第70話 最終決戦②

 アスカがまず向かったのは王都の冒険者ギルドだ。ここにはアスカとルークの両親、クランホープのキリバスとソフィアが待機しているはず。ギルドのドアを開けると、受付の前に2人はいた。さらにマルコの母親であるジェーンの姿も見える。


「アスカ! お前はルークと一緒にいるんじゃなかったのか? どうしてこんなところに?」


 入り口から入るアスカを見て、キリバスが駆け寄ってきた。その後ろにソフィアとジェーンも続く。


「お父さん、お母さん、カケルがみんなを呼んで来てって。グリモスさんとサンドラさんのところに侵略者が3体現れて、とにかく人数が必要だって」


 早くみんなの元に戻りたいアスカは説明を省きすぎてるようだ。


「いや、みんなを呼ぶって言ったってどうやって行くんだ? もちろん、助けに行きたいけど今から向かって間に合うのか?」


 説明不足だから当然キリバス達は困惑する。


「うー、とりあえず時間が無いからみんな手を繋いで! 後でちゃんと説明するから!」


 おそらく何も理解していないだろうけど、アスカの勢いに押されキリバスとソフィア、そしてジェーンが手を繋ぐ。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺も連れて行ってくれ!」


 アスカがキリバスに触れて転移しようとしたとき、ギルドの奥から現れたのはギルドマスターのハンクだった。その手には前のアスカに貰った神の掌ゴットバルムが握られている。


 そして、ハンクがジェーンの肩を掴んだ瞬間、アスカの空間転移テレポーテーションが発動した。




▽▽▽




 続いてアスカが転移したのは聖都の冒険者ギルドだ。


 突然の空間転移テレポーテーションに理解が追いついていないキリバス達を置いて、アスカはギルドの中へと入っていく。後ろから『アスカが空間転移テレポーテーションを使えたなんて……』何て声が聞こえてくるが今は無視だ。


 中ではSクラス冒険者であり、聖女としても有名なセーラと王都から戻ってきたケンヤがいた。


 アスカは二人の腕をむんずと掴むとギルドの外へと飛び出し、全員に手を繋がせて空間転移テレポーテーションした。

 



▽▽▽




 アスカが最後に向かったのは帝都の冒険者ギルドだ。ここにはSランク冒険者であり、帝都の切り札である隠密のシルバとたまたま近くにいたのでここで待機してもらっていた、同じくSランク冒険者の魔法剣士クロムが待っていた。さらに嬉しいことにクランホープの一員であるミーシャの姿まである。


 しかし、俺が喜んだのも束の間、アスカが有無を言わさず強引に腕を取り、3人をギルドの外へと連れ出した。


 ギルドの外で待っていたキリバスの腕を掴み、全員が手を繋いでいるのを確認したアスカは、すぐさま空間転移テレポーテーションを発動させた。もちろん行き先は辺境の島だ。




▽▽▽




「みんなこっち!」


 あまりの急展開に言葉も出ない9人だったが、もとより情報は伝わっていたのだろう、空間を転移したという異常事態は頭の隅に追いやって、カケル達が戦っている場所へと向かうアスカを追いかけていった。



~side ルーク~


 カケルのおかげでアスカだけは避難させることができた。だが、ここからは相当苦しい戦いになるだろう。もしかしたら、アスカがみんなを連れてくるまでもたないかもしれない。


「あれれー? なんかひとり減っちゃったよう。っていうか今の子、空間転移テレポーテーションしなかった? 僕らだってできないのにすごいねぇ!」


 アルマロスという名のピエロはアスカが転移したのを目敏く見ていたようだ。クソ! これじゃあ、俺達がやられてしまったら、あいつらは間違いなく次の標的をアスカにしてしまう。


「まあまあ、逃げ出した者は放っておいてじゃな、わしはこいつらと遊びたいんじゃが構わんな?」


「ああ、先の戦いでは俺がやり過ぎちまったからな! いいぜ、ここはドラゴディアのじいさんに任せるとしよう」


「あははー、僕もいいよう! 後で僕に矢を放った女の子さえ貰えればね!」


 しめた! どうやらブラウディと言う鎧男と、アルマロスは見物にまわるようだ。3体同時に相手をするよりよっぽど勝算が高くなる。ここは他の2体が出てくる前に倒しきらなければならないな。それにしてもあのピエロ、俺のアオイを目の敵にしやがって。絶対後で後悔させてやる……


 侵略者達の会話を聞いた俺達は、スッと目配せをして作戦を確認した。どうやらみんな俺と同じ考えのようだ。まずはあの黒いドラゴンを全力で倒す。ステータス的には敵わないが、全員で力を合わせれば何とかなるはずだ! そう考えて俺達はドラゴディアと対峙した。



「それじゃあ、いくぞい! 上手く避けるのじゃよ!」


 俺達の目の前に降り立ったドラゴディアは、俺達にそんな言葉を投げかけて大きく息を吸い込んだ。


「まずい! 散開!」


 それを見た途端にカケルが叫んだ。カケルは危険察知のスキルを持っている。あいつがこれほど切羽詰まって叫ぶということは、それほどのことなのだろう。


 全員がその場から飛び退いた。


 それと同時にドラゴディアの口から吐き出される炎のブレス。先ほどまで俺達が立っていた地面があまりの高温に融解している。


 さらにはその余波で俺達全員が吹き飛ばされてしまった。


「ほほほ、もろいのぅ」


 たった一発のブレスで俺達に大ダメージを与えたドラゴンは面白そうに笑っている。


 ガキィィィン!!


 その時、ドラゴンの背中に槍を突き立てる者がいた。俺達の中で唯一空を飛べるリンだ。彼女だけは後方に飛び退いた俺達と違って、空に逃げていた。そして、ブレスで巻き上がった砂埃に紛れて上空から急襲したというわけだ。


「ん? 今何かしたのかのぅ?」


 だが攻撃力17000を超えるリンの一撃も、耐久力21000を超えるドラゴディアの鱗に傷をつけることは叶わなかった。


 そのリンにお返しとばかりにドラゴディアの尾が迫る。


「チッ!」


 リンは忌々しそうに舌打ちをしながらドラゴディアの背中を離れ、俺の横に降り立った。


「ルーク、この中でうち以上の攻撃力を持つのはアンタしかおらん。ウチらが囮になるから、きついの一発頼むわ」


 リンが僕の耳元で囁く。目の前のドラゴンは魔力の方が高いから、ダメージを与えることができるとしたら俺の物理攻撃だけということか。それでも19000の攻撃力じゃ届かないかもしれない。


氷の世界フロスト・ワールド!」

切断の嵐アンプテイション・ストーム!」


 ドラゴディアがブレスを放ち終えた隙を突いて、カケルとアオイの魔法が炸裂する。共に操作系最高とされているLv5の魔法だ。


 ドラゴディアを中心に急速に広がる氷の世界。さらにそこに現れる巨大な竜巻がドラゴディアの巨体を飲み込んでいった。


 俺達はそれぞれの防具に付与された結界を発動させ、冷気と暴風から身を守る。Lv5魔法はその威力が強力すぎるため、味方も巻き込んでしまうところが欠点のようだ。その欠点を補うために、俺達は全員結界が付与された防具を持っているのだが……MPがゴリゴリ削られていく。


 数十秒後、氷の世界と竜巻が消滅し見通しがよくなった森の中には、傷ひとつないドラゴディアが笑いながら立ちはだかっていた。


「グワッハッハッハッハ! 中々の魔法じゃが、ちーっと足りなかったようじゃな。どれ、本物の魔法という者をこのわしが……ん?」


 どうやら高笑いしているドラゴディアも気がついたようだ。目の前の敵がまた一人減っていることに。


 俺は竜巻の陰に隠れてドラゴディアの真横へと回り込んでいたのだ。そこで高笑いしているドラゴディアの隙を突き、ヤツの首を狙って渾身の必殺技をお見舞いしてやった。


「断鉄斬!」


 19000の攻撃力に加え、鉄をも断ち切る必殺技。オリハルコンの剣なら折れる心配もない。


 ギィィィィン!


 俺が放った必殺技がドラゴディアの首を捉えたのだが……


「イテテテテ、何とわしの自慢の鱗に傷をつけおったか!」


 俺の剣はドラゴディアの首に、僅か数センチメートルの傷をつけただけで弾かれてしまった。


「あはは! ちゃんと探知を使わないからそんな不意打ちを喰らうんだよう!」


「うるさいわい。それじゃあ実力に差がありすぎて面白くないんじゃよ」


 腹を抱えて笑っているアルマロスに、機嫌の悪さを隠そうともしないドラゴディア。しかし、このやりとりが戦闘の最中に行われていることからも、俺達は全く彼らの脅威になっていないということだろう。


 現に俺の必殺技が弾かれた時点で、もう彼らに通用する攻撃はないから。


「さて、わしの鱗を傷つけてくれたお礼に、本物の魔法というものを見せてやろう!」


 まずい、ヤツが持つ操作系は炎と闇だ。23000の魔力を持つドラゴディアの本気の魔法など防げる気がしない。


 俺達は全員で一カ所に固まり、魔法攻撃に備える。


 残る二人の侵略者も危険を察知したのか、さらに上空へと距離を取った。


「それ、地獄のボルカニック・噴火インフェルノ


 気軽にはなったその言葉とは裏腹に、地面から何本もの溶岩の柱が吹きだし、辺り一帯と埋め尽くしていく。俺達は全員でありったけの魔力を込めて結界を張ったのだが、あっさりと溶岩に溶かされてしまった。慌てて後退する俺達に、更なる溶岩が迫ってくる。


氷の盾アイスシールド!」

空気の盾エアリアルシールド!」

炎の盾フレイムシールド!」

闇の力ダークフォース!」


 迫り来る溶岩をカケルが氷の盾を出して、アオイが空気を圧縮した盾を出して、マコトが炎の盾を出して防いでいく。ただし、その盾で溶岩を止めることができるのは一瞬だけだった。そこで、その一瞬を利用してリンが闇の鞭を操り、みんなを後方へと投げ飛ばしていく。


 だがそれも俺達の寿命を僅かに延ばすに過ぎなかった。無慈悲に迫る溶岩はその勢いが衰えることはない。


 次第に、魔法が間に合わなくなる。


「もう、だめかも!」

「アオイィィィ!」

大津波ダイタル・ウェーブ!」


 氷の盾が間に合わず、目の前に迫った溶岩を見てアオイが弱音を吐いたその時、俺の叫び声に重なって懐かしくも安心感のある声が響き渡った。

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