第34話 一対の翼

~side ルーク~


 今日は学院までの足取りが軽い。なぜかって? それは今日からしばらく地下迷宮ダンジョンでレベル上げだからさ。早く強くなりたい俺にとって、一番手っ取り早いのがレベル上げだし、何より初めての地下迷宮ダンジョンだから楽しみでしょうがない。


「おはよう!」


 いつもより、早い時間に家を出たはずだが教室に入るとすでにみんな揃っていた。どうやら、地下迷宮ダンジョンを楽しみにしていたのは俺だけではなかったようだ。


「おはよう、ルーク。今日からよろしくね」


 そう声をかけてくれたのは、転生者のアオイだ。入学当初は、こんな風に声をかけてもらえるようになるとは思えなかったけど、これもアスカのおかげだな。


「こちらこそよろしく!」


 笑顔で返答する僕の横で、歯ぎしりが聞こえる。この間の実戦訓練で散々な目にあったマルコだ。と言っても、僕にはどうすることもできないが。


 僕らが少し会話をしているとイリーナ先生が現れて、地下迷宮ダンジョンについて説明を始めた。カケルやアオイは地下迷宮ダンジョンでの戦闘経験があるようで時折頷きながら聞いているけど、俺を含めた他のメンバーはそんな経験がないから、真剣にイリーナ先生の話に耳を傾けている。


 そして、先生の説明が終わりいよいよ出発の時間が来た。




▽▽▽




 エンダンテ王国の王都から、馬車で西に2日ほど行ったところにある地下迷宮ダンジョン都市フォーチュン。ここには地下100層からなる地下迷宮ダンジョンがある。と言うか、地下迷宮ダンジョンが先にあり、そこに人が集まって出来た町と言われている。俺達は今回、ここの地下迷宮ダンジョンでレベル上げをするのだ。


 この地下迷宮ダンジョンがなぜ地下100層が最下層だとわかっているかというと、15年ほど前にこの地下迷宮ダンジョンが踏破されているからだ。踏破したのは"ホープ"という12名のクランで、俺の父さんと母さんもそのメンバーに入っている。


 そのおかげでこの地下迷宮ダンジョンについては詳しい情報が出回っており、無理さえしなければ比較的安全に魔物を倒すことができる美味しい狩り場なのだ。


「冒険者カードを拝見します」


 入り口にいる衛兵にイリーナ先生が冒険者カードを見せる。金色のカードはAランク冒険者の証だ。


「武術学院の実地訓練ですね。許可できるのは49層までです。それより深くは潜らないようにお願いします」


「ええ、わかっていますわ」


 国が管理している地下迷宮ダンジョンは、ランクによって入れる層に制限があるのが普通だ。それはこの地下迷宮ダンジョンも例外ではなく、50層以降はAランク以上じゃないと入れない。俺とマルコは入学前にすでにDランクになっている。カケルとアオイにいたってはBランクだった。リックはギルド長の息子だけ合ってCランクまであげているようだ。意外だったのはリンで、どこで上げたのかカケル達と同じBランクだった。


「緊張するな!」


 俺と同じく初地下迷宮ダンジョンのリックが、言葉とは裏腹にワクワクした様子で中へと入っていく。地下迷宮ダンジョンの中は薄暗く、いつか入った洞窟のようだった。


「ここの地下迷宮ダンジョンは死霊系の魔物が多く出ます。死霊系の魔物の特徴は、物理攻撃が効きづらいところです。低級の魔物は問題ありませんが、B級以上になると、魔法での攻撃か属性武器じゃないとダメージを与えられません。覚えておくのですよ」


 イリーナ先生が先導しながらこの地下迷宮ダンジョンに出る魔物の特徴を教えてくれる。ただし、物理攻撃が全く効かなくなるのは50層以降だそうだから、今回は俺の武器でも大丈夫だろう。そう思っていると、リックが鞄から光り輝くナックルを取り出して、嬉しそうに手にはめた。


「おお!? それはもしかして神の掌ゴッドバルムじゃないか!? 幻の一対の翼ウイングシリーズの後期の作品じゃないか!」


 リックのナックルを見たカケルが興奮して大声を上げる。


「おっと! さすがにカケルは知っていたか? こいつは親父に借りてきたんだが、正真正銘の一対の翼ウイングシリーズだぜ!」


 普段はカケルに負けっぱなしだから、カケルが驚いているのがよっぽど嬉しかったのだろう、リックの頬が緩んでいる。ところで幻の一対の翼ウイングシリーズってなんだ?


「その幻の一対の翼ウイングシリーズって何?」


 意外にも、リックに尋ねた俺の質問に答えてくれたのは、アオイだった。


「カケル、あなたの剣を貸して」


「ほい」


 アオイがカケルから真っ黒に見える片手剣を受け取った。そして――――――


「ルーク、ここを見て。ここに一対の翼のマークがあるでしょ。このマークがついているのが、一対の翼ウイングシリーズ。一対の翼ウイングシリーズは初期のものでも付与が最低3つ。しかも、有用なものばかり」


 俺はアオイが指を差したところを見る。すると、確かに一対の羽に見えるマークが刻まれてるの見えた。


「後期の作品になると、付与が5つついているのもある。リックのナックルもそのひとつ」


 アオイが続けて説明してくれたように、リックのナックルを見せてもらうとカケルの剣と同じマークがついていた。


「つまり、この2つの武器は武器だと考えられているんだ。他に知られているのは、Aランク冒険者のレスターが持っている女王の剣クイーンソード。同じくエリックが持っている女王の弓クイーンボウ。それからシーラの女王の指輪クイーンリング

 この3人は同じパーティーを組む冒険者で、初期のウイングシリーズを持っている。それから、俺のこの剣終わりの剣ジ・エンド、リックが持つ神の掌ゴッドバルム、他には……ルークのご両親も持ってるんじゃないかな?」


 一対の翼ウイングシリーズの美しさに見とれている俺に、カケルがさらに情報を追加してくれた。って言うか、父さんと母さんも持ってるのかよ。


「こんな古代魔道具アーティファクトよりも性能がいい武器なんて、作れるものなのか?」


 マルコも一対の翼ウイングシリーズについては知らなかったようで、俺と同じ疑問を抱いていたようだ。


一対の翼ウイングシリーズが確認されているのは、15~16年ほど前のごく短期間だけらしいで。制作者は不明ってなってるけど、『こいつが作ったんじゃないか』って言われている人はいるらしいで」


 後ろを歩いていたリンが、興味津々といった様子で俺達の会話に参加してきた。


「そうなのか!」


 マルコは自分の質問に、かわいい女の子が答えてくれただけでご機嫌になっている。


「「漆黒の天使」」


 カケルとアオイの声がハモる。


「そうそう、16年くらい前に突然現れて、1年足らずでSランクまで上り詰めた冒険者。その素性は一切謎で、15年前に魔王を倒した後、煙のように消えちまったのさ」


 リンが漆黒の天使について知っていることを教えてくれたのだが、なぜかその顔は悔しそうだ。


「その漆黒の天使さんに、僕のお師匠がこの剣と防具を譲ってもらったのさ。それを僕がさらに譲り受けたってわけだ」


 漆黒の天使については俺も聞いたことがある。確か、俺の両親のが所属しているクラン"ホープ"のメンバーだったような。


「さあ、そろそろ魔物が出るから、おしゃべりはお終いよ」


 イリーナ先生の一言で、俺達は会話を止め魔物の襲撃に備えるのだった。

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