗議運動およびデモが活発に行われ始めた。
そして、事件は起きた。デモの為に交通整理に駆り出されていた白人警官が、デモ隊に取り囲まれたのだ。暴徒化したデモ隊は警官に襲いかかった。パトカーや機動隊が導入される騒ぎとなり、現場は騒然となった。
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