第65話 vs 侵略者①
〜 side とある辺境の島 〜
「ハア、ハア、急ぐんじゃサンドラ。あやつが来たら1秒も持たんぞえ!」
「わかってるよ、グリモス! 焦らせるんじゃないよ!」
侵略者から突然の襲撃を受け、なりふり構わず逃げ出した二人は、住まいとして使っていた家に置いてあった、遠距離用の通信魔道具を使って、侵略者の襲撃を各国に伝えようとしていた。
グリモスが窓の外を警戒している間に、サンドラは王都のギルドとの通信を試みる。
この時点で侵略者はすでに島の外へ飛び立ってしまっていたのだが、そうとは知らない二人は死ぬ前に何とかこの情報を伝えようと必死に行動していた。
その素早い行動と侵略者の気まぐれによって、二人は王都と神都、それから帝都のギルドに情報を伝えることに成功する。
「もしや、あやつは他の場所に向かったのかえ?」
各国への連絡を終えた後、覚悟を決めて侵略者を待ち受けていた二人は、いつまで経っても現れないことで、すでに侵略者がこの島にいないことに気がついた。
ホッと胸を撫で下ろす二人だったが、その顔色は優れない。なぜなら、あの侵略者の言葉が本当ならば、この世界の誰一人としてあの魔物に敵う者はいない。そのことがわかってしまったから。
「アスカがいれば何とかなったかもしれないのに……」
思わず出たサンドラの一言に、グリモスも頷かざるを得なかった。
▽▽▽
~ side ルーク ~
サンドラから連絡を受けた三つの国の行動は早かった。自国の騎士団や傭兵部隊、冒険者などを中心に厳戒態勢を敷き、国民には非常事態を宣言し外出を禁じた。
それから近隣の街や村も含め、できる限りの情報網を敷き、侵略者が現れたら速やかに連携を取れるように準備をした。
そして、もちろん王都にいたカケル達にも侵略者の情報が入る。
「思ったより早かったな」
カケルの一言に、クランホープのハウスに集まっていたメンバーが頷く。
今このハウスにいるのは、転生者のカケル、アオイ、マコト、魔王の娘のリン、そしてルークの五名。レベル上げから帰ってきた数日後に、ギルドに侵略者が現れたとの情報が入りみんなで集まっているのだ。ちなみにアスカはみんなに頼まれ、付与付きの武器や防具の調達に知り合いの付与師のところへ行っている。
父であるキリバスや母のソフィアがここにいないのは、国王に呼ばれて騎士団達と行動を共にしているからだ。カケル達を除けばこの世界の最高戦力と言っても過言ではない両親は、侵略者から国を守るために駆り出されている。
同様の理由でケンヤは神聖国家クラリリスに戻っているし、軍事帝国ネメシスや魔王国ダークネスでも侵略者に備えているはずだ。
「ま、早くて半年って言ってたから大体合ってるんじゃないの?」
マコトの言葉にまあそんなものかという雰囲気が流れるが、アオイだけは首をかしげていた。
「世界の危機というくらい大事なことなのに、神様がそんないい加減な予想を私達に伝えるかしら?」
だがその呟きに続く者はおらず、アオイ自身も次の話題へと気持ちを切り替える。
「それで、この後はどうするつもりなん?」
リンの発言がきっかけで、みんながこの後の行動について議論を始めた。
小一時間ほど議論をした結果、ギルドからの情報で今のところ侵略者が無差別に人を殺しているわけではないこと、強い者を探している節があること、ある程度こちらの世界についての知識があることなどから、戦闘になっても被害が少ないツインヒル平原で待ち受けようということになった。
こちらの世界の知識があるなら、侵略者は一番強者が集まっている王都へ向かうだろう。となれば、辺境の島と王都を結ぶ直線上にあるこのツインヒル平原を通ることになるはずというのも、ツインヒル平原を選んだ理由の一つだ。
それから侵略者の倒し方についてもみんなで作戦を練った。侵略者のステータスは、自称ではあるがどの項目も1万以上あるらしい。五人の中で攻撃力が一番高いのは俺だ。
それでも"身体強化"込みで9597と1万には少し足りない。魔力が一番高いリンも9156と1万には届かない。だが現状、侵略者にダメージを与えられるとしたら、俺の物理攻撃かリンの魔法攻撃が一番可能性が高い。
よって、カケルとアオイが侵略者を牽制しつつ、俺とリンがメインで戦い、マコトが後方支援という作戦に決まった。
作戦が決まったところでアスカはまだ戻って来ていないが、先に五人でツインヒル平原へと向かうことにした。何せ、侵略者は待ってくれないだろうから。ハウスの外に出ると、一般の人達は国王の緊急事態宣言のためみんな家に閉じこもっていた。外を出歩いているのは、国防にかかわる騎士か冒険者達だけだ。
初めて見る状況に否が応でも緊張感が高まる。王都を出た後も、かつて無い強敵との戦闘を予想してか、みんな無言のまま歩き続けた。そして、侵略者が現れたという情報から数時間後、俺達はツインヒル平原へと到着した。
▽▽▽
「来たぞ!」
ツインヒル平原について間もなく、カケルが大きな声で叫ぶと共に、空に向かって指を指した。そこにはまだ黒い点しか見えないが、"鑑定"しなくてもわかるほど、強大な魔力を持つ何かが物凄い勢いでこちらへと向かってきていた。
その何が近づいてくるにつれ、姿が露わになる。
緑色の光沢のある鎧のような外殻。気味の悪い複眼に4本の細い羽。腕は4本あり、そのうち2本は手の先が鉤爪になっている。まさに異形の魔物だった。
名前 ドリューケン 蟲魔族?
レベル 100
職業 侵略者
HP 13555
MP 10891
攻撃力 14306
魔力 11002
耐久力 13432
敏捷 12598
運 3467
スキルポイント 0
スキル
鑑定 Lv?
探知 Lv?
槍術 Lv?
格闘術 Lv?
風操作 Lv?
危機察知
無詠唱
風属性耐性
土属性耐性
闇属性耐性
巨?*
#\通「
「まずいな……」
そのカケルの力ない声に、鑑定持ちのメンバーが全員小さく息を吐く。侵略者が嘘をつくとも思えなかったから、そのステータスは1万を超えるとは思っていたが、俺達は1万を少し超えた程度だと考えていた。
しかし、実際に鑑定してみると、攻撃力は14000を超え、耐久力も13000以上ある。魔力はかろうじて11000を超えているくらいだが、闇属性耐性があるから、一番魔力の高いリンの魔法が効きづらい。
しかも、文字化けしてわからないスキルが二つもある。こっちの世界にはないスキルを持ってきたのだろうが、どんな能力なのかわからないだけに恐ろしい。
俺達が鑑定している間にも異形の侵略者ドリューケンは猛スピードで接近し、俺達の目の前で急降下して止まった。真っ直ぐ向かってきたことから、俺達の存在には気がついていたのだろう。
「ケケケ、何やら面白い存在がいやがるな」
目の前の侵略者が、流暢ではあるがどこか機械質な声を発する。その態度は少し驚いているようにも見えるが、余裕があるようにも見える。虫のような顔は表情が少なく、感情が読み取りづらい。
「ケケケ、島にいた2人よりは強そうだな! っていうか、ステータスも限界に近いんじゃねぇか? 特にそこの金髪のガキんちょはスキル込みで攻撃力9500超えてるじゃねぇか!? しかもまだまだ上がる可能性までありやがる。随分話が違ってるなぁ!」
ドリューケンは複眼だからどこを見ているのか今一わかりづらいけど、金髪のガキんちょとは俺のことだろう。それにしても、『話が違う』ということはこいつにこの世界の話をしたヤツがいるってことは確定だな。俺がアオイの方を向くと、向こうも同じことを考えていたようで俺に目配せしてきた。
「お前は一人で来たのか? それとも他に仲間がいるのか?」
もちろんカケルも他の存在を感じ取ったようで、情報を引き出すためにそんな質問を投げかける。
「ケケケ、安心しな今回転移してきたのは俺様だけだからよ! まあ、こんな脆弱なヤツらしかいない世界なら俺様一人で十分なんだがな!」
「今回だと? また次もあるというのか? 次元に亀裂が入るのは一度じゃなかったのか?」
ドリューケンの言葉にカケルが驚きの声を上げた。アオイも驚いていることから、ヘルティウスという神様から伝えられた内容がまた違ったのだろうか?
「ケケケ? 次元の亀裂? ……ああ、そんな設定だったな。そう! 亀裂は一度だけじゃないぞ!」
カケルの問に対するドリューケンの返答は少しおかしかった。前半部分は小声でよく聞こえなかったが、『設定』という単語が聞こえたような。後半も何かを隠すように意味も無く大声だったし。
転生者の3人はドリューケンの言葉に全員が眉をひそめている。何か思うところがあるのだろうが、ドリューケンが会話は終わりとばかりに、戦闘態勢を取ったので俺達も慌てて作戦通りの陣形を組み武器を構えた。
各上相手の戦いを前に、ミスリルの片手剣を握った俺の手に汗がにじむ。……ミスリルの剣?
(あっ、忘れてた!)
俺はミスリルの剣を#魔法の袋__マジックバッグ__#にしまい、アスカからもらった
「ルーク、その剣は?」
(そう言えば、まだ誰にも見せてなかったか)
だが、相手も戦闘態勢に入っている。残念ながらアオイの質問に答えている暇はない。各上相手に攻め込まれたら勝つ可能性が低くなる。ここは無理してでも先制攻撃をしなくては――
そう考えた俺は、目の前でこちらが攻めるのを待っている……様な気がするドリューケンめがけて突っ込んで行った。
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