第62話 転生者のレベル上げ

~side ルーク~


「そんなわけで、スキルクリスタルのある場所はわかったんやけど、持ってくることはできんかったわ。ごめんな」


 カケル達と別れてから、俺とマコトさんは王都でリンの帰りを待っていた。彼女と別れてから二週間。

 その間に彼女は父親である魔王に会い、スキルクリスタルの在処を聞いてきた。ただ、本人的には実際に手に入れてくるつもりだったらしく、それができなかったということで、ようやく会えた彼女の開口一番のセリフに繋がっている。


「いやー、それがさ、もう問題ないんだよねー。なーんか、変な村で変な教授と話してたら、その魔物の王? 達がやって来てさ、スキルクリスタルをおいていったんだよ。信じられないでしょ?」


 マコトの言葉にリンが小首をかしげてキョトンとする。それもそうだろう、そんな展開誰だって予想できるわけがない。


「えっ? 魔物の王……達?」


 少しの間、マコトが発した言葉の意味を考えていたリンが、複数形という違和感に気がついたようだ。


「そうそう、一体でさえおっかないのに、四体も一遍に現れたんだよ! おじさん、この世の終わりかと思っちゃった」


 その顔は軽薄そうに笑っているから、言っている内容と表情が合っていないのだが……。リンは『マコトの言っていることは本当か?』と言わんばかりの訝しげな表情で俺の方に顔を向けた。


 俺はマコトの言うことを肯定するように頷く。リンはそんな俺の様子を見ても、まだ疑っているようだったが――


「それでー、これがリンちゃんの分ね! おじさんからのプレゼント!」


 そう言ってマコトが手渡したのは、12000ポイント分のスキルクリスタル。


 それを唖然とした表情で見つめるリン。それはそうだろう。こんなにもたくさんのスキルクリスタルを見ること何て、普通に考えたら有り得ない出来事だ。


「スキルクリスタルがこんなに……。でも、何で12000ポイント分なんやろ? って、あっ!? そういうことか! えっ!? 何でわかったん? マコト、うちに12000ポイント渡すって誰が決めたん!?」


 リンがスキルクリスタルと受け取った途端、珍妙な動きを見せる。一人でノリ突っ込みを繰り返す芸人のようだ。そのままの勢いで、マコトの襟首を掴んで前後に揺さぶっている。


「えっ!? どうしたのリンちゃん突然? あー、はいはい、教えるからそんなに揺らさないで! えーっと、待って! 揺らさないで、考えられない! そ、そうそう! アスカちゃん、アスカちゃんが言ったんだよ!」


 ガクンガクンと音が鳴りそうなくらい首を前後に揺さぶられたマコトが、必至にその名を口にする。そう言えば、確かにリンには12000ポイントがいいって言ったのはアスカだったな。


「アスカか……いや、そうやな。それしかないわ。……うん、深く考えるのはやめやめ。このスキルクリスタルはありがたく使わせてもらうわ!」


 マコトの答えを聞いて、一人納得する魔王の娘。おそらく、何にスキルポイントを使うのか決めたのだろう。そして、言うが早いか、リンの身体が淡い光に包まれる。


「残りスキルポイント12000って、初めて見るわ。っと、感傷に浸ってる場合やないね。えーと、これとこれを上げてっと……」


 リンはもらったスキルクリスタルを使って早速、何かのスキルを上げたようだ。直ぐに上げることができたということは、すでに持っていたスキルを選んだということか。


「リンちゃーん! なーんのスキル上げたのかな~? おじさんに教えてくれないかなー?」


「秘密や」


 同性からすると気持ち悪いと思ってしまった、おじさんの猫なで声。よかった。あの顔を見るに、俺だけじゃなくリンも気持ち悪いと思ってくれたようだ。


「それで、リンはこれからどうする?」


「うーん、ちょっと地下迷宮ダンジョンにでも行こうかと……」


 俺の質問に珍しく歯切れの悪いリン。あー、なるほど。確か、リンはカケル達よりレベルが高いといっていたはずだ。あの動きからも100かそれに近いくらいのレベルだったのだろう。そのリンが地下迷宮ダンジョンに行きたいということは……限界突破のスキルを取ったんだな。それがバレたくないから、歯切れが悪いってことか。


 リンが取ったスキルの目星が一つついてしまったが、それを言ったところで何の得もない。むしろ、リンとの関係が気まずくなりそうだ。そう考えた俺はあえて黙っていた。


「それじゃあ、俺達も地下迷宮ダンジョン都市に向かうとしよう。カケル達もそこでレベル上げをしているから、合流して今後の作戦を立てるとでもするか」 


 俺の提案に二人が頷き、俺達はすぐに地下迷宮ダンジョン都市を目指すことになった。




▽▽▽




~side アオイ~


「ここに来るのも久しぶり」


 私達はルーク達と別れた後、地下迷宮ダンジョン都市フォーチュンへと向かった。ここは以前、武術学院のSクラスでレベル上げに来たところだ。

 あの時は、イリーナ先生の暴走でルークが死にそうになったり、ルークが一対の翼ウイングシリーズの腕輪を持っていたり、ルークに身に覚えのないスキルがついてたり、ルーク夜と二人で語り合ったり……あれ? 何でだろう、ルークのことばかり思い出す。


 それはそうとして、前回は七十三層で断念してしまったけど、今回はレベルが100になるまで戻って来ないつもり。おそらく最下層周辺を行ったり来たりすることになる。


「よし、じゃあ行こうか!」


 私と同じ転生者のカケルの一声で私達は地下迷宮ダンジョンへと入っていく。カケルが先頭で私が二番目。そして、ルークの妹であるアスカが最後にトコトコとついて来る。


 私は地下迷宮ダンジョンに入るとき、チラッとアスカの顔を見た。


 とにかくこのアスカって子は不思議な子なのだ。武術学院の入学試験の時は、"剣術"Lv5の必殺技を放ちカケルと引き分けたし、カケルや私が"探知"や"鑑定"のスキルを覚えることができたのも、アスカのアドバイスのおかげ。ルークに一対の翼ウイングシリーズの腕輪を渡したのもアスカだし、私とカケルが二人がかりでも勝てなかった魔王の娘であるリンを、たった一撃で倒しちゃうし。


 色々追求しても、肝心なところでいつもはぐらかされてしまう。正直、ルークに"ステータス補正"のスキルをつけたのも、アスカなんじゃないかと疑っている。


 まあ、疑っているとはいえアスカのことが嫌いなわけではないけど。何せルークの妹だし。あれ? 私何か変なこと考えてる?


「低階層はなるべく戦闘を避けて先に進むことを優先しよう。僕らのレベルだとS級を狩った方が効率がいいからね」


 私はあれこれ考えているときにカケルに声をかけれら、現実へと引き戻された。


「わかった。七十層まで一気に行く」


「はーい!」


 私とアスカが返事をする。やっぱりアスカは、七十層以降を脅威に感じている様子はない。できれば、このレベル上げでアスカの実力をちゃんと知りたいところだけど……


 私達はかなりのハイペースで進み、二日で七十層までたどり着いた。前回の経験も活きていると思うけど、普通の冒険者から見たら異常な早さでしょうね。


 そして、七十層では相変わらずS級のロイヤルリッチが二体立ちはだかっていた。

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