第39話 強者の仲間入り

「カケル、アオイ。ここは俺もそっちに入れてもらえないだろうか?」


 大幅にステータスが上がった俺は、ここが自分の力を試すときだと思い、そうカケルにお願いした。カケルもアオイも俺のステータスについては知っているので、静かに頷いてくれる。

 もう一人のカケル達のパーティーメンバーであるリンも、にやっと笑ってオッケーしてくれた。なぜだろう、教えてないのに彼女も全てをわかっているかのような顔をしている。


「うちがフォローしたるわ。思い切ってやってみぃ!」


 俺がカケル達のパーティーに移動すると、なぜかリンがフォローに回ると言い出した。やっぱりこいつわかってるんじゃないか?


「おいおい、ルーク。そっちのパーティーに移って大丈夫なのか? お前のレベルじゃ、まだS級はきついだろう?」


「ルーク、女の子がいるからそっちに移ったんだろう? アオイだけじゃなくてリンまで……」


 俺がパーティーを移動したことで、リックが不安そうに、マルコは不満そうに声をかけてきた。リックには『大丈夫』と一言だけ答えて、マルコはいつも通りスルーする。


 それから参考までにと、カケルがギガンテスのステータスを教えてくれた。それによると、ギガンテスの攻撃力はおよそ1300、耐久力は800、敏捷は700だそうだ。身体強化込みで耐久と敏捷はほぼ一緒。攻撃力は向こうの方が圧倒的に高い。


「ルーク、これを貸そう。君の剣じゃ、ギガンテス相手ではもたないだろう」


 それから、そう言ってカケルが差し出してきたのは、愛剣の終わりの剣ジ・エンドだった。この剣は、ウイングシリーズの初期作で、珍しい"呪い"が付与されているそうだ。

 この剣で傷つけられた者は、呪いの効果でステータスがダウンしてしまうらしい。何とも恐ろしい剣なのだ。さらに、素材がドラゴンの鱗のうえ、"鋭利"や"硬化"も付与されているので、その切れ味、耐久性も抜群ときている。


 そんな剣を気軽に貸してくれるカケルもすごいが、受け取ったこちらは緊張で手が震えてしまった。何せ、値段がつけられないくらい高価なものなのだから。


 さらに俺はアオイからのアドバイスで、身体強化Lv3を獲得した。レベルが上がったおかげで、スキルポイントがたまっていたのがありがたい。これでステータスの強化率が50%から80%まで上がったので、耐久力、敏捷はギガンテスを上回り、攻撃力はまだ及ばないもののかなり近づくことができた。攻撃力で負けているとは言え、ギガンテスの耐久力は上回っているから、そこは攻撃さえ受けなければ問題ないだろう。


 準備が出来た俺は、フォローしてくれると言ったリンに目配せをし、まだこちらに気がついていないギガンテスめがけて走り出した。





「ガァァァァ!」


 ギガンテスの元へ一直線にかけていくが、そこにたどり着く前に一体のサイクロプスが俺の姿に気がつき咆哮を上げる。その咆哮でもう一体のサイクロプスも気がついたのか、2体で俺の前に立ちはだかった。


「こいつらは任しとき!」


 後ろをピッタリとついてきていたリンが、俺の前に躍り出て2体のサイクロプスと対峙する。


「ありがとう、リン!」


 リンが2体のサイクロプスに連続で槍を繰り出している横をすり抜け、俺はギガンテスの元へとたどり着いた。


 俺の前に立っているギガンテスはひとつ目の人型の魔物で、右手にはミスリル製の戦鎚ウォーハンマーを握っている。人型と行ってもサイクロプスより一回り大きく、体長は5m程もあり、実に俺の3倍くらいでかい。弱点はその大きな目だが、そこを突くためには手傷を負わせて、膝をつけさせる必要がありそうだ。


 まず俺は、素早い動きでギガンテスを翻弄しながら足に狙いを定め、傷を負わせていく。"呪い"の効果は絶大で、一太刀浴びせただけで、攻撃力すら俺の方が上回ってしまった。それでも、俺の横を唸り声を上げて通り過ぎていく戦鎚ウォーハンマーには肝が冷える思いはするのだが……


 俺は圧倒的な手数で、ギガンテスを追い詰めていく。後ろではすでにリンがサイクロプスを倒し終えているようだ。カケルやアオイが、いつでもフォローには入れる様に身構えてくれているのが視界の片隅に入った。これもまた、嬉しいし何より心強い。


 そのおかげで俺は、余裕を持ってギガンテスと対峙することができている。上から振り下ろされた戦鎚ウォーハンマーをかいくぐり、右足を深く斬りつけたところでついにギガンテスが片膝を着いた。


「これで終わりだ!」


 苦し紛れに放ったギガンテスの拳を躱し、その大きな目に終わりの剣ジ・エンドを突き刺す。戦闘開始からおよそ30分ほどで、俺はギガンテスの単独討伐に成功したのだった。




「すごい! すごいわルーク君!」


 イリーナ先生は俺の活躍を素直に喜んでくれているようだ。急に強くなったことに疑問を挟まないのはありがたいが、教師としてはどうなのかと思う。


「どうなってる!? 昨日までとは動きが別人じゃないか!?」


「か、格好良すぎる!? クソッ、なんでルークばっかり!」


 リックはさすがにおかしいと思っているようだが、マルコは嫉妬の方向性が間違っているような……


 フォローしてくれたリンにお礼を言い、カケルに終わりの剣ジ・エンドを返す。ちょっと、いや物凄く名残惜しいけど、それは仕方がない。この時俺は、いつかこの剣に負けない剣を手に入れようと心に誓った。アオイは何も言わなかったけど、静かに微笑んでくれていた。俺がまた強くなったことを喜んでくれているといいんだけど。


 ギガンテスを倒したことで、俺のレベルは3つ上がった。一人で倒したことでバカみたいに経験値が入ったようだ。


 名前 ルーク・ライトベール 人族 男


 レベル 50

 職業 なし

 HP 721

 MP 272

 攻撃力 799

 魔力  257

 耐久力 632

 敏捷  669

 運   539

 スキルポイント 429


 スキル

 剣術 Lv3

 身体強化 Lv3

 ステータス補正 Lv5(R)


 これで"身体強化"を含めれば、攻撃力は1400を超える。耐久力も敏捷も1000を超えるから、S級の魔物ももっと楽に倒せるようになっているはずだ。カケルやアオイに追いつくのも、そう遠くはない。そんなことを考えると、自然と頬が緩んでくるのは仕方のないよな?


 俺が強くなったことで、この先はもっと楽になる展開が予想されるのだが、残念なことに食料と薬品の残りが半分を切ってしまったので、いったん71層まで戻りそこで一晩明かした後、引き返すことになった。


 強くなった俺は、70層のロイヤルリッチ2体にきっちり仕返しをさせてもらい、そこから先はリックとマルコをフォローしつつ、上の階層へと戻っていった。リックとマルコは、俺にフォローされることに少々不満そうだったが、下の階ではあまり活躍できなかったので、その鬱憤をA級、B級を倒すことで晴らしていた。


 それからリックとマルコのために、ゆっくり魔物を倒しながら進む。結局、2日かけて来た道を戻っていった。





「お疲れ様! 最終層まではいけなかったけど、いいレベル上げになったわね! 明日、明後日は休みにするわ。しっかり疲れをとるように!」


 地下迷宮ダンジョンでのレベル上げを終えた俺達は、イリーナ先生のその言葉で解散することになった。それにしても、この先生、俺達が死にかけたことを忘れているのではなかろうか? それは教師としてどうなんだろうと思いつつも、結果的にこの地下迷宮ダンジョンで帰りも含めて、15もレベルが上がったことになる。

 しかも、謎のスキルのおかげでステータスに至っては今までの10倍のペースで上がっている。たった4日で、父さんと母さんを超えてしまったようだ。


 冷静に考えると、ちょっと怖くなってきた。父さんと母さんだって、この世界では最高のSランク冒険者だし、その実力はトップクラスだ。あの2人に勝てるとすれば、おなじホープのメンバーかSランク冒険者、あとは転生者であるカケルやアオイ、その師匠くらいだろう。


 そうなると、今の俺より強いのは……カケルとアオイ、それから可能性があるとしてその師匠くらいか? あ、それからリンだな。彼女は間違いなく俺より強い。でも、戦闘技能はさておき、ステータスで俺に勝てるのはそのくらいではなかろうか。もちろん、魔物や魔族ではもっと強い者はいるだろうけど、ことに人類においては最強に近いと思う。


 つまり、実力的に言えば俺はもうSランク冒険者を超えるレベルなのだ。急激な状況の変化についていけていないが、冒険者のランクに関しては、これからカケルとアオイと相談して一緒に上げていこうと思う。


 それから、一番の問題はこの腕輪についてだ。さすがに今日はみんな疲れているということで、明日、俺の家にアオイとカケル、それになぜかリンも来ることになった。それを聞いたマルコが鬼の形相をしていたから、仕方がないので誘ってやったら、気色悪いくらい満面の笑みを浮かべて俺に握手を求めてきやがった。もうどうにかならないのかこいつは!


 この4日間の出来事を父さんと母さんにどう説明しようか考えながら、俺は家へと帰っていくのだった。

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