第63話 準備万端
「そう言えばこいつらがいたよな」
そう呟いたカケルの視線の先には、二体のロイヤルリッチと六体のダークリッチがフワフワと浮かんでいる。だが実際問題、S級程度の魔物では脅威など感じなくなってしまった。
「あの時はリンがいたから何とかなった。どうする、カケル?」
それでもS級が二体いることは、アオイ達にとってはまだ脅威となっているのか。アオイの言うあの時とは、おそらくSクラスのメンバーでレベル上げに来た時のことだろう。
確か、ルークが死にそうになってアスカが上げた腕輪の効果で助かったんだったか。あの後、尋問大会みたいになって大変だったんだけど……
「そうだな。ロイヤルリッチ二体なら僕達が魔法を使えば何とか倒せるはずだけど……リンに勝ったアスカならダークリッチ六体を抑えられないかな?」
そう言いながらチラッとアスカの方を見るカケル。
「でも、リンは魔族だから闇耐性を持っていた。だから六体のダークリッチを倒せた。いくら強いといっても、人間のアスカじゃ難しい」
相性のことを考えると単純に強さじゃ勝敗は決まらない。アオイの意見は最もなのだが……
「アスカがダークリッチ六体倒せばいいの? あっ、倒しちゃったら経験値がもったいないから、アオイさんとカケルさんが倒すまで無力化しておけばいいのかな?」
二人の会話を聞いていたアスカが、普通の人が聞けばとても正気の沙汰とは思えない提案を、まるで散歩にでも行くかのように気軽に引き受けたことに、アオイとカケルの顔が凍り付く。
(自分で言い出しておいてその顔かい!?)
俺も思わず心の中で突っ込んでしまう。
「ア、アスカ君? そ、そんなことが可能なのかい?」
引きつった顔のままのカケルに対してアスカは――
「あは! 大丈夫だよー! それじゃあ、アスカは戦わないから頑張って経験値稼いでね!」
そう言うが早いか、右手を前に突き出し特に言う必要もないがこれから使う魔法名を声にするのだった。
「
雷操作Lv3の
とてもじゃないが、普通に考えればダークリッチに使う魔法としては、適性をかけていると言わざるを得ない。そう、普通に考えれば。
だが、アスカが魔法を唱えた瞬間、アオイとカケルの目の前には信じられない光景が映し出されていた。ダークリッチの周囲どころか、少し開けたスペースを埋め尽くすほどの大量の雷の玉。その数およそ百以上。
S級の魔物であるロイヤルリッチからも伝わってくる動揺の気配。少しでも動けば雷の玉に触れてしまうため、全く身動きができない魔物達。そこに、アスカのかわいい声が再度響き渡る。
「行け――!」
その声に従って、雷の玉が一斉に魔物達へと向かっていく。仮にもS級やA級であるロイヤルリッチやダークリッチが躱せない速度ではないが、如何せん数が多すぎる。隙間なく迫ってくる雷の玉を、為す術もなくその身に受ける魔物達。彼らはそれなりに耐性を持っているからLv3の魔法なら耐えられると思ったのだろうが……
「ガガガ!?」
不気味な鳴き声を上げて、地面に落ちていく魔物達。いくらLv3の魔法とはいえ、アスカの雷操作自体はLv5で魔力は5万超え。多少の耐性など全く役に立つはずもなく、八体全員が例外なく地面で身体を震わせている。
「さあ、今のうちにトドメを!」
アスカの嬉しそうな声に、『し、信じられない……』と心の声を漏らしながら動き出すカケルとアオイ。ダークリッチどころか、ロイヤルリッチすら簡単にトドメを刺している状況に、カケルが『どんなヌルゲーだよ』と呟いているのが聞こえた。
(うお! ヌルゲーとか久しぶりに聞いたぞ。忘れかけてた記憶が蘇るな)
俺達が転生してから十年以上経っている。実際の年月としてはそれ以上だが。二度目の転生でアスカの記憶がなくなっているから、日本のことなんてここ最近思い出すこともなかった。
アオイはアオイで、『ロイヤルリッチを麻痺させるって、どれだけの魔力があれば可能なの』何て言ってるのが聞こえてきた。どうやら、魔力は気になっても雷魔法を使ったこと自体はもうどうでもよくなってしまっているようだ。
全てのリッチ達にトドメを刺し終えた二人は、さらに下の階層へと向かう。
俺はアスカに経験値共有のスキルをつけ、時々バレないように、アオイやカケルが魔物にトドメを刺す直前に、獲得経験値倍化のスキルをつけては外すといった作業を繰り返していた。カケルは全く気がついていなかったが、アオイは時折首をかしげていたから、いつもよりレベルの上がりが早いことを不思議に思っていたのかもしれない。
アスカは七十層以降はほとんど戦闘に参加せず、アオイやカケルの戦う姿を見ていたり、珍しい鉱石を見つけては掘り出したりしていた。それからなぜか、カケルとアオイが新たなスキルを選択できるようにアドバイスなんかもしていた。以前教えた鑑定と探知が上手くいったからなのだろうが。
それから、二日間かけて九十層まで到達した三人は九十層前後をウロウロしながらレベルを上げ続け、もう少しで100に到達するというところで、遅れてきたリン達と合流するのだった。
▽▽▽
「いやー、マコトからスキルクリスタルもろうたわ。おおきにな!」
合流早々リンがカケル達に頭を下げる。スキルクリスタルの担当はリンだったから、自分が持ち帰ることができなかった上に、ライアット教授担当だったカケル達が手に入れたもんだから、お礼を言った後ちょっと気まずそうに目をそらしていた。
「いや、それについては本当に偶然というか、魔物の王達の気まぐれというか。そんな感じだったのできにしないでくれ。それより、リンはスキルポイントをどのスキルに使ったんだい?」
カケルにしてみても、自分達が何かをしたわけではなく、スキルクリスタルが向こうからやって来た訳だから、特にそれについてリンにとやかく言う気はないようだ。それよりも、冒険者にとっての切り札とも言えるスキルについて、気軽に聞いてしまう天然ぶりに聞かれた本人のリンも苦笑いだ。
「今更隠してもしゃーないか。うちは元々持っていた全属性耐性と限界突破をLv5まで上げさせてもろうたわ!」
リンがカケル達にスキルポイントの使い道を説明しているところを、マコトは微妙な顔で見ていた。その口からは『おじさんが聞いた時は教えてくれなかったのに……』という呟きが漏れていた。他の人達には聞こえていなかったようだが、俺には聞こえてしまった。どんまい、マコト。
カケルとリンは限界突破スキルの効果を聞いて、ぜひとも自分達もほしいと唸っていたが、『魔物の王達が持っていたスキルクリスタルを使い切った今、それほどたくさんのスキルポイントはもう手に入らないだろう』というリンの予想に肩を落としていた。
確かにステータス補正Lv5を手に入れた今、レベルが上がれば上がるほど爆発的にステータスが上昇するから、限界突破は彼らが今一番ほしいといってもいいスキルだろう。
お互いに情報交流をした後は、レベル上げを再開する。カケルとアオイは早々にレベル100に到達したが、リンは限界突破のおかげでレベルの上限が200に上がっており、最大まで上げるのにさらに一週間ほどかかってしまった。
それでもこのレベル上げで、ほしかったスキルも獲得し全員のレベルが現段階での上限へと達したのだった。
名前 カケル・アマウミ 人族 男
レベル 100
職業 冒険者
HP 2119
MP 2079
攻撃力 2584
魔力 2081
耐久力 2111
敏捷 2282
運 1946
スキルポイント 26
スキル
鑑定 lv2
探知 Lv3
剣術 Lv5
氷操作 Lv5
光操作 Lv5
身体強化 Lv5
ステータス補正 Lv5
危険察知
詠唱短縮
名前 アオイ・サザナミ 人族 女
レベル 100
職業 冒険者
HP 1880
MP 2368
攻撃力 2209
魔力 2536
耐久力 2029
敏捷 2460
運 1622
スキルポイント 21
スキル
鑑定 lv2
探知 Lv3
弓術 Lv5
風操作 Lv5
治癒 Lv5
身体強化 Lv5
ステータス補正 Lv5
詠唱短縮
名前 マコト・シンジョウ 人族 男
レベル 100
職業 冒険者
HP 1322
MP 2010
攻撃力 763
魔力 1998
耐久力 891
敏捷 1131
運 1254
スキルポイント 18
スキル
鑑定 lv2
探知 Lv3
炎操作 Lv5
治癒 Lv5
結界 Lv5
思考加速 Lv3
詠唱短縮
消費魔力半減
名前 リン・クリスティン 魔族 女
レベル 200
職業 魔王の娘
HP 4403
MP 5757
攻撃力 2931
魔力 3052
耐久力 2754
敏捷 2838
運 2111
スキルポイント 24
スキル
鑑定 lv2
探知 Lv2
隠蔽 Lv3
槍術 Lv5
闇操作 Lv5
身体強化 Lv5
限界突破 Lv5
全属性耐性 Lv5
名前 ルーク・ライトベール 人族 男
レベル 100
職業 冒険者
HP 2721
MP 1022
攻撃力 3199
魔力 957
耐久力 2482
敏捷 2619
運 2089
スキルポイント 54
スキル
鑑定 lv2
探知 Lv3
剣術 Lv4
身体強化 Lv5
魔力回復倍化 Lv4
全属性耐性 Lv5(R)
(ステータス補正がないとはいえ、さすがにレベルが倍違うから、カケルやアオイよりリンのステータスの方が若干上か。特に、HPとMPに関してはさすが魔族といったところだな。
逆に早い段階でステータス補正Lv5がついたルークが攻撃力については頭一つ抜けているか。マコトは身体強化がないから実際もこのステータスのままか……うん、回復役として頑張ってほしい)
こうして、全員のレベルが最大になったところで
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