第74話 神々との対決②

「ア、アスカ逃げるんだ! あれは神だ。僕らが敵う相手じゃない!」


 ヘルティウスを見たカケルが叫ぶ。絶望の表情を浮かべながら。


『あれが神……』カケルの叫び声を聞いて、誰かがそう呟くのが聞こえてきた。


 アスカの両親であるキリバスやソフィアは一刻も早くアスカのことを守りたい。そう思っているのだが、神二人を前にそのプレッシャーからか一歩も動くことができないようだ。


 そんな中、神二人が静かに動き出す。空中を滑るように動きながら、お互いに離れていくように。どうやらアスカを挟み撃ちにするようだ。何というか、神様のくせに潔くないな。


 直ぐさまアスカと相談して担当を決めた。アスカにはヘルティウスに集中してもらい、卑怯にも背後からアスカを狙っている転移の神アプペスは俺が担当だ。


 狙った位置に到達したのか、二人の神の動きが止まった。


「アスカ! 来る……」

(複合魔法、極寒吹雪アイス・ブリザード!)

「……ぞ?」


 アプペスが右腕を上げた動きに反応して叫んだカケルの声を遮るように、俺が無詠唱で放った極寒吹雪アイス・ブリザードがアプペスを中心に吹き荒れる。


 極寒吹雪アイス・ブリザード。その正体は、風操作Lv5切断のアンプテイション・ストームと氷操作Lv5氷の世界フロスト・ワールドの複合魔法。本来広範囲に影響を及ぼすこの魔法を、今回の俺は範囲限定で放っている。もちろん、範囲を絞った分その威力は増し増しなわけだが。


 魔力が10万を遙かに超えているであろう俺が放った、Lv5同士の複合魔法。それを喰らった神様はいったいどうなっているのか楽しみだ。


 遠くで動けなくなっていた仲間達はもちろん、アスカと対峙していたヘルティウスも突如現れた極寒吹雪アイス・ブリザードに度肝を抜かしているようだ。というか、アスカを目の前に固まるとか即死ものの隙をさらしてることに気がついているのか?


 およそ30秒ほど続いた極寒の嵐が晴れた後に出てきたのは、右腕を正面に上げ傷だらけになったまま凍り付いたアプペスだった。そして、凍り付いたアプペスは重力に従い落下し……


 ガシャン!


 あ、砕け散った。


 負けるとは思っていなかったが、思ったよりあっさり倒すことができたな。


「お、お、お、お、お前は……い、い、い、い、いったい、何を、何をしたんだぁぁぁぁぁぁ!!」


 あ、切れた。ヘルティウスとやらが盛大に切れやがった。


 まあ、無理もないか。自分と同じ神が目の前で殺されたんだ。動揺するなって方が無理だよな。それにアスカは身動き一つしてないからね。本当に何が起こったかわかってないんだろう。


「わ、わ、我々は神だぞ!? 神が、神が殺されるなんてあってたまるか!!」


 目の前で起こったことが受け入れられないのか、わめきちらす転生の神。最早、神としての威厳もへったくれもないな。


「えー、でも粉々になっちゃったよ? あれで生きてたらすごいよね!」


「そんなバカな……そんなバカなことがあってたまるか……」


 アスカの一言でアプペスとやらの死を理解したのか、ヘルティウスは呆然としながらブツブツ呟き始めた。


「こないなからこっちからいくよ!」


 そんなヘルティウスの態度に痺れを切らしたのか、アスカが先に仕掛ける。


「ヒッ!?」


 アスカの上段からの斬撃を、ヘルティウスは背中に背負っていた大剣を抜き、かろうじて受け止めることができた。


 その大剣は神が持つのに相応しく、黄金に輝いている。だがしかし、今その黄金の剣ですら受け止めきれないアスカの一撃に、ヘルティウスの顔に怯えの色が見える。


「なぜだ!? なぜこんな奴がいるのだ!? ええい、ブラウディ、アルマロス、お前達もこいつを何とかせい!」


 余裕を無くしたヘルティウスはなりふり構わず、格下の二人も戦闘に参加させようと怒号を飛ばした。慌ててブラウディとアルマロスが動き出すが、俺が邪魔はさせない!


(複合魔法、死の嵐デス・ストーム!)


 死の嵐デス・ストームは闇操作Lv5の死の呪いカース・オブ・デスと風操作Lv5の切断のアンプテイション・ストームの複合魔法だ。文字通り、その嵐に捕らわれた者は誰であろうと即死する。レジストするためには俺以上の魔力が必要だ。


 まず、死の嵐に巻き込まれたブラウディが膝から崩れ落ちた。おそらく即死だったのだろう。一方、アルマロスはスキル透過を発動させ、死の嵐の外に逃れようとしている。だがそれを見逃す俺ではない。


(複合魔法、炎の竜巻フレイム・トルネード!)


 今度の複合魔法はLv4同士の掛け合わせにした。炎操作Lv4の太陽爆発オーバーフレアと風操作Lv4の狂った竜巻レイジトルネードを合わせると、相手を焼き尽くすまで追尾する炎の竜巻の完成だ。


 必至に範囲外に逃れようとするが、炎の竜巻は探知で居場所がバレバレのアルマロスを追いかけていく。そして、透過の効果時間が切れたアルマロスは……一瞬で消し炭になってしまった。


「ま、また何もしていないのに……おま、お、おま、お前はいたっいぃぃぃぃ……」


 アスカの連撃を受けながらヘルティウスが奇声を上げる。明らかに自分との戦いに集中しているはずのアスカが、意識外の2人をいともたやすく魔法で倒してのけた。ヘルティウスにはそう見えているのだろう。未知の力に恐怖するのは、人間も神様も一緒だということか。


 それにしても、ヘルティウスはお世辞にも小さいとは言えない大剣でよくアスカの連撃を捌いているな。いや、正確には捌き切れてはいないのだが、致命傷になりそうな攻撃を優先的に捌いて、弱い一撃は鎧に当たるに任せている。鎧に傷がつき、少しずつダメージも与えているのだが、おそらく治癒魔法を使っているのだろう。身体についた傷は片っ端から治っていっている。この辺りは腐っても神様といったところか。


「キィィィィィ!」


 あまりの余裕のなさに、言葉を失ってしまったヘルティウスが反撃に出た。


 Lv5魔法の地獄の噴火ボルカニック・インフェルノ雷神の裁きインドラ・ジャッジメント、Lv4魔法の闇の力ダークフォース聖なる光線ホーリーレイ、果ては石の弾ストーンショット氷の弾アイスショットなどLv1の魔法まで手当たり次第に矢継ぎ早に放ってくる。


 しかし、その全てが俺の張った結界に阻まれアスカに届くことはない。


 逆にアスカが連撃の合間に浮かべた数百発の石の弾ストーンショットが、一斉にヘルティウスへと襲いかかった。


「ウガァ、ウゴォ、ウゲェェェェ!!!」


 ヘルティウスも結界を張って防ごうとしたが、耐えることができたのは最初の数十発だけで、残りのほとんどが直撃したようだ。黄金の鎧がボコボコにへこんで見るも無惨な形になってしまった。鎧から出ていた顔も変形して、イケメンが台無しになってしまったのだが、そちらは治癒魔法で直ぐに治したようだ。


 さて、さすがに10万もあるMPが切れるまで待つのは面倒くさいので、そろそろこの戦いも終わらせようか。アスカとヘルティウスではそれほどステータスに差があるわけではないので、俺が手伝って一気に決めさせてもらうとしよう。

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