第45話 分業

 結局、その後も質問攻めにあったアスカであったが、魔王については知り合いの付与師に聞いたと答えさせた。人から聞いただけで、持っている槍からリンが魔王の娘だと気がつくものだろうかとアオイやカケルは疑っていたが、キリバスやソフィア、そしてケンヤは全く違う可能性を考えていたようだ。




「ま、まさかアスカが帰ってきたのか?」


 ケンヤがなぜか怯えたように呟く。


「そ、そんなことは……いや、しかし……」


「それなら、なぜ私達に……」


 キリバスやソフィアは戸惑ったように顔を見合わせている。


 このままでは盛大な勘違いをさせてしまいそうだったので、アスカには付与師は男だったと言わせた。そのおかげか、さすがにアスカが戻って来たとは考えられないという結論に達してくれたようだが、今度はその付与師は一体誰なのだということで盛り上がってしまった。


 まあ、そんな人物はいないから結局結論が出るわけはなかったんだけど、とりあえずごまかせたということでいいのかな……


 その後は、ルークもリンもアスカも実力的には申し分ないということで、今後の予定について話し合う会議になった。場所は懐かしきホープの食堂だ。以前ここで、ホープ武術大会の賞品授与なんかも行ったっけ。


 ここではアオイが仕切るのかと思いきや、ここでもケンヤが話を進めるようだ。仕切りたがりのアオイも、師匠がいると大人しくなるんだな。




「さて、お互いの実力がわかったところで次にやるべきことを確認したいのだが、アオイそっちはどうするつもりだった?」


「はい、私達はライアット教授を探しに行く予定でした」


 ケンヤの問にアオイが表情を変えずに答える。


「あー、なるほど。アスカの書か。確かに彼に会えば有用なスキルについて教えてもらえる可能性はあるが……スキルポイントが足りないだろう?」


「はい、そうなのですが、それとは別にちょっとライアット教授に聞きたいことがありまして」


 そう答えたアオイはケンヤに近づき耳打ちをした。おそらく、ルークのスキルについて伝えたのだろう。それを聞いたケンヤが目を丸くしている。


「よし、ではアオイとカケルはマルコを連れてライアット教授を探してくれ。それから、ルーク君だったかな。君はまだレベル上げの余地があるようだね。正直、君のレベルが最大まで上がった時にどれほど強くなるのかちょっと怖い気もするが、今は何より強い仲間が必要だ。君は一ヶ月でできるだけレベルをあげてくれないだろうか?」


 アオイからルークのスキルについて聞いたケンヤは、すぐさまルークの将来性に気づいたようだ。何よりもレベル上げを優先するようにアドバイスしている。


「わかりました。明日からすぐにレベル上げに取りかかります」


 ルークにとってもこの申し出は願ったり叶ったりだったのだろう、迷わず即答した。


「じゃあ、アスカもルークについて行く!」


 うぅぅ。最近のアスカは俺に意見を求めなくなってきている。成長していると言えば聞こえはいいけど、俺としてはかなり寂しい……


「それじゃあ、うちはいったん魔族領に戻るわ。なんやスキルポイントがあれば新しいスキルが手に入るなら、うちはスキルクリスタルの情報集めたるわ。うちのおとんなら何か知ってるかもしれんしな」


 ライアット教授の居場所がわかれば、自分もあわよくばスキルの1つでも教えてもらおうという魂胆だな。魔族らしい合理的な考え方だ。それにしても、リンもアスカの書の存在を知っているかのようだな。さすが魔族の情報網は侮れない。


「なるほど。魔王ならスキルクリスタルのありかのひとつやふたつ知っているかもしれないな。よろしく頼む」


 ケンヤは魔族などあまり信用していないだろうから、見つかれば儲けものくらいのつもりだろう。むしろ、行動を別にする方がありがたいといったところか。


 カケルが武術学院に入ったばかりなのに、授業も出ずに大丈夫だろうかと心配しているが、どうやらこの王都の学院では前例があるらしく、世界の危機に関わることならば学院に籍を残したまま自由に行動できるらしい。なんでも数年前に魔術学院でそういった生徒がひとりいて、できたルールらしいのだが……


 うん、前のアスカのことだね。


 そして、それぞれやることが決まったことで、この場は解散し各々準備をすることとなった。




▽▽▽




「さて、アスカ。まずはレベル上げをする場所を決めようか」


 ルークとアスカはいったん自宅に戻り、レベル上げの場所を決めてから準備に取りかかることにしたようだ。もちろん、経験豊かなキリバスやソフィアも一緒だ。


「レベル上げなら地下迷宮ダンジョンが一番効率がよさそうなんだけど、どこかいいところないかな?」


「そうだな、代表的なところでいけばこの間、お前達が行ったフォーチュンだが、あそこは魔法か属性武器がないときついからな」


 ルークの問にキリバスが答える。そう言えば、ルークの剣は素材はいいけど属性はついてないんだったか。確かにフォーチュンはきつそうだな。


「あー、確かに新しい武器がほしいかもしれない。この剣も悪くはないんだけど、これだけステータスがあがるとちょっと耐久力が心許ないというか……。属性が付いてればなおありがたいけど、それを抜きにしてももうちょっといい武器がほしいな」


 ルークの言うことはもっともなのだが、それを聞いたキリバスとソフィアは渋い顔をした。確かに今のルークの剣はミスリル製なので、もう少しいい武器を用意した方がいいのはわかる。しかし、今のルークのステータスに耐えうる武器となれば、それこそミスリル以上の素材で作られてなければならない。


 ミスリルの上となるとアダマンタイトかオリハルコンか。それに付与付きとなると、そもそもその辺のお店に売っているのかどうかというレベルの話になる。万が一売っていたとしても、一体いくらになるのやら……


 それがわかってしまったからこその渋い顔なのだろう。


「買ってあげたいのはやまやまだけど、今以上の武器となると明日すぐにとはいかないな」


 キリバスの返答にルークも頷かざるを得ない。


「武器は帰ってきてから考えるとして、レベル上げの場所はあそこでどうかしら?」


 ソフィアの言葉にキリバスも『ポン』と手を打って何かを思い出したようだ。


「そうだな、ルークのステータスがあればあそこでも大丈夫だろう。ちょっと遠いが一ヶ月もあれば何とかなるだろう」


「えっ? なになに? そんないい場所があるの? 俺も知ってるところ?」


 キリバスとソフィアが思いついたところに思い当たる節がないのだろう、ルークが若干興味深げに問い返す。


「今から教える地下迷宮ダンジョンはまだ世間には公表されていない。以前のホープのメンバーだったアスカが見つけ、クランホープのメンバーしか知らない場所なんだ。だから、お前も人に教えちゃダメだぞ」


「えっ!? まじで!? そんな場所があるの? 行きたい! ぜひ行ってみたい!」


 キリバスの説明を聞いたルークが興奮で身を乗り出している。それもそのはず、未発表の地下迷宮ダンジョンなんて早々見つかるわけないだろうし、何より人の手が入っていないとなるとレベル上げのついでにお宝を発見できるかもしれない。その中には今よりいい武器が……


 そう考えると、ルークが興奮するのも無理はない。


 それからソフィアが地下迷宮ダンジョンデスバレーまでの道のりを説明し、必要な道具なんかもみんなで確認し合った。片道一週間ほどかかるので食料や野営の道具など、明日、レコビッチさんのところで買いそろえてから出発することにした。


(お兄ちゃんってその地下迷宮ダンジョン知ってる?)


(ああ、知ってるな。知ってるどころか、今の俺なら空間転移テレポーテーションでいけちゃうな)


(ええ!? やっぱりお兄ちゃんってすごい! でも、アスカはルークと旅もしてみたいから、今回は転移はなしでお願いします!)


 くそ! 確かに好奇心旺盛のアスカなら、こんな冒険っぽいことを逃すはずがない。ルークとの二人旅は何か釈然としないが、俺もいることだしよしとしよう。


(それとね、お兄ちゃん。アスカ、ルークのために武器を作ってあげたいんだけどな。ダメかな?)


 くぅぅぅ! 本当はダメって言いたいのに、こんなにかわいい顔でお願いされたら断れないじゃないか!?


(い、いいよぉぉぉ)


 俺は心の中で泣きながら許可をした。


(ありがとうお兄ちゃん! だーいすき!)


 よし、この言葉でルークより俺の方が上だと思おう。


 そんなこんなで、明日準備をしてからアスカとルークの一ヶ月にわたるレベル上げの旅が始まるのだった。

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