第73話 神々との対決①

 ガキィィィン!


 ブラウディが振り下ろした斧をアスカの左腕が受け止める。とても生身の身体で受けたとは思えない金属音が辺りに響き渡った。


「なっ!?」


 表情はよくわからないがブラウディの口からは驚きの声がもれる。だが、そこはさすがに数々の星を滅ぼしてきた侵略者。驚いている間にも身体はしっかりと動いているようだ。


 右手に持った斧が止められた瞬間、左手の斧がアスカの首を狙ってなぎ払われる。


 ゴォォォン!


 しかし、その渾身の一撃も鈍い音を立ててアスカの右腕に阻まれた。


 怪しげなスキルを使い攻撃力を倍にしたブラウディだったが、49000程度の攻撃力じゃ55000を超えるアスカの防御力を突破できるわけがない。


 っと、ブラウディの攻撃に合わせてアルマロスが魔法の準備をしていたんだったな。使ってくる魔法は……やはり光操作Lv4の聖なる光線ホーリーレイか。結界を張ってもいいけど、毎度毎度結界じゃ面白くないからここは……


聖なる光線ホーリーレイ!」

闇の力ダークフォース


 アルマロスの聖なる光線ホーリーレイがアスカに届く前に、闇操作Lv4闇の力ダークフォースで生み出された闇の触手が、ブラウディごとアスカの周囲を球状に包み込んだ。


 アルマロスから放たれた数本の光線が、闇に吸収され消えていく。上手くいったようだ。即席魔法、闇の牢獄ダークプリズンといったところか。


 俺から聞いて暗闇になるとわかっていたアスカは、突然闇に包まれて動揺したブラウディを暗闇に乗じて殴り倒す。


 ドガ! ボコ!


「ウギャァァァァ!」


 アスカの周りの闇が晴れると、体中ボコボコにされたブラウディと、空中で目を見開いて驚いているアルマロスの姿が見えた。


「まさか、完全に死角からの攻撃だったのに……」


 アルマロスが何やらブツブツ言っているようだが、お前の魔法を防いだのは俺だからな。残念なことにこの俺に死角というものはないのだよ。それよりも、俺の大事な妹に向かって魔法を放った報いを受けてもらおうか。


石の針ストーンニードル


 俺が選択したのは土操作Lv1の石の針ストーンニードル。ちょっと確かめたいことがあるので、この全長五十センチメートルほどの氷柱のような石の針を十本ほど作り出し、一定間隔を空けてアルマロスへと突撃させた。


「クッ!? 透過!」


 一本目の石の針ストーンニードルが触れる直前にアルマロスが発した一言が、俺の予測を確信へと導く。侵略者達が次元の裂け目から出てきたとき、アオイが放った矢がアルマロスをすり抜けたからくりが明らかになったのだ。


 ついでにいうと、九本の石の針ストーンニードルがアルマロスの身体をすり抜けたが、十本目のそれをアルマロスは身体を捻って躱したことから、あの透過というスキルはおよそ五秒間という制限がありそうだ。


 それにしても、アオイの不意打ちの時にはスキル名なんて口にしていなかったのに、さっきははっきりと透過って言ってたな。今のアルマロスは随分余裕がないと見える。


 さて、気になっていたスキルのおおよその効果もわかったし、ヤツには大切な妹に向けて魔法を放った報いをきっちり受けさせなければ。あのスキルの弱点は二つ。スキルを発動させる前に不意打ちで攻撃を当てるか、透過時間を超えてダメージを与え続けるかだ。


 ということでこの魔法を受けてもらおうか。


太陽爆発オーバーフレア


 俺の意志一つでアルマロスの頭上に突如大爆発が起きる。


「ぐはっ!? な、なんで……」


 視界外からの突然の爆発に、身体を透過する暇もなく大ダメージを負ったアルマロスは驚きと共に地面へと落ちていく。アスカは現在進行形でブラウディをボコボコにしている最中だから、誰がこの魔法を放ったのか理解できていないようだ。


 ドガァァァァァン!


 奇しくも、アルマロスが地面に激突するのと、ブラウディがアスカに脳天を殴られて地面に激突するのが同じタイミングで起こった。隣同士で立ち上がる二体はどちらもボロボロだ。




「おい、アルマロス。このままじゃヤベェ。予定とは違うがあいつを呼ぶぞ」


「同感だね。僕なんか何が何だかわからないうちにやられていたからね。何て言うかあいつは僕らの手に負える相手じゃないよ」


 上空にいるアスカを警戒しながら、ブラウディとアルマロスが何やら怪しげな会話をしているのが聞こえてきた。その会話の後直ぐにブラウディが右のこめかみに指を置き、何かに意識を集中しているような態勢をとる。


 その直後に……


 ブゥゥゥゥゥゥン


 金属が震えるような音とともに、ブラウディとアルマロスの背後に先ほどとは比べものにならないくらい大きな次元の裂け目が現れる。


 その巨大な裂け目から現れたのは、意外にも小柄な人型の姿をしていた。神官のようなローブを着ているが、その色は黒に近い紫。髪は長いが見た目的には男性に見える。目が見えないのか、登場してからずっとその瞳は閉じたままだ。そんな怪しげな人物? が右手に黒い錫杖を持ち、次元の裂け目から音もなく地面へと降り立った。


(お兄ちゃん、この人も侵略者かな?)


(どうだろうか? とりあえず鑑定だな)



名前 アプペス(転移の神 ???)


 レベル ???

 職業  ???

 HP 100000

 MP 100000

 攻撃力 100000

 魔力  100000

 耐久力 100000

 敏捷  100000

 運   100000

 スキルポイント 0


 スキル

 神の力


 鑑定結果を見たとき、思わず『ブッ』と吹き出してしまった。だって、いきなり神様の登場だよ? ってか、こいつが悪の親玉なのか?


 何て考えていると、転移の神とやらの後ろからもうひとり次元の裂け目から現れる者が見えた。


「おや、アプペスよ。何やら聞いていた話と状況が違うようだが?」


 こちらは金色に輝く鎧を全身に纏った、彫りの深い顔立ちをしているイケメンだ。一見、人間にも見えるが、転移の神を呼び捨てにしたところを見ると、こちらも同格の存在なのだろう。首から提げたペンダントのような物が青白く光り輝いており、そこだけが妙に浮いている気もするが。



名前 ヘルティウス(転生の神 ???)


 レベル ???

 職業  ???

 HP 100000

 MP 100000

 攻撃力 100000

 魔力  100000

 耐久力 100000

 敏捷  100000

 運   100000

 スキルポイント 0


 スキル

 神の力


(おや、これはいったいどういうことかな?)


 なぜ、こんなところに転生の神が? そんなことを考えようとした矢先に遠くから震える声が聞こえてきた。


「へ、ヘルティウス様!? なぜここに?」


 俺達の派手な戦闘音で目を覚ましたのか、呆然とした顔で今現れたヘルティウスを見つめるカケル。その横ではアオイやマコトも同じような表情でヘルティウスを見つめている。


「アプペス。確か我々が呼ばれるのは、障害となる物を全て排除してからではなかったのか? どう見ても、我が送り込んだエサが生きているように見えるが?」


 カケルの問に一切反応することなく、そう言ってのけるヘルティウス。


 おいおいおいおい、今、しれっとヤバいこと言わなかったかい? その発言を聞くに、まるで君が悪の親玉みたいだぞ。


 俺と同じ結論に達したのか、アオイの口から『信じられない……』って声が聞こえてくる。


 ちょっと、状況を整理するぞ。こういう時に思考加速は便利だな。


 えーと、侵略者は転移の神の策略によってこの世界に来たんだけど、そもそもカケル達が出会っていた転生の神自体が黒幕だったわけで……じゃあ、システィーナとヘルティウスの代替わりの瞬間を狙って、アプペスとやらが呪いをかけたというのは真っ赤なウソってわけで……今のヘルティウスのエサ発言から考えると、カケルやアオイ、マコトは歯ごたえのある雑魚と戦いたいブラウディ達にこの世界を滅ぼさせるためのエサってことなのか?


「ブラウディよ。今の状況を速やかに説明せよ」


 ヘルティウスの言葉を受けてか、アプペスがブラウディに命令する。これまでのやりとりから見るに、アプペスよりヘルティウスの方が格が上ということなのかな。


「ハッ! アプペス様が仰るように転生者であるカケル、アオイ、マコトは我々が本気を出すまでもありませんでした。もちろん、そこに転がっている現地人達はさらに遠く及ばず……」


 ブラウディが片膝を着いてアプペスの問に答える。アルマロスも同様の姿勢だ。この神達がいないときは、あいつとか何とか言ってたくせに目の前にいると様をつけるんだな。


「それなのになぜヤツらは死んでいない?」


 アプペスの言葉に威圧が混じる。どうやら随分と不機嫌なようだ。


「恐れながら、ひとり得体の知れない者が混ざっておりました。その者は本気を出した我々を圧倒し、ドラゴディアはすでに物言わぬ骸に……」


 ブラウディがチラッと見た先に黒焦げになったドラゴディアの屍が横たわっている。目を瞑っていてもそれがわかるのか、ドラゴディアの屍を一瞥したアプペスの怒りの威圧が霧散する。


「どういうことかな、ヘルティウス殿? この世界にこやつらを倒せるような者はいないと聞いていたのだが?」


 侵略者達の不手際かと思いきや、伝えていた情報に誤りがあった。そう言わんばかりのアプペスの物言いに、ヘルティウスが明らかに面白くない顔をする。これはもうヘルティウス黒幕説で確定だな。


「ふむ、どうやら異物が混入していたようだな。先代からは何も引き継いでいなかったんだが……確かにこちらのミスのようだな。どれ、我が自らその異物を排除してやるとするか」


 そう言ってヘルティウスは空を見上げる。その目には、まだ子どもと呼んでも差し支えないほど小さな女の子が映っていた。


「情報不足とは言え、あのような小娘に遅れを取るとはなさけない。こいつらの失態であることにはかわりない。僭越ながら私もお手伝いさせていただきましょう」


 どうやらヘルティウスだけに任せておくのは体裁が悪いと思ったようだ。アプペスも錫杖を構え、戦闘態勢へと移行する。


(アスカ、装備を変えておくんだ。神とは言ってもそのステータスは10万固定らしい。装備を変えれば11万を超えるアスカなら勝てるだろう。俺も手伝うしね!)


(大丈夫! 鑑定したときにもう装備は変えてるから! でも、神様って倒しちゃっていいのかな?)


(どう見てもあいつらはこの世界を滅ぼす気だ。そんなヤツら放っておけるわけないだろう。アスカ、この世界を……みんなを守るぞ!)


(うん!)


 スキルがひとつしかないっていうのが気になるが、こっちだって全スキルを網羅している。となれば、純粋なステータスがものを言うはずだ。こんなところでアスカを死なせるわけにはいかない。もちろんアスカの家族や仲間達も。


 俺は2度目の転生でもうアスカを独りぼっちにしないと誓ったのだ。申し訳ないが、神だろうが何だろうが全力で叩き潰させてもらうぞ!


 こうして俺達の神との戦いが始まった。

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