第33話 まさかのバージョンアップ!?

(お兄ちゃん、これなんだろうね?)


 始まりは、アスカの何気ない一言だった。レベルがカンストしたアスカは、自分のステータスを確認した後、スキル選択欄を開いていて気がついたようだ。


(ん? どうかしたかアスカ?)


(えーとね、スキルを選ぶところの最後に名前のないスキルがあるの)


(なんだって?)


 俺はアスカが言う通り、スキル選択欄の最後を表示させる。


  ・

  ・

  ・

  経験値倍化

  経験値共有

 ▷限界突破  50000


(そんなものはないぞ?)


 しかし、アスカの言うような名前のないスキルなど存在しない。


(えー、ちゃんとあるよ! だって必要なスキルポイントは表示されてるもん!)


 どういうことだ? 今まで考えもしていなかったけど、もしかして俺のスキル選択欄とアスカのスキル選択欄は別物なのか? 確かに前世のアスカは俺が付けたスキルを使うだけだったから、自分でスキル選択欄を見たことがなかったかもしれないが……


(そ、そうなのか? それで必要なポイントはいくつになってる?)


 俺は予想外の出来事に、声が震えてしまった。いや、脳内の声だけどね。


(うーんとね、いち、じゅう、ひゃく、せん……20万だ!)


(!? 20万!? なんじゃそりゃぁぁぁ!?)


(ちょっと、お兄ちゃん、頭の中で大きな声を出さないでよ!)


(ご、ごめんごめん!)


 ど、どういうことだ? アスカだけに出た名前のないスキルの選択欄。必要ポイントが20万なんて見たこともないぞ。俺には出ていないから調べることもできないし、ここはひとつ慎重にいかねば。


(よし、アスカちゃんここは……)

(あっ!? アスカのスキルポイント20万超えてる! 選んでみるね! えい!)


 俺が止める暇ものなく、そのスキルを選んでしまったアスカ。その瞬間、俺は完全に意識を失ってしまった。










(……ちゃん)


(ん? なんだ、何か声が聞こえるような)


(……いちゃん)


(誰だ? 誰かが俺を呼んでいる? 天使のようなかわいい声だ)


(お・に・い・ちゃーーーん!!)


(はいぃぃぃ!? お兄ちゃんですぅぅぅ!?)


 脳内に響き渡るアスカの怒鳴り声で、俺は目が覚めた。


(はっ!? いったい何が??)


(もう、突然呼んでも返事をしなくなったから心配したんだよ!)


 どうやら俺は意識を失っていたようだ。こんなことは、俺がスキルになって初めての経験だな。


(ごめんごめん! 何だか急に意識を失っちゃったみたいだった)


(えっ!? お兄ちゃん大丈夫? 急にいなくなったりしない?)


(いや、大丈夫だと思うんだけど……こんなことは初めてだ。いったい何だったんだろう?)


 どうも意識を失う前の記憶が曖昧のような気が……


(ごめんね。アスカが変なことしたからだよね……)


(!? そうだ。アスカは名前のないスキルを選択したんだよな?)


(うん)


(何か、変わったことはないか?)


(えーと、ちょっと待ってね。……スキルポイントは減ってるみたい。それから……あっ、"スキルナビゲーター"っていうスキルが、"スキルマスター"に変わってる!)


 何だと!? アスカは"スキルナビゲーター"が俺だということは知らないはずだが、まさか俺がバージョンアップでもしたというのか?


(アスカ、その"スキルマスター"の説明はあるのか?)


(うん。あるよ。2つあるみたい。今から読むね)


 おお! 何かよくわからんが胸がドキドキするぞ! いや、胸はないけど。


(ひとつ目は……『自分が所持するスキルを一人につきひとつ貸し与えることができる。期間は設定できるが、スキルマスターが死亡した場合、貸し与えたスキルは消滅する』だって)


 えっ? えぇぇぇ!? 聞き間違えか!? とんでもない能力に聞こえたぞ!?


(それから、ふたつ目は……『スキルマスターは、自分が所持するスキルを自由に使用することができる』だってさ)


 ……ん? 待て待て、理解が追いつかない。いったん深呼吸をしよう。スーハースーハー。よし、相変わらず息はしてないな。


 さてと、スキルを自由に使用することができるだと? 確かに"鑑定"とか"探知"とか魔力を消費しないスキルは使っていたけど……えっ!? 魔力を消費するスキルも自由に使えるってこと? 俺も魔法を使えるようになったってこと!?


 やばいぞやばいぞ。これは早くどこかで検証してみなければ。


(アスカ、説明ありがとう。とりあえずアスカには影響はないみたいだから、お家に帰ろうか)


(えー、20万ポイントも使って、アスカには何にもないの? あーあ、損したなぁ)


 いやいや、これが俺の予想通りならとんでもないことになるぞ。スキルをひとつ貸し与えることができるってことは、操作系や耐性系はもちろん即戦力アップだし、ステータス補正なんて貸したら例えばルークだって、カケル並みに強くなれるだろう。これはルークのためにも、早く検証してみなければ。




▽▽▽




 "空間転移テレポーテーション"で家に帰ると、ルークがお出かけの準備をしていた。どうやら明日のSクラスはレベル上げらしい。回復薬ポーションを鞄に入れているルークに、スキル貸与と念じると貸し与えるスキルが一覧となって現れた。


(えーと、レベル上げならやっぱりこれだな)

 

 俺はその中の"ステータス補正 Lv5"を選ぶ。このスキルを持っていると、レベルアップ時のステータス上昇値が上がLv1で2倍、Lv5なら10倍上がる。



 名前 ルーク・ライトベール 人族 男

 レベル 37

 職業 なし

 HP 202

 MP 78

 攻撃力 175

 魔力  76

 耐久力 151

 敏捷  162

 運   136

 スキルポイント 157


 スキル

 剣術 Lv3

 身体強化 Lv2

 ステータス補正 Lv5(R)


 おお! 本当にスキルが増えている。後ろに(R)ってついてるけど……まさかのレンタルのR!?


 どうやらルークは気がついていないみたいだけど、明日レベルが上がって自分のステータスを見たらびっくりするだろうな。さらにそれを見て、カケルやアオイが"鑑定"してまたびっくり。ふふふ、その場にいないのが残念だ。


 ただ、どんなに追求されてもルークが答えられるわけないし、アスカだって知らないんだから、疑われてもバレることはないだろう。


 ルークのレベルは37だから、まだまだレベルは上がる余地がある。上がりやすい攻撃力なんかは、2400以上上がるのではなかろうか。


(やりすぎか? Lv4にしておいた方がいいのか? でも、ルークはカケル達と違って、Lv5スキルを持っていないからな。このくらい上げておかないと、アオイとは釣り合わないだろう)


(お兄ちゃん、何ブツブツ言ってるの?)


(いや、何でもないよ! ちょっと考え事をしててね)


(ふーん、そうなんだ)


 危ない危ない、アスカにバレてしまうところだった。スキル貸与が成功したから、後はアスカが寝た後に回復系の魔法でも試してみることにしよう。




 そしてアスカが寝た後に実際に試してみると、魔力を必要とする操作系の魔法も使えることがわかった。


(来たな。ついに俺の時代がやって来た!)

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