第47話 オーク掃討作戦
「……その時だったよ。アスカさんが目にもとまらぬ速さで動いて、私の娘を救ってくれたのだ! しかも、ミスリルの剣を素手で握りつぶしてだぞ! 信じられるか?」
ルークとケインが盛り上がっていたところに、他の団員に呼ばれてきた団長だったが、それは俺が思った通り、前のアスカがオリハルコンの剣をプレゼントしたサモエドさんだった。
あの時はまだ若い細身の騎士だったが、今は口ひげなんか生やしている渋い中年の男性に変わっている。体つきもあの時より一回りも二回りも大きくなっており、その見た目の違いからも随分と鍛えられていることが伺えた。
サモエドはルークの話をちょっと聞くなり興奮してしまったようで、ゆっくり話がしたいと団長用に立てられた天幕に三人が連れて行かれた。そこで、ルークから詳しい話を聞きそれが終わると今度は自分が若い頃に体験した話を3人に聞かせているというわけだ。
「それでサモエドさん、そのアスカって人に打ってもらった剣というのは……」
話が一段落したところでルークが最も興味を示した剣について質問する。
「ああ、これのことか?」
サモエドが腰に差している片手剣をスラッと抜いた。
そのオリハルコンの剣身は白く淡く輝いており、聖属性が付与されていることがわかる。それに、確かあの時のアスカは身体強化と結界を付与していたはずだ。ルークはこの剣から発せられる魔力とその存在感に圧倒されているようだ。
「この剣のおかげで私は騎士団長まで上り詰めることができた。もちろん、この剣の使うのに相応しい人物になるように鍛えてきたつもりだが、ここまできてようやくその足下にたどり着いたという感じだよ。それほどまでに、この剣は素晴らしいできなんだよ」
サモエドが目の前に掲げた剣を見つめながら、まるで自分に言い聞かせるように呟く。
その言葉を聞きながら、若い三人もまたサモエドの手にある剣から目が離せなくなっていた。
「痛い!」
「む、どうした娘さん? 大丈夫か?」
その時、アスカが頭痛を感じたのか額に手を当ててうずくまってしまった。俺もその瞬間に一瞬意識を失いかける。何か前にも似たようなことがあったが、一体全体どうしたというのだ?
「急に頭が痛くなっちゃって……でも、もう大丈夫!」
「そうであるか? 無理せずここで休んでいてもよいのだぞ?」
サモエドが心配そうな顔でアスカを見つめる。
「ありがとうおじさん! でも、本当に大丈夫だよ!」
そんなサモエドの心配を吹き飛ばすかのようなアスカの会心の笑顔に、おじさんと言われて一瞬悲しそうになったサモエドの顔も自然とほころんだようだ。
「さて、本来はこんなことを申し出ることはないのだが、ここで出会えたのも何かの縁。もし、君達さえよければこの後予定している、オーク掃討作戦に一緒に参加してくれないだろうか?」
話が一段落したところでサモエドが本題を切り出してきた。どうやら、昔話をするためにだけに天幕に呼んだわけではなかったらしい。彼の言う通り、通常騎士団の作戦に冒険者が参加することなどほとんどないはずだ。それなのにあえて誘うということは、単に仲良くなったからだけではないのだろう。
「オークキングでもいるのですか?」
ルークもその辺りを察したようで、サモエドに真意を確かめる。
「ははは、やっぱり気がついたか。君の言う通り、予想より少々オークどもの数が多くてね。さらには、今朝方放った斥候がオークキングの姿を確認したそうだ。オークキング一体くらいなら私でも大丈夫だと思うのだが、見たところ君達も若いのにかなり強そうだ。少しでも討伐の可能性を上げておきたいし、何より君達が加勢してくれれば団員の被害も減りそうだからね」
そう言ってニヤッと笑ったサモエドは、騎士にありがちな冒険者を軽視するような態度は見られない。まあ、冒険者だったアスカを崇拝しているようだから、そんなことにはならないのだろうが。
「あー、俺は構いませんよ。もともとレベル上げが目的の旅ですので、オークキングまでいるなら経験値も期待できるでしょうから」
「アスカもいくー!」
どうやらルークもアスカもやる気満々のようだ。
「それでは1時間後に出発するから準備をしておいてくれ。場所はここから三十分ほど歩いたところだ」
そこでいったんサモエドと別れ、ルークとアスカは昼食を取った後、時間まで武器や防具を点検して過ごした。
そして、騎士団五十名と一緒にオークの集落へと向かうのだった。
▽▽▽
オークの集落へ向かう道中では、騎士団の一員であるサモエドの息子オルネオと意気投合し、ケインとルークと三人で戦術話に花を咲かせていた。その様子をアスカはニコニコしながら後ろで見守っている。
それにしても、今、討伐しに行くオークの集落にはA級のオークキングを始め、オークナイトやオークメイジ、末端のオークを含めると百体ほどいるようだ。
こちらの騎士団は五十名。単純計算ではひとり二体倒せば勝てる算段だ。だが、オークはともかくオークナイトやオークメイジを単独で倒すとなるとそれなりに実力がなければならない。この騎士団にそれだけの実力者がそろっているのか不明だが、上手くやらないとこちらの被害も大きくなりそうだ。
何かしら作戦はあると思うのだが、どうやら敵はオークだけではなさそうだ。俺の探知にワプスの群れとアントの群れがかかっている。オークどもが飼い慣らしているかどうかは不明だが、戦闘が長引けば異変を察知して群れで襲ってくるだろう。
そうなればこの騎士団などひとたまりもなさそうだが……
ま、アスカも気づいてるみたいだからいいか。
「全軍止まれ。前方に見えるのがオークの集落だ。まずはケイン率いる先方部隊がオークどもに攻撃を仕掛ける。上手く連れたところで、先鋒部隊は徐々に後退するんだ。残りの兵は二手に分かれ左右に待機せよ。ケイン達が釣ってきたオークを挟み撃ちで撃破する」
なるほど、好戦的なオークの性格を利用して、おびき出し作戦か。これが上手く行けば被害は少なくて済みそうだ。もちろん、先鋒部隊が少数ずつ上手に釣ってくるのが大前提ではあるが。
先鋒部隊以外の団員の配置が終わり、先鋒部隊はケインを先頭に徐々にオークの集落に近づいていく。ルークもアスカもケインと一緒に先鋒部隊に混ざっている。
「弓兵前へ。まずは一番近くにいるオークを狙うんだ」
ルークとアスカを除いて十名からなる先鋒部隊のうち、弓を装備した二名が前に出て狙いを定める。
ヒュ! という音がして、狙い通り一番手前のオークの頭部と肩に矢が刺さった。
「ガァァァ!」
突然の痛みにオークが叫ぶ。その叫び声を聞いたオーク達が、こちらに気づき向かってきた。
「よし、引きながら戦うぞ!」
ケインの指示で弓兵が後方へと下がり、剣と盾を持った騎士達がオークの群れを迎え撃つ。
ケインとオルネオはさすがで、二人ともひとりで二体のオークを相手に余裕を持って対処している。その分、他の団員達の負担が減り三人で二体を相手にするだけで済んでいるのだ。
ただ、最初に引っかかった十体ほどのオークは全て下級のオーク達だったが、その後ろからオークナイトやオークメイジの集団が迫っているのが見えた。
「オークメイジが現れた! 速やかに下がれ!」
魔法は離れたところから攻撃できるからこのままでは一方的に狙い撃ちされてしまう。だが当然、その距離には限界がある。団員達が下がれば下がるほど、オーク達は距離を詰めようと前に出てくるのは当然の流れだ。
「罠にかかったぞ! オークどもをすりつぶせ!」
先方隊がオーク達を十分に引きつけたところで、サモエドの合図と共に左右に待機していた団員達が一斉にオーク達に襲いかかった。オークメイジは魔法による攻撃は得意だが、接近戦にはめっぽう弱い。突然現れた騎士達に次々と倒されていく。
「オークキングがでたぞ!」
その時、一番オークの集落の近くにいた騎士が叫んだ。二メートルはあるオークのさらに倍くらいある巨大なオークキングが、同胞を殺された怒りで顔をゆがめながら走ってくるのが見えた。さらに、オークキングの後を追うように、オークキングより一回り小さいオークロードが四体向かってくる。
「オークキングは私に任せよ! ロードはケインとオルネオ、それにルーク殿とアスカ殿にも頼めるか?」
「任せろ!」
「ほいきた!」
「もちろんだ!」
「はーい!」
ケイン、オルネオ、ルークは気合いと自信が十分に伝わる返事を、アスカはそれはもうかわいい返事をサモエドに返した。
ギィィィン!
まずはオークキングの挨拶代わりの一撃を、サモエドが片手剣で受け止めた。オークキングの持つ棍棒はどこで手に入れたのか、アダマンタイトでできた一品のようだ。しかし、並の武器なら折れてしまいそうな強烈な一撃も、サモエドのオリハルコンの剣の前に逆に傷をつけられたようだ。
余程その一撃に自信があったのであろうオークキングは、簡単に防がれてしまったことに怒りを忘れ驚きの表情を浮かべている。
「ハッ!」
サモエドはキングの棍棒を押し返し、足下に斬りかかった。
慌てて下がるオークの王。その巨体故に致命傷にはならないが、サモエドの剣は確実にオークキングの足にダメージを与えていく。
「クッ!?」
しかし、あと一歩で追い詰めるところまでいったサモエドだったが、遅れてやって来たオークメイジの加勢に、いったん引かざるを得ない状況になってしまった。
一方、若い戦力四人組の戦いはというと、ケインとオルネオはオークロードと互角の戦いを演じていた。B級のオークロードと一対一でやり合えるとは、冒険者で言えばBクラスの実力があるということだろう。力押しのオークロードに対し、その一撃をくらわないように慎重に立ち回っているように見える。時間はかかるかもしれないが、一番リスクの少ない戦法と言える。
ルークはカケルに剣を借りたとはいえ、S級を単独で倒した実力者だ。早々にオークロードを倒し、万が一に備え、ケインとオルネオのサポートに入れるように準備している。
そして、アスカはというと……
(何してるのアスカちゃん?)
(えーとね、オークさんにマッサージしてもらってるの!)
アスカはただオークロードに背中を向けて立っているだけだった。
その頭や背中にこれでもかと棍棒を叩きつけるオークロード。しかし、その必死の形相にも関わらず少しのダメージも与えることができていない。
それどころか……
「うーん、あんまり気持ちよくないなぁ。ちゃんと力入れてる?」
マッサージにすらなっていないようだった。
だんだんと涙目になっていくオークロード。
その様子を唖然と見つめる周囲の騎士とオーク達。
「もういいや。バイバイ!」
突然振り向いたアスカがオークロードにデコピンをかますと、オークロードの身体が爆散した。
それを見た周りのオーク達は恐怖で動きが止まる。
それを見た周りの騎士達も恐怖で動きが止まる。
「オークキングさん見に行こうっと!」
そんな周囲の状況にお構いなく、アスカはオークキングの元へとスキップしていった。
オーク達と騎士達は同時に我に返って戦闘を再開する。しかし、オーク達にとってアスカは敵である。騎士達にとってアスカは味方である。この事実が、オークと騎士達の絶対的な差となって騎士達のオーク掃討が進むのであった。
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