第36話 ルーク急成長
いきなりA級の魔物が待ち受けていたから、その時は意識していなかったけど、この50層は今までの階層とはまた全然雰囲気が違った。何というか、空気がまとわりついてくると言うか、常に見張られているようなプレッシャーを感じる。
実際、A級の不意打ちなんてくらったら一撃で死ねるから、一瞬たりとも気が抜けない。カケルやアオイが"探知"を持っていても、自分の命がかかっていればそれだけに頼ることはできないのだ。それはリックやマルコも同じなのだろう。俺と同じように常に辺りを警戒している。
先頭を歩くカケルとアオイは今までとそれほど変わらないようだ。その後ろに続くリンにいたっては鼻歌なんぞ歌ってやがる。何という余裕だ。
事前の情報によると、S級の魔物が現れるのが70層からで必ずロイヤルリッチ2体がダークリッチを従えて待ち受けているらしい。S級2体との戦闘など考えたくもないが、冒険者達の間でも70層は洗礼の間として有名になっているらしい。まさか、そこまでは行かないとは思うがカケルとアオイなら何とかしてしまいそうな気もする。
その後は俺達がいるせいか、少々スローペースで進んで行った。この辺りはB級の魔物が少なく、必然的に俺達の出番もあまりない。たまに出るB級や弱ったA級を何とか3人で倒しつつ、必至にカケル達についていく。そして、数時間かけて60層まで来たところでようやく休憩となった。アオイとカケルはさらに2つレベルが上がったようだが、俺達のパーティーは1つしか上がらなかった。向こうの方がレベルが高く上がりづらいはずなのに……。それだけ魔物を倒していないと言うことか。悔しい。
「今日はここまでにして、明日また下を目指しましょう!」
食事をしながらそうみんなに告げたイリーナ先生の言葉に、俺達は苦笑いしつつ頷いた。それから、見張りの順番を決め休むことになったのだが、ここでもマルコはリックと2人組になり、組み合わせを決めたイリーナ先生を鬼の形相で睨んでいた。ちなみに俺は3番目の見張りでアオイと一緒だ。
1番手のカケルとリンに見張りを任せて、俺はすぐに横になる。各上相手の戦いばかりだったので、俺の精神は随分消耗していたようで、すぐに意識を手放してしまった。
気がつけば自分の順番が来ていたようで、2番目の見張り役だったマルコに起こされ目を覚ます。どうやら俺は夢を見ていたようだ。寝ている俺に、アスカが指を差して笑っているシーンを覚えている。
「お前はこれからアオイさんと……くそ!」
そうとは知らないマルコがぶつぶつ文句をいいながら寝床に潜り込むのを見届けてから、俺は先に来ていたアオイの隣に腰を下ろす。ちょっと緊張して、何を話していいかわからず黙っていると、意外にもアオイの方から話しかけてくれた。
「ルーク。今日レベルいくつ上がった」
「えっと、3つかな?」
アオイが人のレベルを気にするなんて、珍しいな。
「そう。もうステータスは確認した?」
「あ、そう言えば、まだ確認してないや。今日はずっと気を張っていたから」
アオイに言われて初めて自分がステータスすら確認していないことに気がついた。だけど、口ではそう言っても、本当はステータスを確認することで、改めてカケルやアオイとの差がはっきりしてしまうのを無意識に恐れていたのかもしれない。そんな風に自分の気持ちを分析しながらステータスを開くと……
名前 ルーク・ライトベール(人族 男)
レベル 40
職業 なし
HP 321
MP 122
攻撃力 319
魔力 117
耐久力 262
敏捷 279
運 229
スキルポイント 274
スキル
剣術 Lv3
身体強化 Lv2
ステータス補正 Lv5(R)
「はぁぁぁぁぁ!?」
びっくりした! 盛大にびっくりした! 何かわけのわからないことが起こっている。
「大声出さない。何があった?」
アオイに怒られて少し落ち着いたけど、これは一体どういうことだ!? そうだ、アオイは確か"鑑定"を持っていたはず。一緒に見てもらえば、何かわかるかもしれない。
「ア、アオイ、お、俺のステータスを見てくれ」
動揺して上手くしゃべれない。
「ステータス? 見ていいなら、見せてもらう…………!?」
アオイも俺のステータスの異常に気がついたようだ。改めて二人で確認して、何が起こっているのかを確認してみた。
まずおかしいのは、ステータスの上がり幅だ。今までは1つレベルが上がる毎に、0~5の間でステータスが上がってきた。それなのに、ここでは3つ上がっただけで少なくとも30以上、攻撃力に至っては150近く上がっている。つまり、普段の上がり幅の10倍になっているのだ。こんな上がり方が続いたら、レベル99になったときには攻撃力が3000を超えてしまう計算だ。
この原因は、おそらくスキル欄にある、『ステータス補正 Lv5(R)』というのが関係しているのだろう。こんなスキル見たことも聞いたこともないし、後ろについている(R)というのも何が何だかわからない。
そこでアオイに聞いてみたのだが、何とアオイはこのスキルの存在を知っていたそうだ。と言うか、ここまで来たら隠しても意味がないといって、自分もカケルもこのスキルを持っていることを教えてくれた。ただ、アオイもカケルもこのスキルを手に入れたのは最近だったので、レベル上げを躊躇していたのもこのスキルを手に入れてからレベル上げをしたかったかららしい。
そりゃそうだ。こんなスキルがあるなら、なるべく低いレベルで手に入れたいに決まっている。レベル99で手に入れても意味のないスキルだから。
それにしてもなんで俺にこんなスキルがついているんだ? しかも、カケルやアオイでさえLv3だと言うのに、俺のはいきなりLv5になっている。(R)についてはアオイも全くわからないと言っていた。
「一体全体何が起こってるんだ?」
あまりの急な展開に不安になって漏れた俺の呟きにアオイは……
「ルークのレベルが上がる度に、動きが目に見えてよくなってた。その理由が今わかった。なんでこんなことが起こってるのかわからないけど、この状態でレベルを上げていけば、私達より遙かに強くなれる」
冷静に分析して、そんなことを言ってくれた。この言葉を聞いた俺は、それまでの不安が一気に吹き飛び、アオイが言う自分を想像して気分が高揚してしまった。ほんの少し前までの俺は、いくら頑張っても追いつけないことに不安と苛立ちを感じていたのに、今はどうだ。レベルさえ上げていけば、この2人を超えることが出来るかもしれないというのだ。夢ではなかろうか。
「ルーク。喜んでいるところ悪いんだけど、心当たりない?」
喜びに浸っている俺に、アオイが聞いて来た。そりゃ、こんなことが起こったら聞きたくなるよな。だって、今までなかったスキルが勝手にLv5の状態でついてるんだから。万が一、人工的にこんなことができるなら、それこそとんでもないことになってしまう。
「うーん、申し訳ないんだけど、全く心当たりはない。いつもと違うことと言えば……夢にアスカが出てきて、俺を指差して笑っていたことくらいかな」
「それは全く関係ないと思うけど……思うけど、何だろう。アスカという言葉が引っかかる」
心当たりがないので、適当に言った冗談だったのにアオイはなぜか真剣に考え込んでしまった。まさか、ねぇ? アスカは関係ないよね?
その後も、運良く俺達が見張りをしているときには魔物に襲われなかったので、存分にアオイと話をすることができた。その結果、俺はカケルとアオイが王都に来たもうひとつの理由を知ることになる。このスキルの存在を知ったことで、アオイが俺に教えてくれたのだ。
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