第43話 ルーク vs マコト
「えーと、ルーク君だったかな? 僕は男の子の名前を覚えるのが苦手でね。間違ってたらごめん。おじさんは、魔法特化とはいえ転生者だからねー、ステータスもそれなりに高いよ? やめとく?」
ルークとマコトの試合開始早々、マコトがルークそんな提案をし始めた。男相手で、明らかにテンションが下がっているようだ。
「いえ、俺もそれなりに鍛えてるんで、お手合わせよろしくお願いします」
ルークはマコトの申し出を軽く躱した後、アオイを見て静かに頷いた。マコトがケンヤと約束した通り魔法を使わなければ、結構いい勝負ができるだろう。鑑定で両者のステータスが見えているアオイはそう思っているはずだ。いや、むしろルークの方が優勢に試合を進めるかもしれないな。
「そっかー、それじゃあさっさと終わらせようか」
そう言い終えたマコトの目は鋭くなり、先ほどまでの軽薄さが消えている。この辺りはさすが転生者と言ったところだろうか。
一方、ルークの方も腰を低く落としいつでも戦闘に入れる体勢だ。この勝負、魔法なしならどちらが勝つかわからない。面白い試合になりそうだ。
「それじゃあ、いくぞ!」
まずはルークが低い姿勢から足下を狙い剣を横に振るう。ルークの敏捷は1200ほど、対するマコトは1100を超えたくらい。だが、今の攻撃を躱したところを見るに、身体強化が付与された防具でも装備しているようだ。
「ちょ、ちょっと待って!? おかしくない? 今の動き何? 君はこっちの世界の人だよね?」
マコトの方が敏捷が上っぽいが、その差はほとんどないように見える。しかも、今の一撃は攻撃力1400超えから繰り出されているため、素の耐久力が900に届いていないマコトには、十分ダメージを与えられる一撃のようだ。転生者でもないルークが、それだけの攻撃を繰り出してきたことにマコトは驚愕しているようだった。
「だから、鍛えていると言ったじゃないか! まだまだいくぞ!」
幼い頃からSランク冒険者であるキリバスに鍛えられているルークは、元々高い技術を持っていた。さらに、最近の魔物との戦いでその技術に益々磨きがかかっているようで、動きの速さで上回るマコトを巧みな連続技で追い詰めていく。
「うっ、くっ、おわ!? ま、まずい、このままじゃ……仕方がない……」
ルークの連続技をかろうじて躱し続けているマコトだったが、このままじゃ勝てないと悟ったのだろう、先ほどの約束もどこへやら、魔法を唱えようとしやがった。
「マコト! 魔法はダメだ!」
その雰囲気を察したケンヤが大声を飛ばすが、マコトは『殺しはしない!』とだけ答えて、魔法を止めるつもりはないようだ。俺は一瞬、結界でルークを守ろうとも考えたが、ルークがニヤッと笑うのを見てそれを止めた。ルークがアレを持っているのを思い出したから。
「
マコトが詠唱短縮から放ったのは炎操作Lv4の魔法
「腕輪よ!」
対するルークは、マコトの魔法が発動する直前にアスカがあげた腕輪に魔力を込めた。瞬時に薄い光りの膜がルークの身体を覆う。結界Lv5持ちのアスカが付与した、魔力が続く限り、あらゆる物理攻撃、魔法攻撃を防ぐ
魔力が少ないルークなので、結界を維持する時間には限りがあるが、瞬間的な破壊力に特化した魔法であれば、タイミングを見計らうことで十分に防ぎきることができた。逆に、
炎の爆発を防ぎきったルークが、お返しとばかりに追撃を始めると……
「あぁぁぁ!? なんで今のが効かないの。うわっち!? 降参、降参しまーす! やめて、もうやめてぇぇぇ!」
マコトは降参すると叫びながら背中を向けて逃げ出した。勝てないとわかると、恥も外聞も捨てて逃げ回る姿は潔いと言うべきか、神経が図太いと言うべきか、どちらにせよ女性陣の目は、逃げ回るゴキブリを見るかのように冷え切っている。
マコトが降参したことで、この勝負はルークの勝ちとなった。その勝利には、ケンヤはもちろんのことキリバスやソフィアも驚いたようだ。正確には、勝利と言うよりも今見せた動きの方にだと思うが。
「ル、ルーク今の動きは?」
対戦を終えて戻って来た息子にキリバスが問う。
ルークが対戦したマコトは、魔法特化とは言え物理系のステータスもこの世界の者達では太刀打ちできないくらい高い。そんなマコト相手に勝利を収めてしまったのだから、驚くなという方が無理がある。
一瞬考える素振りを見せたルークだったが、観念したように先日の
2人はルークの説明に『信じられない……』なんて呟いていたが、息子の成長が嬉しくないわけではないのだろう、ルークのステータスを聞いて段々興奮し始め、最後にはお互いの手を叩き合って喜んでいた。それをうらやましそうに見つめるアスカ。何だろう、若干嫌な予感がする。
一方、マコトは約束を破って魔法まで使って敗れたのが面白くなかったのだろう、憮然とした表情でケンヤの横に立ってその様子を眺めていた。
さて、これでリンとルークの実力が証明されたわけで、残すところは我が妹のみとなったのだが……
「さて、後はアスカだけとなりましたね。そうですね……アスカの相手はケンヤさん、お願いできますか?」
「な、なんで私が戦わなければならないんだ!? 絶対に断る!」
ソファアの提案に、声を荒げて必死に抵抗するケンヤ。それほどまでに、あの時のことがトラウマになっているのか。ましてや、対戦相手が同じくらいの年齢の同じ名前ならなおさらか。
それじゃあ、誰が戦うのかという話になるが、適任者もいなくどうしようかとみんなで悩んでいたら、意外なところから手が上がった。
「うちがやろうか?」
最初にカケル、アオイの2人と戦ったリンが立候補したのだ。そういえば彼女は、あの2人を相手にしてもまだまだ余裕がありそうだったな。
「リンさんが相手ですか。私にはアスカに務まるとは思えないのですが……」
先ほどのリンの試合を思い出してか、ソフィアが言葉を濁す。アスカの実力を知らなければ、母親として当然の反応だろう。
「いやいや、うちに見立てなら結構いい勝負になると思うで!」
「僕もリンと同意見だ」
リンに続き、カケルまでもアスカの実力を保証してしまった。こうなると、ソフィアにも止める何ものもなくなってしまう。
「それじゃあ、アスカ、リンさんとでいいかしら?」
一抹の不安を顔に除かせながら、ソフィアが心配そうにアスカに尋ねる。
「うん、いいよ!」
そんな母親の心配をよそに、ようやく自分の番かと満面の笑みで頷くアスカ。先ほどまでの試合に影響されたのと、ルークが褒められているのを見てとってもやる気になっているようだ。俺の中の嫌な予感がどんどんと膨らんでいく。
「はあ、わかりました。それじゃあ、リンさんとアスカの試合を始めます。リンさん、手加減して下さいね」
「ふふふ、案外手加減されるのはうちかもしれんで!」
ソフィアのお願いに、実は的を射た返答をしたリンが訓練場の中央に歩いて行く。その後ろを嬉しそうにアスカがついていった。
そして、ここ王都のど真ん中で魔王の娘と最強転生者の戦いが始まるのだった。
(アスカ、頼むから手加減してくれよ……)
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