第72話 最終決戦④
ルークの一言に俄然やる気を出したアスカが、重力魔法で空を飛びドラゴディアの前に立ちはだかった。
「ほほう、転移魔法のお嬢ちゃんじゃな。てっきり逃げ出したのかと思っておったが、わざわざ戻って来てくれるとはありがたいのぅ。こやつらを倒した後は、お主を探すつもりじゃったから手間が省けて助かるわい」
ドラゴディアは、魔法の一発でカケル達全員を戦闘不能にしたことで、随分といい気になっているようだが、果たしてその余裕がいつまで持つかな?
ドラゴディアの竜鱗強化は防御力を二倍にするスキル。今のあいつは防御力42000ほどになっている。しかし、アスカの素の攻撃力は素の状態で18000、身体強化も入れれば実に55000を超えているのだ。
この状態で身体強化が付与された装備を一つでも身につければ、10万を超えてしまう。今はそこまでするほどの相手じゃないから通常装備だけどね。
「黒いドラゴンさん。私の大事な人達を傷つけたから、お仕置きしちゃうからね!」
アスカがドラゴディアの気を引いているうちに、俺は重力魔法で倒れている人達を一カ所に集め治癒魔法を施しておく。ただ、
ということで、彼らの周りに結界を張っておく。
「ほほほ。このわしにお仕置きとは随分強気に出おるのぅ。どれ、ちょっと格の違いを教えてやろうかのぅ」
アスカの実力に全く気がついていないドラゴディアが戦闘態勢に入る。
(アスカ、みんなは一カ所にまとめて結界を張った。心置きなくお仕置きしていいぞ」
(ありがとう、お兄ちゃん!)
ふふふ。倒れているみんなには申し訳ないが、こんな状況でもアスカにお礼を言われるとテンションが上がってしまうな。さて、俺は上空に待機している残りの侵略者でも警戒しておくか。そうすればまたアスカにお礼を言われるかもしれないからね。
俺がそんなことを考えているうちに、どうやら戦闘が始まったようだ。
「上手く避けるんじゃぞ!」
まるで自分が強者であるかのようなセリフを吐きながら、ドラゴディアが自慢の尻尾をアスカに向かって叩きつけてきた。攻撃力は変わっていないが、防御力が上がったことでその尻尾も相当堅くなっている自信があるのだろう。だが、相手が悪かったな。
アスカは自分に向かってくる尻尾に向かって、持っていた剣を無造作に振るった。
『ヒュッ』という音とともに尻尾が分断され、切り離された尻尾の先が地面へと激突する。
「ギャァァァァァ!」
一瞬遅れて響き渡る悲鳴。その悲鳴を発した黒色のドラゴンは先ほどまでの余裕はどこへやら、目を血走らせ激しく呼吸をしながらアスカを睨みつけ叫び声を上げた。
「な、な、何をしたぁぁぁ! なぜわしの尻尾が切り落とされてるんじゃぁぁぁ!?」
今ドラゴディアの鱗は光すら吸収してしまいそうな漆黒に変化している。つまり、竜鱗強化とやらがまだ効いている状態のはずだ。おそらくこのドラゴディアとやらは、この状態で傷を負ったことなどないのだろう。だからこそ、これほどまで怒り狂っているのではないだろうか。
「お仕置きです!」
それに対して全くのマイペースを崩さないアスカ。そう考えると、アスカよりも強い生き物なんてこの世にいるのだろうか。もしそんな存在がいたとしたら、俺が守ってやらなければ。
アスカがドラゴディアの尻尾を切ったところで、上の二人にも動きがあった。鎧の男から『信じられん』という呟きが聞こえた後、二人がいつでも戦闘に加われるように身構えたのだ。
俺はその二人の動きを警戒しつつ、アスカとドラゴディアの攻防に目を向けた。
「グォォォォー!」
ドラゴディアの咆哮とともに、闇の触手がアスカに迫る。接近戦は危険だと感じ、魔法攻撃に切り替えてきたようだ。
「
その闇の触手に対し、アスカは光魔法Lv4の
「ギャァァァァ!」
再び響き渡るドラゴディアの叫び声。ドラゴディアは光耐性を持っているはずだが、アスカの魔力はドラゴディアの倍以上。その耐性を突き破ってダメージを与えたようだ。
「まさか、魔力までも!?」
俺の耳に、ピエロの恰好をしたアルマロスの驚いた声が聞こえてきた。アルマロスは魔力で勝負するタイプだからだろう、魔法でもドラゴディアを圧倒したアスカにさらに警戒を強めたようだ。
(アスカ、上の2人に動きがあった。このまま参戦されるのも面白くないから、そこのトカゲをさっさと倒しちゃおう)
(うん、わかった!)
「お主、ただで済むと……」
「
何かを語りかけたドラゴディアの脳天に、巨大な稲妻が落ちる。目も眩むような光と轟音が辺りを支配し、それらが収まった後には、黒焦げになったドラゴディアの巨体が地面に横たわっていた。最初から黒かったから、黒焦げになってもあまり変化はなかったけど……
「ま、まさかドラゴディアが敗れるとは!? アルマロス、最初から全力でいくぞ! 狂戦士化!」
「う、うん。こんなヤツがいるなんて聞いてないよ!? 覚醒!」
ドラゴディアが倒されたところを見て、上の2人が慌てて何かのスキルを使ったようだ。鑑定してみると狂戦士化が攻撃力を2倍に、覚醒が魔力を2倍に上げる効果だった。
(アスカ、上の2人の攻撃力と魔力が上がった。ブラウディっていう鎧男の方は問題ないが、ピエロ姿のアルマロスの方は気をつけた方がいいな。魔力がほんの僅かだが今のアスカを上回っているからな)
ブラウディよりもアルマロスの方が尖ったステータスになっている。攻撃力が極端に低い代わりに、魔力がその分高い。だからこそ、今のアスカを傷つける可能性があるわけだが……
(お兄ちゃん、あのピエロさんの魔法から私を守ってね! 先に鎧男さんの方から倒すから!)
おお、愛しの妹に頼られてしまった! あんなにかわいい顔と声の妹に『守ってね!』なんて言われたら、もう守るしかないじゃないか!
正直、俺は自分のステータスを見ることができない。というかステータスがあるかどうかすらわからない。だから、自分の魔力を確かめるために、アスカの魔法と比べてみたことがある。
その時は全力のアスカの魔法と同じ威力の魔法を出すことができた。つまり、魔力は10万を超えていることは確かだ。その時、アスカは『すごいすごい!』って喜んでくれたんだけど……実はあれ、俺の方は全力じゃなかったんだよね。
ということで、俺の魔力の上限はわからないけど、少なくともアルマロスよりは多いことは確かだ。愛する妹の頼みを全力でやり遂げなくてはならない!
「こんな奴がいるとは聞いてないし、信じられん。たが俺達も黙ってやられるわけにはいかんからな。アルマロス、卑怯だなんて言ってられん。2人がかりでいくぞ!」
「わかったよう。僕が魔法で援護するね。接近戦は任せたよう!」
侵略者の2人は予想通り、2人がかりでアスカを攻めるようだ。だが、卑怯だとは言うまい。なぜならこちらも2人いるからな!
まずは鎧男のブラウディが両手に持った斧を両肩に担ぎながら、アスカに向かって急降下する。一方、アルマロスは両手を前に突き出して、いつでも魔法を放てる構えをとっていた。
(アルマロスは光操作を持っているから、使って来るとすれば
俺はアルマロスが使うであろう魔法を予測し、防御のための魔法を準備する。
「ガァァァァァ!!」
その場を一歩も動かないアスカに向けて、ブラウディが右手に持つ斧を振り下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます