第42話 リンの実力
「こ、これは結界か!?」
クランホープのハウスに入ったケンヤが、ハウスの訓練場の壁一面に貼られている結界に驚きの声を上げる。以前、アスカがここに張った結界だ。確かあの時は、結界と一緒に全属性耐性も付与していたような。随分と年月が経つが、魔力を込めればちゃんと結界が作動するとは驚きだ。
カケルやアオイも『こんなのクラリリスでも見たことない』なんて呟いている。まあ、アスカが気合いを入れて作った拠点だからな。そうそう、真似できるものじゃあないよ。
「それじゃあ、早速、模擬戦を始めましょうか。ルールは……治癒Lv5持ちがいらっしゃいますから、何でもありでよさそうですね」
なぜかこの場を仕切り始めたソフィアが、笑顔で恐ろしいことを言い放つ。
「えっと、その治癒持ちのおじさんが倒れたら、誰が治してくれるのかなー、何て気にしてみたり……」
若干顔を引きつらせながら訴えるマコトの言葉は、残念ながらソフィアの耳には届いていないようだ。
「まずはリンさんの実力を見させてもらいましょうか。私の息子の話によると、カケルさんやアオイさんにも劣らないどころか、その上をいくかもしれないとか」
「またまたー、買いかぶりすぎや。うちにそんな実力はないで!」
「はい。それはそれとしてリンさん、カケルさんとアオイさんと戦ってみましょう!」
リンの訴えも、笑顔のソフィアにあえなくスルーされる。それにしても、転生者2人に相手をさせるとはソフィアも思い切ったことをする。だが、ステータス的にはスキルの身体強化込みでリンは3500前後、カケルとアオイは2500弱といったところだから、かなりいい勝負になりそうだ。ただ、HPとMPに関してはリンの方が遙かに高い。長期戦になったら、有利なのはリンだろうな。後は、リンがここで本気を出すかどうかだけど……それはやってみないとわからない。
ソフィアにそう言われ、カケルとアオイは真剣な顔をしながら、リンは苦笑いしながら訓練場の真ん中に向かい合って立つ。しかし、俺は気がついていた。苦笑いするリンの目が笑っていなかったことに。
「それでは、始めて下さい」
ソフィアの、開始の合図らしからぬ丁寧な号令で始まった カケル&アオイ vs リンの試合。
まずはアオイがノーモーションからいきなり全力の矢を放った。
開始直後のノーモーションだったにも関わらず、余裕を持ってその矢を躱すリン。確かマルコは、入学試験で同じような攻撃でやられていたはず。流石は魔王の娘、マルコとは違うというわけか。
しかし、矢を躱したのも束の間、その矢を追いかけるように素早く距離を詰めたカケルが、大上段からリンに斬りかかる。
ガキィィィ!
その剣を黒い槍で受け止めるリン。鋭利や硬化の付与がされたカケルの剣を受け止めても、傷ついている様子がないことから、あの槍はアスカが倒した魔王の槍と同じくオリハルコンでできているのだろう。
それにしても、どうやらカケルとアオイは連携の訓練もしているようだ。当然と言えば当然だけど、それを使われればリンも本気を出さざるを得なくなるな。
「
カケルの剣を受け止めて動きが止まったリンに、見事にコントロールされたアオイの矢が背後から迫る。しかも、
「二連突!」
カケルの剣を逆に力任せに弾き返したリンが、振り向きざまに二連突を放ち、その矢を打ち落とす。剣を押し返され体勢が崩れたカケルは追撃が遅れ、放った断鉄斬は、矢を打ち落としたリンがそのまま前方に転がることで回避されてしまった。
さらにリンは、起き上がり様にカケルに閃光突を放つ。カケルは身体を反らすことでかろうじて躱すことができたが、槍の先が鎧の胸の部分に当たり鈍い音を響かせた。
「突風よ、敵を吹き飛ばせ
さらに追撃しようとしたリンの元に、今度はアオイの魔法が迫る。突如現れた突風が、リンを押し流さそうとするが……
「闇の力よ、敵を討て
その突風をリンが生み出した闇が押し返す。さらにその闇の触手が、槍がかすめた衝撃で体勢を崩しているカケルに迫っていった。
「退魔斬!」
カケルの下からすくい上げるような必殺技が、迫る来る闇の触手を切り裂く。たまたま、剣術の必殺技が闇魔法の弱点属性である聖属性だったから出来た技だろう。そうでなければ、今の一撃でカケルは倒れてしまっていたはずだ。それだけ、魔力の込められた闇魔法だったのだ。
お互いに必殺技や魔法を連発したせいか、一息つくために距離を取り見つめ合う3人。
正直、リンがここまで強いとは誰も思っていなかったのだろう、今の一連の攻防に誰もが驚きを隠せずにいた。さらに言えば、カケルとアオイの表情には余裕がないが、リンの方はというと変わらずにひょうひょうとしている。まだまだ余力があるということらしい。
「よろしい、そこまでにしましょう」
その状況を見て、ソフィアが終わりを告げた。俺としてはもっと見ていたかったが、目的が相手を倒すことではなく、リンの実力を試すことであるなら、ここで終わるのが妥当だろう。これ以上続ければ、本当にどちらかが怪我をしてしまうからな。
「リンと言ったか……君は一体何者だ?」
自慢の弟子2人と互角以上の戦いを見せたリンに、ケンヤが問いかける。
「ははは、うちはただの学院生よ。ちょっとばかし、2人よりはレベルが高いかもしれんけどね!」
その実力は見せても、さすがに正体を明かすことはしないようだ。今の戦いを見て、誰もただの学院生というところに納得はできていないようだが、それ以上突っ込んで聞くこともできずただリンを見つめることしか出来ない。
(ねぇねぇ、お兄ちゃん。リンさんの槍ってカケルさんの剣に負けてなかったけど、何でできてるのかな?)
おっと、俺のかわいいアスカからの質問にはすぐに答えてやらねばなるまい。
(あれはオリハルコンでできた槍だな。先代の魔王が使っていたのと同じ物だったからな。最も、その槍はSランク冒険者との戦いで折られてしまったから、あれは新しく作ったものだろうけど)
(へー、そうなんだ。オリハルコンを折るってすごいね)
(いやいや、確かに普通に考えたらすごいけど、アスカちゃんなら簡単にできちゃうよ!)
(えっ!? そうなんだー。オリハルコンって案外もろいんだね!)
いや、アスカ以外には無理だと思うけど、そこは黙っておくことにした。
「それじゃあ、次はルークの出番ね。マコトさん、お相手をお願いします」
リンの実力を確かめたら、次はルークの出番だ。今までのルークならあのレベルの戦いにはついていけなかっただろうし、それがわからないソフィアでもないはず。それでもルークを指名したということは、ソフィアもキリバスもルークの異常な成長に薄々感づいているのかもしれない。それを確かめるためにも、この場を利用するつもりだな。
「お、お手柔らかにお願いします」
「おじさんは女の子と戦いたかったけど、美人のお母さんに頼まれたんじゃ嫌とは言えないね」
緊張して言葉に詰まっているルークに対し、あくまでチャラいままのマコト。これは本物だな。キリバスも恐ろしい形相でにらんでいるし。
「マコト。相手は武術学院の学生だ。魔法は使うなよ」
訓練場の中央に向かうマコトに、ケンヤが声をかける。ルークが魔法を使えないための配慮だろう。
「はいはい、できるだけそうするよ」
その軽口は全く信用できそうにないが、とりあえず初っぱなから魔法を使うということはないだろう。
ルークのステータスは物理面でいけば700~800くらいある。身体強化Lv3で80%アップするから、実質、1200~1400はあるはずだ。
対するマコトは、攻撃力約700、耐久力約800、敏捷約1100と身体強化がない分、ルークよりも劣っている。そんなことになってるとは知らないマコトは、魔法を使わなければあっと言う間に負けてしまうぞ。
鑑定持ちのアオイやカケル、リンはその辺りのことがわかっているからか、カケルは心配そうに、リンはニヤニヤと、アオイはゴキブリを見るかのような冷たい目でマコトを見ている。
「それでは、始めて下さい」
ソフィアの一言で、ルークとマコトの試合が始まった。
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