第41話 第3の転生者

「もうひとりの転生者って、どんな人なの?」


 昨日聞いた通り、カケル、アオイ、リン、ルークの4人で転生者を迎えに行くとのことなので、アスカも一緒にくっついてお迎えに参加している。カケルやアオイと同時期の転生者のはずだから、ヘルティウスという神が転生させた人物なのだろう。アスカがカケルに聞いたように、俺もちょっと興味がある。


「うーん、実はその辺りの情報は細かくは伝わってきていないんだ。わかっているのは、男性で僕らより年上だってことくらいかな」


 ほほう。男性とな。その転生者の実力が本物で、こいつらとパーティーを組むことになれば、男女3人ずつの6人パーティーになるのか……。気をつけねば。


 何てことを考えていると、カケル達は王都の正門前までたどり着いたようだ。この後、転生者を連れたケンヤが王都に来ることなっているようだが、すでに俺の探知はケンヤと転生者の姿を捉えていた。


(鑑定)


 名前 マコト・シンジョウ 人族 男


 レベル 100

 職業 勇者

 HP 1322

 MP 2010

 攻撃力 763

 魔力  1998

 耐久力 891

 敏捷  1131

 運   1254

 スキルポイント 21


 スキル

 治癒 Lv5

 炎操作 Lv5

 思考加速 Lv3

 鑑定 Lv3

 探知 Lv2

 詠唱短縮


 おおう、これはこれは都合よく治癒持ちの魔法特化の転生者だこと。いや、そうなるようにヘルティウス様とやらが誘導したのかな?


 どちらにせよ、治癒Lv5となると蘇生リザレクションも使えるのか。もっとも、消費魔力が半端ないから、消費魔力半減も魔力回復倍化もなければそうそう連発はできないのだろうけど。そして、武術系、身体強化系のスキルがひとつもないからMPが切れたら厳しそうだ。


 王都の城門で待つこと十数分、黒髪の男性が2人並んで歩いてくるのが見えた。その歩き方からも、2人がただならぬ実力を持っていることがうかがい知れる。と言っても、この世界の標準レベルに比べればという話だが。


 2人のうちひとりは俺にも見覚えがある。前のアスカがプッチンして凍らせてしまった転生者、タチバナケンヤだ。あの時はまだ若かったが、十数年の時を経て何だかいい感じのおじさんになっている。


 その隣を歩いているのは、少々軽薄そうではあるがこれまたイケメンのおじさんである。髪は短く、鼻の下に口ひげを生やしているようだ。どう見ても30代かひょっとすると40代かもしれないな。何というか、思っていたより年上だ。それは他のメンバーも感じていたらしく、一様に驚いた表情を見せていた。


「師匠、お疲れ様です!」


「ああ、出迎えありがとうカケル、アオイ。そして、ここにいるのが、君達が選んだ仲間ということかな? 改めて自己紹介させてもらおう。私の名前はケンヤ。そこにいるカケルやアオイと同じ転生者だ。まあ、転生してきたのは随分前だから、もうだいぶ年寄りになってしまったがね」


 まずはケンヤが初対面の3人に自己紹介をした。若い頃のケンヤを知っているのは俺だけだから、みんなはこの自己紹介をすんなりと受け入れている。

 しかし、あの高慢ちきだったケンヤが『私』なんて言うから思わず吹き出しそうになってしまった。確かに、前のアスカにコテンパンにやられた時からだいぶ大人しくはなっていたけど……それにしても人間年を取ると変わるもんだね。


 ケンヤの自己紹介に対し、初対面のルーク、リン、アスカが自己紹介をする。ルークがキリバスとソフィアの息子だと知ると、ちょっとだけばつの悪そうな顔をして、アスカが名前を告げたときには明らかに動揺して一歩後ずさっていた。おそらく、凍らされたときのことを思い出したんだろう。


 続いてケンヤが連れてきた転生者が自己紹介を始めた。


「おじさんの名前はマコトだ。気軽にマコトさんと呼んでくれ! それにしても、世界を救うためのパーティーだというのに、随分美人さんが多いんだな! これならおじさん張り切って頑張っちゃうからね!」


 ……だめだ。ヤバイヤツがきた。マルコがいなくなったと思ったら、さらにヤバそうなのがきた。こんなチャラおじさんが同じパーティーにいたら、一瞬たりとも気が抜けないではないか!


「まあ、ここでは何だから、場所を変えて今後のことを話すとしよう」


 ケンヤの提案で場所を変える総勢7名の集団。喫茶店じゃ大事な話が出来ないとのことなので、ルークの家、つまりキリバス家で続きを話すことになった。おそらくケンヤがキリバスやソフィアに会って、一言謝りたいというのもキリバス家が選ばれた理由の1つなんだろうな。




▽▽▽




「「「おじゃましまーす」」」


 城門前から移動してきた7人が、キリバス家に到着する。今日はキリバスもソフィアも珍しく家にいるはずだ。というか、こうなることを予想して家にいたのかもしれない。


 ケンヤは開口一番、キリバスに国別学院対抗戦でのことを謝罪した。しかし、キリバスもソフィアもその後のケンヤの変容ぶりを知っていたし、何より魔族が侵攻してきたときには先頭に立って戦い、自国の人々を守っていたことを聞かされていたので、それほど嫌悪感もなくなっていた。2人は素直に謝罪を受け入れ、すぐにお互いの情報交換をすることになる。


 まず、ケンヤの話によると転生の神がヘルティウスに替わってから転生してきたのは3名。ここにいる、カケル、アオイ、マコトだそうだ。そしてその3人とも、世界の危機についての話を聞いているらしい。ケンヤは3人の話からクラリリスの文献などを調べ、過去にも転移の神が転移者を送り込んできた事実を突き止めた。


 文献によると、時限の亀裂が出来る前には前兆として、何もないところで雷が鳴ったり、地震や嵐といった天変地異、さらには魔物の活性化などの変化が現れるそうだ。

 そのためケンヤは、クラリリス王にお願いして世界各地に偵察隊を派遣してもらい、情報収集に努めていたというのだ。なかなか、まめに動いている。さすがは元日本人といったところか。


 そして、エンダンテ王国のはるか西にあるキルシス砂漠で、微量ながら魔物の活性化の兆候が見え始めたという情報を得たのだ。その様子から、次元の亀裂が現れるのが半年以内と断定し、急ぎ転生者を集め侵攻に備えるために王都にきたというわけだ。


 一方、キリバスとソフィアもアオイの入学式での話を聞き、独自に調査をしていたようだ。


 それによると過去に現れた侵略者はたったひとりながら、当時の軍事帝国オウグストをほぼ壊滅まで追い込んでしまったらしい。

 ただその時は、相手側に時間制限があったらしく、完全に壊滅させる前に姿を消してしまったそうだ。

 この辺りの情報は、アスカが魔王討伐の際に同行したグリモスから得たようだ。さすが物知りじいさん、何でも知っている。ただ、あのじいさんはアスカを溺愛していたから、アスカがいなくなった話を聞き、涙を流してくれたそうだ。

 その話を聞いたとき、俺の中でじいさんの好感度が急上昇してしまったのは内緒の話だけどね。


 さて、話を戻そう。この2つの情報を総合すると、この半年以内に一国をひとりで壊滅させるような化け物がどこかに現れる可能性が高いということになる。その強さに関しては、はっきりしない部分もあるが、今のカケルやアオイでもさすがに一国相手に無事で済むはずはない。つまり、今のままだと勝てない可能性があるわけだ。


 それに関してはケンヤも同じ考えに至ったのだろう、この半年でここにいる全員のレベルを100まで上げ、万全の準備をして臨ませたいと言った。カケルやアオイがレベル100まで上がれば、キリバスやソフィアはおろか、ケンヤすらも軽く超える強さを身につけるだろう。


 そしてこのあたりはケンヤも知らないことだろうが、魔王の娘であるリンもこの戦いに加わるようだし、ルークもこのまま成長すれば素のステータスではカケルやアオイを超える。そこに魔法特化のマコトが加われば、そう簡単には負けないパーティーができあがるだろう。


 ……それでもダメなら、アスカと俺が何とかする。


「ということは、まずは僕らのレベルを100まで上げるのが優先ですね」


 カケルが今の話を聞き、そう結論づける。


「ああ、その通りなんだが、とりあえずこの6人でパーティーを組むというなら、その実力を見せてもらってもいいだろうか? 転生者3人の実力はよくわかっているんだが……その、何というか、下手をすると命に関わる任務になるだろうから……」


「足手まといを連れて行くわけにはいかないってことだろう?」


 ケンヤが濁した部分を、キリバスがはっきりと口にした。キリバスも自分の息子の実力をわかっての発言だと思う。ただし、俺達がちょっかいを出す前のルークの実力だけどね。


「それなら、模擬戦をすればいい」


 アオイはルークやリンが決して自分達に劣っていないことを知っているから、ケンヤに自信を持ってそう告げた。


「それならあなた、ホープのハウスを使ったらどうかしら? あそこなら結界も張ってあるから、安全でしょ」


 ソフィアの提案で、すぐにホープのハウスに移動し模擬戦を行うことになった。マコトとやらの実力を見るいい機会でもあるから、楽しみなんだけど……アスカ、頼むから暴走しないでくれよ!

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