第30話 転生の神と転移の神
「僕が転生してきたのがだいたい半年前だ。その時の話だと思って聞いてくれ。まず確認だが、アスカは転生の神については知っているようだけど、転移の神については知ってるだろうか?」
(お兄ちゃん知ってる?)
(いや、知らないな)
(えっ? お兄ちゃんにも知らないことなんてあるんだ!?)
(うーん、結構あると思うけど……)
「えーと、わからないかな」
「この世界には転生の神しかいないんだけど、別の世界では力のバランスを整えるのに、他の世界から"転移者"を連れてくる神がいるらしいんだ。やってることは転生と似てるけど、"転移"は元の世界の生きている生命体をそのまま自分の世界に連れてくるんだ」
「へー、そんな神様もいるんですね」
(へー、そんな神様もいるんだ)
「で、その転移の神なんだけど、どうやら転生の神と転移の神は相当仲が悪いらしく、隙あらば転生の神が管理する世界を乗っ取ろうとしてくるそうなんだ。ただ、神としての力は転生の神の方が若干上だから、早々後れを取ることはないみたいなんだけどね」
何だろう、段々話の先が見えてきたな。
「ただ、時には例外も存在する。それが、ヘルティウス様と先代との代替わりの時だったんだ。ヘルティウス様が先代と交代するときに、ほんの一瞬この世界に転生の神がいない空白の時間が存在してしまった。その隙に、転移の神がこの世界に呪いをかけてしまったらしい。その呪いとは、ある一定の時間が経った時に、この世界に次元の亀裂を発生させるというものみたいなんだ」
「ある一定の時間って?」
「ヘルティウス様でもはっきりは断言できないらしいんだけど、1年から2年の間に発動するのは間違いないってさ」
なるほど、偶然出来た隙間に運良く割って入ることができたけど、あまりに突然だったから準備ができていなかったというわけか。だから、時差式の呪いをかけて準備の時間を稼いだといったところだろう。
「それで、次元の亀裂? が発生するとどうなるの?」
「転移の神が用意した転移者が、この世界にやってくる。その数、強さは未知数。この世界にはない能力を持っているかもしれない。だからこそ、ヘルティウス様は無理をして僕ら二人を転生させ、Lv5のスキルを2つもつけてくれたんだ」
なるほど、なるほど。これが世界の危機とやらの正体か。確かに、転移してくる者の強さと数によってはこの世界が滅びてしまうこともありえるな。わざわざ準備期間まで作って用意された転移者なんだから、弱いはずがないだろうし。ってか、転移者って言うより侵略者だなそれは。
「へー、そんなことがあったんだ。それで、その侵略者って強いのかな?」
おっと、アスカは俺の心の声を聞いてしまったんだな。釣られて"侵略者"って言っちゃってるし!
「なるほど、侵略者か。アスカは難しい言葉を知ってるね。でも、転移者よりもしっくりくるな、その言い方」
(お兄ちゃんのせいでつられちゃったじゃない!)
(ごめん、ごめん!)
「えーと、それで侵略者についてだけど、ヘルティウス様もよくわからないらしい。だから、仲間を増やしてできるだけ強くなって迎え撃ってほしいというのが、ヘルティウス様の願いなんだ」
これで、カケルやアオイ達に関わる謎が一気に解けた気がする。半年前に1年から2年と言われたんだから、最短で半年後には侵略者達がやってくるというわけか。
(アスカ、これは協力しないといけないな)
(うん! なんか楽しそうだから参加してみる!)
「何だか楽しそうだから、アスカも参加していい?」
カケルや俺と違って、まだことの重大さを理解していないようだけど、アスカがやる気になってくれればカケル達にとっても世界にとっても大きな希望となるだろう。そして、侵略者達にとっては絶望となるはずだ。
「アスカがそう言ってくれると嬉しいよ! 幸いまだ少し時間があるから、Sクラスのみんなにも強くなってもらって、一人でも多く手伝ってくれることを期待してるんだ。あと、軍事帝国オウグストにも転生者が一人いるみたいだから、今、師匠がそっちに向かってくれている。上手くいってれば、もうすぐこっちに来てくれるんじゃないかな?」
へー、それは聞いたことがなかったな。キリバスやソフィア辺りなら知ってるのかな?
「うん! みんなで戦えたらいいね!」
薬草採集が上手くいったおかげで、カケルから色々な話を聞くことができた。アスカのレベル上げも解禁になったし、まずは迫り来る侵略者に向けてレベルアップを優先して行っていこう。相手の強さがわからない以上、できる限りの準備をしておかないとね。
長々と話をしていたので、とっくにお昼は過ぎてしまっていた。二人は軽い昼食を取った後、さらにもう二株ナトリ草を見つけ、合計三株のナトリ草を持って集合場所へと戻った。
▽▽▽
二人が集合場所に着いたときには、まだ誰も戻って来ていなかった。そこで、二人はテントやら調理器具やらを出して野営の準備をする。カケルも容量は小さいながら、
アスカが取り出したのは、優に5人は寝泊まりできる本格的なテントと、10人前は軽く焼くことができるであろう大型のコンロ、さらに10人用のテーブルと人数分の椅子だ。
かなりの重量となるそれらを、片手でほいほいセッティングしていくアスカに、カケルは若干引いていた。
「あー、疲れた疲れた……って、何やねんこれ?」
次に帰ってきたのは、一人で探しに行ったリンだった。リンは豪華なテント、大きなコンロにテーブル、人数分揃っている椅子を見て驚いている。
「ただいま。…………。カケル、どういうこと?」
続けて帰ってきたアオイは、この状況を見てその場に立ち尽くしてしまった。その後ろでルークが、顔に手を当て天を仰いでいる。
「もうすぐご飯もできるから、ちょっと待ってて!」
その様子に全く気がついていないアスカは、手慣れた感じで料理を作っていく。ルークは知らないだろうが、実はアスカ、よくソフィアのお手伝いをしているから料理はお手の物なのだ。しかし、アスカの手料理をこいつらは食べることができるのに、俺が食べられないのは納得できないな。
(お兄ちゃん、無理言わないで!)
(はい、ごめんなさい)
「リン、カケルじゃ話しにならない。説明して」
「いやー、うちが戻って来た時にはもうこの状態だったわ。このテントもコンロもテーブルもイスも、ぜーんぶアスカが持ってきたみたいやで。うちも最初見たときびっくりしたわ!」
「この量……
「うんうん、そうらしいで。あんたらも持ってるっぽいけど、アスカの
リンの説明を目を丸くしながら聞くアオイ。そして、隣ではルークが苦笑いをし、カケルはアスカの料理をお手伝いしている。その状況で最後に帰ってきたのは、リックとマルコだった。
「おう!? 何じゃこりゃ!?」
先の二人と同じ反応を示すリック。横でマルコも口をあんぐり開けている。そして、繰り返される同じ説明。
「がっはっは。まあ、少々びっくりしたがこれで野営が余計に楽しみになったことには変わりがない。せっかく、アスカがこれほど用意してくれたんだから、存分に楽しもうではないか!」
リックとマルコが帰ってきたときには、丁度、料理が出来上がったところだったので、リックの一声でそのままみんなで席に着いた。メニューは、薬草採集の合間に狩ったジャイアントボアの柔らか煮と、ワイバーンのステーキ、山菜と野菜のサラダだ。みんなで食べる料理はおいしく、アスカもとっても楽しそうだった。
食事の中で、アスカとカケルがすでにナトリ草を見つけたことを報告し、明日は薬草探しをせずに帰ることに決めた。
そして食事が終わり、コンロやテーブルを片付けたら後は寝るだけとなる。
「ぼ、僕のテントは二人用だなー。誰か一緒に寝ないかな?」
この時を待ってましたとばかりに、急に元気になったマルコが、女の子達をチラチラみながらそんなことを呟いた。
「いや、アスカが持ってきたテントめっちゃおっきいな! うちも持ってきてるけど、これなら女子全員でねれるやん! みんな、アスカのテントで寝ようや!」
しかし、リンがまたもマルコの呟きが聞こえたのか聞こえなかったのか、女子全員をアスカのテントへ連れて行ってしまった。
カケルもルークも自分で用意したテントに、何も言わず入っていく。
残されたリックは――
「おう、マルコ! 俺はテントを持っていないからその辺で寝ようかと思ってたんだが、二人用なら俺も一緒に入れてくれ!」
そう言って、強引にマルコの腕を引っ張ってテントへと入っていった。
その夜、マルコの絶叫が夜の森へと響き渡るのだった。
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