第67話 vs 侵略者③

 アスカがみんなの武器を新調してクランホープのハウスに戻ったときには、そこには誰もいなかった。

 ただ、テーブルの上にはメモが置いてあり、そこには侵略者の情報が入り、みんなでツインヒル平原に向かったことが書かれていた。

 それを見たアスカは直ぐにツインヒル平原へと空間転移テレポーテーションし、探知で戦っているみんなを見つけて文字通り飛んで行った。


「アスカ!? アスカ、そいつから直ぐ離れるんだ!」


 アスカの完全治癒フルキュアで復活したルークが、身体を起こしながら叫ぶ。なぜかってそんなことを言ったのか、それは、アスカは侵略者の直ぐ横に浮いていたからだろう。


「ウガァァァァァ、テキ、コロスゥゥゥ!」


 俺はアスカの横でホバリングをしながら下品な言葉を発している、巨大な昆虫人間のような侵略者を鑑定してみた。


(なるほど、各種ステータスが2万近くあるな。これじゃあ、みんなやられちゃうわけだ)


(みんなの武器に身体強化をつけてきてよかったね!)


(ああ、これがあればルーク以外のメンバーもこいつとまともにやりあえるだろう)


 俺とアスカの脳内会話中に、巨大な侵略者が三本ある腕のうちの一本を振り上げ始めた。身体のバランスを見るに、元々は四本腕だったのだろうが、どうやら一本は斬りすてられているようだ。あの耐久力相手に傷をつけられるとしたら、おそらくルークの仕業だろうな。


「危ない!」


 誰かの声が聞こえた気がするが、その時にはもうアスカはカケルの目の前へと移動していた。アスカを狙っていた侵略者の腕が空を切る。


「ギギィ!?」


 機械質でわかりづらいが、驚いたような声が背後から聞こえてきた。というか、このドリューケンとやらはまともにしゃべれないんだうか? さっきから唸り声ばっかりだし、たまに出てくる言葉は片言だし……


「はい、カケルさん! アスカが作った武器です!」


 そんな侵略者の驚きの声を余所に、アスカはカケルに片手剣を差し出す。この時のために作った一品だ。オリハルコンの刀身に"鋭利"、"硬化"、"軽身"、"身体強化"、"聖属性"の5つの付与が施されている。刀身と柄を繋ぐガードの真ん中には一対の羽根のマークが――


「こ、これは……」


 この美しい刀を見て息を呑むカケル。さらに鑑定することでその性能に目を見開く。


 っと、驚いているカケルを置いて、アスカはアオイの前に素早く移動していた。そして、金色に輝く弓を手渡す。こちらもオリハルコンの本体に、弦は風竜王ウインドロードの髭を用いている。こちらは弓なので"貫通"、"速射"、"軽身"、"身体強化"、"風属性"を付与してある。


 この調子でリンには槍をマコトには杖を手渡した。この間、僅かに五秒ほど。我が妹ながら恐るべき敏捷の持ち主だ。


 これでみんなのステータスがさらに二倍になった。マコト以外は全てのステータスが1万を超え、特にリンはステータスの平均が1万7千を超えている。ドリューケンとほぼ互角だ。


「これやったら……いけるで!」


 早速、リンが槍を構え空中へと飛び出す。狙うは六メートルの巨大侵略者だ。


 その動きに合わせ、アオイとカケルがそれぞれ氷魔法と風魔法を放つ。


「グギギィ!?」


 カケル達のいきなりのパワーアップに回避行動が遅れたドリューケンは、それでもリンの槍の一撃をかろうじて躱した。さすがは侵略者。ステータス2万ばだてじゃない。

 だが、無理に躱したためか体勢が大きく崩れ、カケルの氷の彗星フロストコメットを頭に受けたたき落とされたところに、アオイの狂った竜巻レイジトルネードが待ち受けていた。


 魔力がそれほど高くはないカケルの魔法では、それほどダメージを受けなかったようだが、魔力が高めなアオイの狂った竜巻レイジトルネードはそうはいかなかったようだ。緑色に光る胴体はともかく、腕や足、顔には無数の切り傷が刻まれている。


「ググゥ」


 さらに地面にたたき落とされたところに、ルークが素早く接近する。さすがにルークの攻撃力は無視することはできなかったのだろう、慌てた様子で飛び上がろうとしたのだが、頭上から降ってきた何かがそれをさせない。初撃を躱されたリンだった。


「稲妻突き!」


 槍術Lv5の必殺技"稲妻突き"。金色に光る稲妻を纏った神速の一撃が、今まさに飛び立とうとしていたドリューケンの左目に突き刺さる。


「ギョェェェ」


 緑色の液体をぶちまけ、再び地上にたたき落とされた六メートルの巨体。『ズゥゥゥン』という音を響かせて横たわったドリューケンに、ルークの必殺技が迫る。


「衝撃斬!」


 ルークが放ったのは剣術Lv2の必殺技衝撃斬だった。衝撃斬は、斬るというよりも叩きつける衝撃で相手を吹き飛ばすといった効果がある必殺技だ。耐久がほぼ2万のドリューケンには、斬りつけるよりも衝撃で身体の内部にダメージを与えようという狙いなのだろう。


 そしてその狙い通り、胴体に衝撃斬を叩きつけられたドリューケンは、外殻には一切傷を負っていないのにもかかわらず、その場でのたうち回っている。


「みんな、今だ!」


 それを見たカケルが、チャンスとばかりにみんなに一斉攻撃の指示を出した。


 苦しがる巨大な緑の昆虫人間を囲み、それぞれの武器で必殺技を繰り出すメンバー達。最初は激しく抵抗していたドリューケンも、次第に動きが鈍くなり最後には三メートルほどにまで縮まってその動きを止めた。


「……まない……は……ちまった……らの、情……を伝……」


 ドリューケンは最後の最後に何かを呟いて息絶えた。あれは独り言というよりは、ここにはいない誰かと会話しているようだったな。って言うかちゃんとしゃべれるんじゃねえか!


「いやぁ、アスカが来てくれた助かったわ! 危うく死ぬところやったで!」


 戦闘を終えたリンが、笑顔でアスカの元に駆け寄る。それに釣られみんなもアスカの元に集まって、それぞれお礼を言った。

 それからはもちろん武器の話になり、改めてその性能を確認して興奮しているようだった。ただ、その制作に関しては誰も突っ込まなかったのが意外で、アスカも拍子抜けしいた。おそらく、謎の付与師の話を信じてくれているのだろう。


 それからみんなでクランホープのハウスに戻り、今回の侵略者から得た情報を整理した。どうやら、侵略者はあのドリューケンだけではなく複数いるようだ。さらには、ドリューケン達に指示を出している者の存在やその指示を出している者にも、情報提供者のような仲間がいることがわかった。


 ドリューケン達に指示を出している者については、転移の神で間違いなさそうだが、それ以外についてはどんな種族で何人いるのか全くわかっていない。

 それに、次元の裂け目について、ドリューケンが最初不思議な顔をしたそうなのだ。それにはっきりとは聞こえなかったらしいが、『そんな設定だったな』的な発言もあったようだ。


 そこはルークしか聞こえていなかったらしく、それを聞いた異世界者組が眉をひそめていた。かく言う俺も、最悪の事態を想定してしまった。


(いや、しかしそんなことはあるか? だとしたらなぜ?)

 

 侵略者の一人を倒したのにも関わらず、この場には重い空気が漂い始めていた。

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