第38話 お守りの秘密
「「「ルゥゥゥーク!!」」」
腕輪を見つめる俺の耳に、アオイ、カケル、リンの叫び声が重なって聞こえた。だがその声よりはっきりと脳裏に浮かぶ声がある。
(ピンチの時には魔力を込めてね)
確か、この腕輪をもらったときにアスカが言っていた言葉だ。もらった後すぐに魔力を込めたときには、何も起こらなかったのだが……
脳裏に浮かんだアスカの言葉につられ、俺は反射的に腕輪に魔力を込めていた。
途端に光り出すミスリルの腕輪。気がつけば、俺の周りには薄く光る膜が出来ていた。
直後に落ちてきた巨大な岩石が、光る膜に当たって砕けていく。それなのにこの光りの膜は、ひびひとつ入る気配がない。
「あ、
光りの膜の中でリンの呟く声が、やけにはっきりと聞こえる。それにしても
俺の魔力はそれほど多くないが、落石を防ぐ時間くらいは十分にもってくれたようだ。おかげで命拾いした。
落石が収まったところで、3人が俺の元に駆け寄ってくる。
「ルーク、大丈夫? 怪我はない?」
真っ先に俺の元に駆けつけてくれたアオイが、心配して声をかけてくれた。その声はほんの少しだが震えていて、余り感情を出さないアオイにしては珍しい。それだけ俺のことを心配してくれたのかと思うと、結果オーライではあるがちょっと嬉しくなる。
それから、みんなで俺の無事がわかった後、倒れている3人の無事も確かめる。幸い、カケルとアオイが出した魔法の盾もリンが放った闇の触手も、落石からマルコ達を守ってくれていたようだった。
各種回復役や治療薬を使いみんなが回復したところで、いったん69層に続く階段へと戻ってから、今起こった不思議な出来事を検証することになった。
▽▽▽
「さて、何から確認すればいいのかしら」
階段の前で円になって座り、途中から倒れてしまっていたため状況をよく把握していないイリーナ先生に代わって、アオイが話を進めることになった。だが、アオイ自身も色々不可解なことが起こりすぎて、何から確認していいのか迷っているようだ。
「できれば、うちのことはスルーしてほしいんやけど……」
ならば先手とばかりに、リンが自分の話題を避けようとしたのだが……
「じゃあ、リンの正体からお願い」
アオイの決断に余計なことを言ってしまったと、顔をしかめるリン。そして、アオイがリンに尋ねたのは以下の2つについてだった。
・リンの本当のレベルとステータス
・なぜ闇操作のスキルを持っているのか
1つ目については、どうやら鑑定で見えるレベルやステータスと動きが合っていないらしい。アオイの鑑定によるとリンのレベルは45。だが、実際ロイヤルリッチを倒したときのリンの動きは、下手したらカケルやアオイよりも上だったかもしれない。
そうなると、リンはさらに隠蔽のスキルまでもっていることになる。はたしてそんなことがありえるのだろうか。
だが、ステータスについてリンは話す気はないようで、聞かないでほしいな一点張りだった。
2つ目の闇操作のスキルについては、そういう体質だとしか言わなかった。どうも生まれつきっぽい言い方だけど、今までにそんな人間がいたとは聞いたことがない。闇操作は魔族が得意とするスキルだが、人間には向いていないらしく、獲得するのは非常に困難とされている。
(リンって、まさか魔族じゃないよね?)
ちょっと疑いの目で見てしまったが、彼女がいなければ俺達の誰かが死んでいたかもしれない。魔族がわざわざ俺達を助ける意味もないし、それは失礼だと思いその考えは頭の隅に追いやった。
「まあ、リンもこう言ってるしこれ以上追求しなくてもいいんじゃないか?」
「じゃあ、次はあなたのこと」
俺がそう取りなすと、ターゲットがあっさり俺へと移ってしまった。これじゃあ、さっきのリンの時と一緒だ……
「ルーク、なぜあなたが
「うんうん、うちもそれは気になった! ルークは魔法使えんかったんちゃう?」
っ!? 助けてやったはずのリンがその恩を忘れて俺を責める側にまわってやがる!
しかし、そう聞かれても俺にもわけがわからない。唯一、わかっていることはアスカからもらった腕輪が関係していると言うことだ。それをアオイに告げると、腕輪を見せてくれと頼まれた。
「普通のミスリルの腕輪に見える。特に変わったところは……!? このマークは!?」
「こ、これは間違いない。……いったいなぜ?」
腕輪を調べていたアオイが、何かを発見したようだ。カケルにも見せ、二人で驚き合っている。キッと振り向いたアオイに、いつにもなく鋭い眼差しを向けられる。こういう凜とした感じのアオイもかわいいな。
「ルーク、ここを見て」
腕輪の内側を指したアオイの指の先にあったのは……紛れもなく一対の羽のマークだった。
「おいおい、それは
同じ
「もしこれが本当に
アオイの一言で、みんなもそこに気がついたようだ。これが本物の
しかも、カケルもアオイも鑑定しても何も見えないと言っていた。つまり、この腕輪には隠蔽も付与されている可能性が高い。もしこんな物を簡単に作れる者がいたとしたら……。そんな人物がもし、特定の国に力添えをしたら……
しかし、考えようによっては世界の危機に対抗できる戦力を整える鍵になるかもしれない。カケルの仲間達の装備に付与を施してもらえれば、それだけで大幅な戦力アップに繋がる。
ということで、そこから先はマルコ以外の人達から怒濤の質問攻めに遭ったが、何せこの腕輪は妹のアスカが俺の誕生日に自分で作ってくれたものだ。そんなものになぜこのマークがついているかなんてわかるわけもない。
結局答えが出ないので、この
さて、そうなると次の話題はこの先どうするのかということになる。こんな危ない目に遭ったのだから、引き上げるのが当然と思ったが、どうもそう簡単ではないらしい。イリーナ先生は強くは言わないけど、先に進みたそうな雰囲気をだしている。何でも、70層から99層までで一番危険なのはここ70層だから、ここを超えてしまえばかえって安全だというのだ。
なぜかというと、この70層には必ずロイヤルリッチが2体配置されていて、冒険者達を待ち受けているからだそうだ。ここを超えてしまうと、S級は確かに出てくるのだが、2体同時に出てくることは滅多になく、危険は少ないらしい。
まあ、それでも絶対ではないので、場合によっては危険になることもあるのだろうが……
「うちはどっちでもええよ。ここからは油断しないから、もう負けへんし」
「俺も進んでいいと思う。確かにこの階は大変だったが、レベルさえ上がれば次はもっと簡単に倒してみせる」
リンとカケルはイリーナ先生の考えに賛成のようだ。俺としてもあと少しレベルが上がってくれれば役に立てそうだから、効率がいいさらに下の階に行ってみたいという気持ちの方が大きい。真っ先に反対しそうなアオイが何も言わないのは、それがわかっているからだろう。
リックはまだまだ戦い足りないから、戦えるならどこでもいいって感じだし、後はマルコだが……女性陣に格好悪いところを見せたくなかったのか、引きつった顔で先に進むことを承諾した。
そうと決まれば、さっさと行動を開始する。ここ
70層はロイヤルリッチ以外にS級の魔物はおらず、気合いの入れたカケル、アオイ、リンのおかげでA級の魔物達を難なく退けていく。71層の前で一晩を明かし、
71層はロイヤルリッチが1体、A級はダークリッチ以外にもグレートデーモンやオークキングの他、ミリタリーアントやデスタランチュラといった昆虫系の魔物も多く現れた。カースバジリスクが現れた時は、油断した(正確にはリンに見とれていた)マルコが石化の呪いを受けてしまい、一本200万ルークはくだらない貴重な
S級一体倒す毎に確実に2つはレベルが上がるようで、A級を数十体倒すよりも効率がよさそうだ。とは言っても、戦闘に貢献しないと経験値はもらえないわけで、カケルとアオイとのレベル差は開いていってしまうのだが、不思議と焦りはなかった。
おそらく、あのスキルがあるおかげだろう。72層に到達する頃には、カケルとアオイは3つ、俺とマルコとリックも2つレベルが上がっていた。
カケルとアオイのステータスは、平均900くらいだそうでまだまだ敵わないが、俺の攻撃力も500を超えそろそろS級の魔物にもまともにダメージを与えられそうなくらいになっている。次のS級戦ではやっと役に立てそうなので、早く出てきてほしいものだ。
次の72層では、残念ながらS級の魔物は出てこなかったが、その分A級の魔物を数多く倒し、俺達のパーティー3人組は2つずつレベルを上げていた。カケル達はサポートにまわってくれたのでレベルは上がっていなかったようだが、それなりに経験値はたまっているらしい。
そして73層で待ち受けていたのは、A級のサイクロプスを従えたS級の魔物、ギガンテスだった。
名前 ルーク・ライトベール 人族 男
レベル 47
職業 なし
HP 601
MP 227
攻撃力 655
魔力 215
耐久力 512
敏捷 552
運 446
スキルポイント 582
スキル
剣術 Lv3
身体強化 Lv2
ステータス補正 Lv5(R)
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