第59話 合流
「あ、アオイさん達だ!」
ライアット教授が考え事をしていると、ちょうどアオイ達がこちらに向かってきていること探知で気がついた。クラリリス方面から来ているところを見ると、向こうで何らかの情報を得たのだろう。向かってくる速度から、かなり急いでいる感じがする。
アスカが声を上げたことで、ライアット教授も我に帰ったのか顔を上げてこう切り出した。
「アオイ君か。彼女はケンヤ君の弟子だったかな。確かもうひとり男の子の弟子もいたような……。その彼女がこちらに向かっているということは……残された時間は少ないと言うことか。
時に、ルーク君。君のスキルについて色々仮説を立ててみた。確固たる証拠がないからあくまでも仮説の域をでないが、聞いてみるかい?」
「はい、お願いします」
アオイのことが話題に出てきて、少しこわばった顔をしたルークだったが、その問には迷わず即答した。
「よろしい、ではまず君についているスキルについてだが、全属性耐性とはその名の通り、全ての属性に対して耐性を得ることができる。かなり希少なスキルでその有用性は言うまでもないが、あくまでも耐性なので無効にするわけではない。相手の魔力によってはダメージを受けるから気をつけるんだな。
それから、ステータスアップ補正だが……これはまだ未確認のスキルに分類される。レベルが上がる毎にアップするステータスの量はある程度決まっているのだが、このスキルはその量を増やすことができるのだ。Lv5ともなるとその量は十倍にもなる。つまり、3上がるはずだったところが30上がるというわけだ。どうしてもというので、ケンヤ君だけには教えてあげたがな」
「それで、急激にステータスが上がっていったのか……」
ルークはスキルの詳細を知って、自分の急成長に納得したようだ。
「そして、そのスキルが君の意志とは関係なくついていたことだが……まず君の意志が働いてないとするなら、誰かがそのスキルを君につけたと仮定しよう」
「!? 人にスキルをつけるなんてことできるんですか?」
ライアット教授の突拍子もない仮定に、ルークが驚きの声を上げた。
「落ち着きたまえ。先ほども言ったが、そこは確固たる証拠がないのでできるともできないとも言えない。ただし、その仮定を立てないと先に進めないのでね。そういうことができると考えてくれたまえ」
「わかりました」
ルークが素直に頷いたことで、ライアット教授はフッと一息吐いてから先を続ける。
「仮に誰かが君にそのスキルをつけたとすると、その人物は君に好意があると言えるだろう。これほど有用なスキルをつけるくらいだから、君を嫌っていると言うことはあるまい。
さらに、レベルが100に達した時点でスキルが入れ替わっていることから、それは身近な人物だと思われる。ついでに言うと、入れ替わっているということは二つは同時につけることができないのだろう。この点からも、必要に応じて誰かが意図して君にスキルをつけていると予想できる」
ルークはその説明に大きく頷いている。そして、出されたお菓子を一生懸命食べているアスカの方をチラッと見た。
しかし、さすがはライアット教授。少ない情報から、鋭い考察を見せてくれる。
「それから、これらのスキルが未確認スキルであることから、少なくともその人物はこのスキルの存在を知っているはずだ。いや、むしろLv5をつけることができるくらいだから、このスキルを持っていると思った方がいい」
おお、これもドンピシャ的中だ。そして、ルークがまたもやアスカをチラ見している。まさか、このかわいい妹を疑っているのかね? ルーク君。
「それでだ、ルーク君。君にはこの条件に当てはまりそうな知り合いはいないかね?」
ライアット教授がルークの顔をのぞき込む。
「そ、それは……今のところ特に……」
気まずそうに顔を逸らすルーク。
「そう怯えなくてもいい。話したくないなら、これ以上、君達について詮索する気はないからな。それよりも、アオイ君達が来るまで少し時間があるだろう。聞きたいことがあれば何でも聞いてくれ」
ライアット教授はアスカの方をチラッと見た後、ルークにそう申し出た。
「えっ? いいんですか?」
「むろん、構わないよ。もちろん、教えられないこともあるが、君達は僕のかわいい生徒の子どもだ。遠慮なく聞きたまえ」
「そ、それじゃあ、漆黒の天使について教えてください!」
おや、まあ。何というか。ルークはそこに食いついちゃったわけですね。目をキラキラ輝かしてますわ。
「ほう、漆黒の天使についてか。確かに謎が多い人物だったからね。うん、確かに僕は彼女のことを知っている。だが、彼女との約束で全てを話すことはできないが、それでもいいかな?」
「構いません! というか、彼女と言うことはやはり漆黒の天使は女性だったのですね!」
そして、ライアット教授は自分の教え子であったアスカとの関連は濁したまま、漆黒の天使の功績についてルークに話して聞かせ始めた。
その場にいたアスカも、なんとはなしにその話を聞いていたのだが、次第にその話に興味を持ったのか、手に持っていたお菓子を置いて真剣に聞き始めた。俺もライアット教授の話が懐かしくて、そんなアスカの変化に気がつかずについつい聞き入ってしまっていたのだ。
そして、ライアット教授が漆黒の天使に複合魔法を見せてもらった話のところで、アスカが気を失うと同時に俺の意識も途絶えてしまった。
「……で、ルーク君に僕の考察を聞いてもらっていたんだ」
(ん? 何だ。何が起こった……。そうか、またアスカが意識を失ったのか)
俺が次に気がついた時、ライアット教授とルークの前にアオイとカケル、それにマコトがいた。アスカは部屋の隅で布団の上に寝かされている。どうやら、アスカが気を失っている間にアオイ達がノースの村に着いていたようだ。
「う、ううぅ……」
俺が気がついた直後にアスカも目を覚ます。
「アスカ! 気がついたか!」
そのことに初めに気がついたのはこちらを向いていたカケルだ。カケルの一言で、みんながアスカの周りに集まる。
「うん。ごめんなさい。急に頭が痛くなっちゃって……」
「謝らなくていい、それより大丈夫なのかアスカ?」
ルークもアスカを心配そうに見つめて、そう声をかけた。
「もう大丈夫みたい。それより、アオイさん達も来たんだね」
確かに自分で言うように、アスカの顔色は普通でもう大丈夫のようだ。それにしても、一体どうしたというのだ。どうも、前のアスカの話になると頭痛がするみたいだけど……
アスカの無事が確認できたことで、会話の中身が先ほどの続きへと戻っていく。
ライアット教授がルークのスキルについて、アオイ達に説明を終えたところで、次はアオイ達の話をライアット教授が聞く番になった。
「私達は今よりもっと強くなりたいのですが、何かよいスキルはないでしょうか?」
三人を代表してアオイが聞く。
「うーん、それに関しては以前ケンヤ君に話したとおりなんだが……」
「そこを何とかお願いできませんか?」
もちろんすんなりいくとは思っていなかったのだろう、カケルも頭を下げてお願いしている。
「君達の気持ちはわかるが、やはりリスクが大きすぎる。ただでさえ強い君達が、これ以上強くなるスキルとなれば生半可な能力ではない。そんな強力なスキルが世に出回ってしまったら……」
それでもライアット教授は首を縦に振らない。
まあ、確かに"魔力増大"何てスキルが知れ渡ってしまったら、Lv5魔法が飛び交うようになってしまうかもしれないし、究極魔法を使える者だって出てくる可能性はないわけではないのだが……でも、ぶっちゃけ今の感じなら大丈夫な気もする。
「だけどさぁ、アオイちゃんに聞いたけど、強いスキルって必要なスキルポイントも半端ないんでしょ? 存在がわかったからって、本当に広まるのかな?」
それだ。俺もまさにそう思っていた。マコトが言うように、強力なスキルはそれこそ半端ないスキルポイントが必要なのだ。先ほどの"魔力増大"なんか10万ポイントも必要になる。 複合魔法に必要な"並列思考"や"無詠唱"はそれぞれ5万ポイントと1万ポイント必要だ。
そういう意味では、危険なのは低レベルで取得できたらこれらを覚えることができそうな、"スキルポイント倍化"だが、これだって最初にゲットするためには1万ポイントもかかってしまう。つまり、スキルクリスタルで最初から1万ポイントをゲットでもしない限り、これらを覚える可能性は限りなく0に近いと思われる。
肝心のスキルクリスタルも、天然物で一番もらえるポイントが多かったのは2500だった気がした。それさえも、奇跡的にできたものっぽい。前のアスカが強者に託したものはあるが、それさえ回収してしまえば個人が1万ポイント集められるとは思えない。
「それはその通りなのだが、万が一ということもあるし……」
今のマコトの話で少し心が揺れ動いているようだ。俺としてはどっちの味方というわけではないが……頑張れアオイちゃん! もう一押し!
「それに、世界の危機で現れた転移者が万が一私達よりも強ければ……この世界が滅びますよ」
アオイのトドメの一言にライアット教授が深いため息をついて黙りこくる。それはアオイの言うことも一理あるからだろう。この先、世界を滅ぼしてしまうようなスキルを獲得するものが現れるかどうかはわからないが、後一年前後で転移者が現れるのはほぼ確実なのだ。
どれほどの者が、どれだけの人数現れるのかわからないが、神様が世界の危機だというくらいだ。弱いということはないだろう。
スキルはポイントがあればすぐ手に入るわけではない。まずはスキルが選択肢に現れないと選ぶことすらできない。『転移者を見て強そうなら教えます』では間に合わないのは明らかだ。となれば、教えられるタイミングは今しかないと思われる。
「わかった。君達がさらに強くなれそうなスキルをいくつか教えよう。だが、スキルポイントはどうするつもりだ? 強力なスキルは、最初に覚えるのに最低でも1万ポイントは必要だぞ?」
ライアット教授が教えてくれると言った途端、アスカを除く四人が嬉しそうに顔を見合わせた。マコトはどさくさに紛れて、アオイの手を握ろうとしたのだが、それよりも早くアオイがルークの手を握ってしまったため、不発に終わってしまう。
(ルーク、ちょっと嬉しそう)
その光景を母親のような目線で見つめるアスカ。
「スキルポイントについては、仲間がスキルクリスタルを探してくれています。私達も教授からスキルを教えてもらったら、レベル上げも兼ねてスキルクリスタルを探しに行こうと思います。師匠の話だと、SS級の魔物がスキルクリスタルと持っているそうなので」
「そうか、SS級の魔物となるとお前さん達でも一筋縄ではいかないと思うが、パーティーを組めば倒せる可能性もあるだろう。それじゃあ、今からスキルの説明をするから頑張って覚えてくれたまえ」
その後、ライアット教授は"重力魔法"や"時空魔法"とった未確認の操作系スキルや"全属性耐性"、"全状態異常耐性"などの耐性系スキル、それに"無詠唱"、"消費魔力半減"、"限界突破"などのスキルを次々と教えてくれた。ただ、"魔力増大"と"並列思考"だけは伝えなかったようだ。それほどまでに、Lv5魔法や複合魔法、究極魔法の存在が恐ろしかったのか。
そして、ライアット教授の話が終盤に差し掛かった時、俺の探知が物凄いスピードで迫ってくる魔物を捉えた。
(お兄ちゃん、これって……)
(ああ、アスカ。SS級の魔物だな。何しに来たかはわからないが真っ直ぐこっちに向かっているようだ。これは、みんなに伝えた方がよさそうだな)
「みんな、お話中なのにごめんね。何か、すごい勢いでこっちに向かってくる魔物がいるみたいなんだけど……」
アスカがそう告げると、全員が何事かと薬屋を飛び出し、アスカが指差した方向を凝視する。少しすると、遙か遠くの空に黒い点が見えたかと思うと、ぐんぐんその点が近づいてきた。アスカ以外の全員が厳しい表情を見せる。
(アスカ、まだ来るぞ)
(うん)
「みんな、油断しないであれ一体だけじゃないみたい」
そう、少なくとも後三体、似たような存在がこちらに猛スピードで向かってきているのだった。
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