第46話 王都の騎士団

「アスカ、必要な物は全部持った……のか?」


 お互いに準備を整え、王都正門前で落ち合ったルークがあまりに身軽なアスカを心配そうな目で見つめている。なにせ、アスカの持ち物は薄いピンク色のリュックひとつだけだから。もちろん、アスカが誕生日に作成した魔法の鞄マジックバッグだ。


「この鞄の中にぜーんぶ入ってるよ!」


 アスカが嬉しそうに振り向いて、背中のリュックを見せる。実際このリュックの中には、各種ポーションから食料、野営道具まで一ヶ月どころか二~三ヶ月でも十分に暮らせる量が入っている。


「お前、まさかそれ、魔法の鞄マジックバッグなのか!?」


 流石はルーク、キリバスやソフィアが持っているからすぐに気がついたようだ。


「えへへ、そうだよ! いーっぱい入るんだ!」


 うらやましそうな顔のルークを見て、満足そうにアスカが答えた。


 どうやらアスカはこの旅の中で、ある程度の実力をルークに見せるつもりらしい。俺としてもいつまでも隠しておけるものではないだろうし、ルークならいいんじゃないかと思っている。


「ルークの分もあるよ!」


 そう、先ほど各種ポーションを鞄に詰めるために前のアスカの家に行ったとき、ルーク用の魔法の鞄マジックバッグを作ってあげたのだ。動くのに邪魔にならないように、腰に巻き付けるウエストポーチ風にしてみた。


「えっ!? まじで!? 俺の分も!? めっちゃ嬉しい!」


 予想外のプレゼントに子どものように無邪気に喜ぶルーク。いくらステータスが上がったとはいえ、まだまだお子様だな。


 自分が持ってきた荷物を早速ポーチに移し替え、身軽になったルークとアスカは王都の正門をくぐり、デスバレー峡谷目指して歩き始めた。おそらく、ルークとアスカのステータスなら1週間かからずにつくだろう。




▽▽▽




 王都を昼に出発してから半日、辺りが暗くなってきたので二人で野営の準備を始める。いくら兄弟といっても、もう一緒に寝る歳でもないのでお互いに自分専用のテントを立てた。


 夜ご飯は鞄に入れていたコンロを使い、野菜たっぷりのシチューを作る。アスカがここまで料理できることを知らなかったのか、ルークは『うまい、うまい!』とその料理を絶賛していた。


 2日目、ルークとアスカはそのステータスの高さからどんどんと歩みを進めていく。通常の冒険者の速度と比べてもかなりの速度で進んでいるのだろう。昼を過ぎる頃にはあれだけ大きかった王都が全く見えなくなっていた。


 そろそろお昼ご飯を食べようと二人が歩みを止めたとき、視界の向こうに大勢の人間の集団が見えた。俺もアスカも探知で気がついていたが、ルークはその集団を目の当たりにして初めて気がついたようだ。



「あれは……王都の騎士団か?」


 ルークが目を細めて見た先には、皆全く同じ銀色の鎧を着た五十名ほどの集団がいる。ルークが言うように、あれは王宮直属の騎士団だろう。


「ねぇねぇ、ルーク。こんなところで何をしてるのか聞いてみようよ!」


 アスカは言うが早いか、ルークの返答を待たず騎士団の方へかけていった。


「あ、こら、アスカ! 勝手な行動はするなよ!」


 そう言いながらルークはアスカを追いかける。だが、そうは言いつつもルークも王宮の騎士団がなぜこんなところにいるのか気になっているようだ。アスカを追いかけはするものの止める気配はない。





「こんにちは、騎士の皆さん! こんなところで何してるんですか?」


 街道近くとはいえ、魔物が徘徊することもある危険地帯に突然現れた美少女に、声をかけられた騎士団の団員達が一瞬言葉を失っている。


「お前こそ誰だ! 俺の名はケイン。王都第一騎士団の副団長をしている。今、俺達は魔物の掃討作戦の最中だ。ここは危険だからすぐに立ち去るんだ!」


 アスカを見て呆けているメンバーの中にあって、唯一即座に反応した若者がケインと名乗った。


(ん? ケイン? …………あー、クロフトさんのところのケインか!? いやー、大きくなったなー! 確か俺が会ったときは……確か、6歳くらいだったはず。あの時は左腕をワイバーンに切り飛ばされたんだっけ)


(えー、6歳の時にそんなことがあったの? かわいそう……)


「ああ、すいません。俺の名前はルーク。王都で冒険者をしています。ちょっと、レベル上げに向かう途中であなた達を見かけたもんだから、気になってここまできてしまいました。邪魔して申し訳ないです」


 遅れてきたルークが、お兄さんらしく大人の対応を見せる。っていうか、こんなこと言えるほど成長してたんだルークは。


「む、ルークだと!? もしかして、クランホープのキリバスさんとソフィアさんの息子のルークか!?」


 どうやらケインもルークのことは知っていたようだ。さすがにキリバスとソフィアは有名人だからそういうこともあるか。


「うーん、そのルークで間違いないんだけど、いずれ父さんと母さん抜きに覚えてもらえるようになりたいな」


 まだまだ成長途中とはいえ、やはり親の七光りと思われるのは癪なのだろう。ルークは仏頂面でケインの質問に答えた。


「ああ、すまない。そういうつもりで言ったんじゃないんだ。もちろん、君自身のことも知っているよ。武術学院のSクラスに入るほどの実力者なんだろう?」


 ケインは非礼を詫びるように頭を下げた。若いのになかなか出来た人物に成長したようだ。


 だが、ケインがキリバスとソフィアの名前を出したのには別の理由があったようだ。それは、ケインとその父のクロフトを助けたアスカが、キリバスやソフィアと同じクランホープのメンバーだったことを思い出したからだそうだ。


 そこから、ケインがアスカに助けられたときの話を始め、それを聞いたルークとアスカが、父と母から聞いたアスカの武勇伝をケインに披露したため、騎士団の作戦中だというのにケインとルークが盛り上がって意気投合し、なぜかこの後の掃討作戦を手伝うことになってしまった。


 周りの団員達も、初めはこの三人の話に興味深そうに耳を傾けていたが、さすがにこの後の作戦まで一緒に行動させるのはまずいと思ったのか、盛り上がる三人に気づかれないように何名かがそっと団長の元に向かったようだ。


 だが俺は気がついてしまった。この騎士団の中で一番戦闘力が高い団長は、おそらく前のアスカのことを知っている。だから、ルークとアスカの話を聞いたら一緒に盛り上がってしまうであろうことを。

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