第29話 チックの森で薬草採集

(お兄ちゃんは、ナトリ草が生えてる場所なんて知ってるの?」


 研究会がいったん解散となり、薬草集めのための準備をしている最中にアスカがそんなことを聞いていた。


(あー、もちろん知ってるし、アスカの家にならナトリ草どころか石化回復薬アンチペトリもあるからね。ってか、そのリュックにも入ってるだろ?

 でも、せっかくみんな野営の準備までするみたいだから、言わない方がいいのかなって思ってさ。アスカがあそこでその薬を出さなかったのも、みんなと探しに行きたかったからだろう?)


(へー、お兄ちゃんって何でもわかっちゃうんだね! ずーっと前から不思議に思ってたんだけど、なんでお兄ちゃんは何でも知ってるのかな? やっぱり神様なの?)


(お兄ちゃんはお兄ちゃんであって、神様じゃないよ)


(ふーん、やっぱり不思議だなー)


(それより、野営するなら食料をたくさん買っておかないとね。それと、テントや寝袋とかも忘れずにね)


(うん! その辺はレコビッチさんのお店で買っていくね!)


 アスカはレコビッチ商会に行き、野営道具を買った後、すぐに集合場所の武術学院正門前に向かう。他のみんなはすでに集まっており、それを遠巻きに憧れの目で見ている学院生達の輪ができていた。





「よし、みんな揃ったね。それじゃあ、チックの森に行こう」


 そう言ったカケルを先頭に、みんなでぞろぞろと歩いてチックの森へと向かう。


 そう言えば、以前は空間転移テレポーテーションばっかりだったから、こうやってみんなでおしゃべりしながら歩いて行くのも、アスカにとってはいいのかもな。





▽▽▽





 カケル達一行は、小一時間ほどかけてチックの森へと到着した。


「さて、ここからは手分けをして探そうか。よっぽど奥に行かなければ大丈夫だとは思うけど、念のため二人ペアにしよう。時間がもったいないから、前回のミラージュキャット探しのペアでいいかな? あの時ミュウと一緒にいたリンは、マル……」

「うちは一人で大丈夫や! この辺でちょちょっと探した後、野営の準備しておくわ!」


 今、カケルがマルコって言おうとしたのを遮ったね。リンの反射神経、恐るべし。そして、マルコなぜそんなに絶望的な顔をしているんだ。


「そうか? それじゃあ、アスカ行こうか!」

「はーい! カケルさんまたよろしくね!」


「ルーク、行くわよ」

「えっ、あっ、うん。あっ、ちょっと待って」


 二組のカップルが森の中へと消えていく。


「ほな、うちも探してくるわー!」


 唯一残った女の子も、さっさと森へと入っていく。


 残されたのは、上半身裸のマッチョと、四つん這いになって涙を流す変態槍術士だった。



 そして森へ入って数分後――


 油断した。完全に油断していた。この辺りはまだナトリ草の生息地ではないのだが一株だけナトリ草が目の前に咲いていた。アスカの9000超えの運を舐めてた……


「み、見つけちゃったね……」


「はい! 私、とっても運がいいんですよ!」


 森に入ってすぐにお目当ての薬草を見つけて、戸惑うイケメン剣士。アスカはさも当然って顔してるけど。


「でも、せっかく野営の準備をしてきたので、時間まで他の薬草も含めてもう少し探してみませんか?」


「ああ、そうしようか。今戻っても、誰もいないだろうしね」


 アスカの提案で再び薬草を探し始める二人。しかし、もうお目当ての薬草を手に入れているので、二人でおしゃべりしながら探す余裕があるようだ。そこで、俺はアスカに頼んでカケルが転生してきたときのことを聞いてもらった。


「カケルさん、ちょっと聞いてもいいですか?」


「うん? 何かな? 僕にわかることだったらいいんだけど」


「カケルさんって、転生者なのですよね? 転生してきた時のことを聞いてもいいですか? カケルさんは神様に会ったりしたんですか?」


 そう、俺が聞きたかったのはシスティーナのことだ。カケルとアオイが日本から転生してきたのなら、システィーナに会っているはずだから。


「会ってるよ! ヘルティウスっていう転生の神にね。僕が死んだとき、彼からこの力をもらったんだ」


 えっ!? システィーナじゃないの?? 誰? ヘルティウスって? 彼? 男? 女神は?


「へー、転生の神様っているんですね! 私も会ってみたいなー!」


(アスカ、アスカちゃん! ちょっと聞いてほしいことが。システィーナっていう名前に心当たりがないか聞いてくれないか!?)


(えっ? どうしたのお兄ちゃん。急に興奮しだして。聞いてあげるけど)


「あの、カケルさん。その神様の他に、システィーナって神様はいませんでしたか?」


「システィーナ? 聞いたことないなー。あ、でもヘルティウス様は僕が死ぬちょっと前に転生神になったて言ってたな。何でも、前にいた転生の女神様が世界のバランスを崩してしまったとかで、ヘルティウス様が代わりに転生神の座についたみたいだよ。確か、アオイが会ってるのもヘルティウス様だって言ってたな」


 …………マジか。それって絶対俺のせいだよな。神様を心配するっていうのも変だけど、大丈夫かな? 神様の世界にも左遷とかあるのかな?


「へー、神様なのにそんなことがあるんだ」


「何でも一人に力を与えすぎたって言ってたな。でも、結局その転生者は世界のバランスを崩すことなく、自ら命を絶ったって話だ。その辺も交代した理由のひとつらしいって、ヘルティウス様が言ってたよ」


(イタッ!)


(どうしたアスカ? 何があった!?)


(ううん、大丈夫。カケルさんの話を聞いたら、ちょっと頭がズキッとしただけ)


 全属性耐性に全状態異常耐性を持ってるアスカが頭痛を感じるって、一体どういうことだ? 何か嫌な予感がするな。


「カケルさんがもらった力って何ですか?」


 アスカの頭痛はすぐに治まったようで、気を取り直して先ほどのカケルの会話に出てきた力について聞いてもらった。


「僕もアオイも好きなスキルを2つ、Lv5の状態でつけてもらったんだ。普段は1つらしいんだけど、今回は世界の危機が関わることだから、特別に2つなんだってさ。と言うか、ヘルティウス様がつけるLv5の力は2つが限界だったという話もあるけど……。

 ヘルティウス様も『先代がどうやって世界のバランスを壊すほどの力を与えることが出来たのか』って首をかしげていたな。ちなみに僕は"剣術"と"身体強化"をLv5にしてもらった。それから、こっちに来てから師匠からスキルクリスタルをもらって"氷操作"もLv5にしてるんだけどね」


 そう言えば、俺の時は成功率10%とか直前で言われたくらいだから、正攻法でなかったことは間違いない。それに気になることがもうひとつ。スキルクリスタルとほいほい与えられる師匠ってまさか……


「そういえば、カケルさんの師匠って有名な方なのですか?」


 アスカも師匠のことが気になったようだ。俺が聞く前に、その疑問を口にしていた。


「そうだね。実は僕の師匠も転生者なんだ。ケンヤ・タチバナって知ってるかな?」


 あ、やっぱりカケル達の師匠ってケンヤだったのね。なんとなーく、そんな気はしてたんだけど。あいつなら、アスカが渡したスキルクリスタルも持ってるだろうし、こいつらの師匠が出来るのなんて、あいつくらいしかいないだろうからな。


(お兄ちゃん、ケンヤって人のことも知ってるの?)


(そうだね。知ってるねぇ)


(へー、やっぱり何でも知ってる)


(確か、『氷の支配者』だったかな?)


「もしかして、氷の支配者という方ですか?」


「おお、やっぱり知っていたか! 僕らの師匠は魔族進行の時も大活躍だったらしいからね」


(アスカ、ついでに『世界の危機』についてもうちょっと詳しく聞いてくれ)


(うん)


「もうひとついいかな? そのヘルティウス様が言ってた『世界の危機』って、具体的にわかってるのかな?」


「ああ、それは……」


 この後、カケルの口から『世界の危機』について語られるのだった。

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