第71話 最終決戦③
ドラゴディアが放った灼熱の溶岩がアオイに降りかかろうとしたその時、ソフィアが放った水魔法Lv5の
同じLv5魔法だが、あまりの魔力の違いにソフィアの
いったん退避したアオイ達にさらに迫り来る溶岩を、こっそり俺が結界で封じ込めようとした矢先にその溶岩が突然姿を消した。
「ほほう、人が増えよったか。面白い。こやつらもわしが相手していいんじゃろ?」
どうやら、ドラゴディアが援軍を見て自ら溶岩を消したようだ。あの溶岩は出しているだけで相当魔力を消費するのだろう。人が増えたことで殲滅するのに時間がかかり、魔力の消費量まで増えるのを嫌ったというところか。
「僕に矢を放った女の子は残しておいてよ! っていうか、さっきのは危なかったんだからね!」
小柄なピエロ姿のアルマロスがほっぺたを膨らませながら、ドラゴディアに抗議している。その姿だけを見れば、微笑ましいのだが……
「ガハハ! もちろん俺も構わないぞ! 雑魚が何匹増えようが大した違いはないだろうからな!」
全身に黒い鎧を身に纏ったブラウディが豪快に笑う。
2人の許可を得たドラゴディアが改めてこちらへと向き直り、大きな鼻から「ブフゥー」と息を吐き出した。
もちろんその間にこちらも戦闘準備を整えていた。ドラゴディアの正面にはカケルが剣を構えて立ち塞がり、その後ろにキリバスとソフィアが控えている。どうやらお互いの役割を交換しているようだ。
その右側にはルークとアオイがそれぞれの武器を構えて、油断なくドラゴディアの隙を窺っている。若干、2人の距離が近いのが気になるが……
さらにカケル達の左側にはリンとマコトが控えている。こちらはリンが前に出て、マコトが後方支援といった立ち位置だ。
そして、軍事帝国ネメシスの【隠密】シルバとクランホープのミーシャが気配を消しながら、ドラゴディアの後方に回り込むように移動し、王都のギルドマスターであるハンクは大胆にもカケルの横に並び立つ。【雷帝】サンドラと【炎帝】グリモス、それからカケルとアオイの師匠である【魔法剣士】ケンヤはドラゴディアから最も遠い位置で待機し、上空に逃げた二体の侵略者を監視しているようだ。
最後に王都の冒険者【魔剣王子】クロムと神聖国家クラリリスの【聖女】セイラはカケル達のやや後ろに位置し、どのグループにも助っ人に入れるように準備している。
「アスカもたたか……」
「アスカは下がっていてくれ! 万が一の時には……迷わず逃げてくれ」
みんなが戦闘態勢に入るのを見て、アスカが嬉しそうに前に出ようとしたのだが、その動きを制するかのようにカケルの鋭い声が飛ぶ。
「えっ、えっ、でも……」
「アスカ、カケルさんの言うことを聞いて。私達全員でかかってもこのドラゴン一体倒せるかどうかわからないわ。なぜかあなたは転移魔法を使えるみたいだから、自分の身に危険が迫ったら迷わず逃げるのよ」
次にアスカの声を遮ったのは母親であるソフィアだ。確かにアスカの実力を知らなければ、まだ10歳の女の子を誰もが好き好んで戦闘に参加などさせないだろう。
(アスカ、ここはみんなに任せて危なくなったら助けてあげるとしよう)
(でもでも、アスカだって戦いたい!)
アスカはその後もしばらく不機嫌だったが、俺がどうにかなだめすかして、とりあえず最初はこの戦いを見守ることを了承させた。
「フォッフォッフォ、どれ、人数も増えたことだし改めて自己紹介するとしよう。わしの名はドラゴディア。ちーっとばかし頼まれて、お主らを皆殺しにさせてもらうぞ。抵抗するなとは言わん。むしろ、頑張って抗ってわしを楽しませてくれ」
真っ黒なドラゴンの口から軽い口調で発せられた言葉の内容は、決して軽いものではなかった。だがそれを実行する力を目の前の黒竜は持っている。もちろん、アスカと俺がこの世界にいなければの話だが。
「みんな、いくぞ!」
ドラゴディアの死刑宣告にも等しい言葉を聞いたカケル達も、いよいよ覚悟を決めたようだ。カケルのかけ声とともに、侵略者対全世界の代表者16名の世界の命運を賭けた戦いが始まった。
まず動き出したのはドラゴディアの両サイドに位置するリンとルークだった。この中でアスカを除くと最も攻撃力の高い二人が、左右から同時に黒竜へと迫る。
「稲妻突き!」
「飛刃斬!」
リンは槍術Lv5の必殺技「稲妻突き」をルークは剣術Lv4の必殺技「飛刃斬」を同時に放つ。元々攻撃力が高い2人が攻撃力に補正がかかる必殺技を使えば、ドラゴディアに傷をつけることは可能だ。現にドラゴディアは2人の必殺技を嫌い、上空へと逃げようとしている。
「させない!」
大きく広げた翼にミーシャの弓術Lv5の必殺技「バーニングショット」が放たれた。炎を纏って飛んでいく。並の魔物なら2~3体まとめて消し炭にするほどの威力だが……
『バシッ』と音を立てて弾かれる炎を纏った矢。いくら防御力の低い翼とはいえミーシャの攻撃力ではかすり傷一つつけられない。それはドラゴディアの不意を突いてシルバが放った、短剣術Lv4の必殺技「急所切」も同じだった。
「魔法攻撃いくぞ!」
再びカケルの鋭い声が響き渡る。物理攻撃が効かないとわかるや否や魔法攻撃に切り替えるようだ。
この場でLv5の攻撃魔法を放つことができるのは8人。カケルとケンヤの「
これらの魔法が時間差で一気にドラゴディアを襲う。上空からは巨大な稲妻が、地面からは地獄の溶岩が、周りには荒れ狂う竜巻が、さらにドラゴディアの巨体を押し流そうとする大津波が、そしてそれらの全てを凍り付かせるかのような圧倒的な冷気が辺りを支配した。
しかし、これだけのLv5を集めてできたことは飛び立とうとしたドラゴディアを地面へと押し戻すだけだった。このLv5魔法の波状攻撃も彼の鱗を傷つけることはできなかったのだ。
物理攻撃も魔法攻撃も効かない。わかってはいたが、このメンバーではドラゴディアに僅かなダメージを与えるのも厳しい。誰もがそう思った矢先に、再びドラゴディアに斬りかかる人影があった。
「断鉄斬!」
激しい魔法の煙幕に紛れ、ルークがドラゴディアの首めがけて剣を振り下ろしていた。
そう、ドラゴディアは全ての攻撃を防いだわけではない。ルークとリンの攻撃は避けたのだ。つまり、ルークとリンの攻撃だけはドラゴディアの敗北に繋がる可能性があるはずだ。
決まる! ルークも必殺のタイミングに思わず笑みがこぼれていた。
が……
「竜鱗強化」
ドラゴディアがその言葉を発した途端、黒光りしていた鱗がどんな光も吸収してしまいそうな漆黒に変わる。
ガキィィィィン!
その直後、この場にいる全員の心を折るのに十分な音が響き渡った。
ドラゴディアの鱗がルークの剣を弾き返した音が……
「ホッホッホ、わしにこれを使わせるとは中々よい攻撃じゃったの。じゃが、察しの通りわしが『竜鱗強化』を使うと防御力が2倍になるのじゃよ。たくさんでお膳立てしてもらったのに悪かったのう。お礼に一瞬で終わらせてやろうぞ」
「やばい、
「まずい、
危険を察したカケルが光魔法Lv5「
柔らかな光とキラキラした光の結界がみんなを包み込む。
「
次の瞬間、ドラゴディアの身体から噴き出した黒い闇が結界を覆った。
バリン!
二重の結界は僅かな間も持たずに破壊され、辺りを闇が覆い尽くす。あまりの魔力の違いに耐えきれなかったようだ。
(やばい、これは
俺は慌てて
「む、わしの
俺が魔法を消したことに気づいたドラゴディアが、警戒してか低い唸り声を上げているが今は無視だ。
唯一無事なアスカがキリバスとソフィアの元に駆け寄る。
「ア、アスカ逃げて……」
ソフィアの声は弱々しいが、かろうじて生きているようだ。俺の魔法が間に合ったようでよかった。だが、出てきた言葉はアスカを心配するものだった。隣のキリバスも『逃げろ……』と声を縛り出している。
他のメンバーもかろうじて生きてはいるようだが、口から出てくるのはみな「アスカ逃げろ」だった。
「私、戦いたいのに……」
みんなが死んでいないことにホッとしつつも、戦力としてカウントされていないことにがっかりするアスカ。
「はて? お主は先ほどの転移娘じゃな。なぜお主だけ倒れておらんのじゃ?」
みんなの元に駆け寄るアスカに、ドラゴディアの目が鋭く細められる。ドラゴディアのターゲットがアスカに移ったことを悟ったメンバー達が、口々に「逃げろ」と繰り返す。ますますしょんぼりするアスカだったが……
そんな中、ルークが発した言葉だけはみんなと違っていた。
「ア、アスカ。あいつらを、あいつらを倒してくれ……」
どうやらルークと一緒に行ったレベル上げは無駄ではなかったようだ。ルークだけはアスカならこいつらに勝てる可能性があると信じてくれている。
「任せて、ルーク!」
ルークの言葉に俄然やる気を出したアスカが、侵略者達を前についにその力を解放するときが来た。
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