第27話 初レベル上げ
アスカのパーティーメンバーは、森の緑に深緑色の髪がマッチしている、たくましい斧術士ジャンがリーダーで、金髪お姉さんの槍術士サーシャと黒髪細マッチョで怒らせたら怖そうな格闘家ユーリ、そして我が天使アスカの4人だ。
まずはリーダーを任されたジャンが、みんなの役割を確認しようとするのだが……
「俺らのパーティーには斥候役がいないから、円形を保ったまま慎重に……」
「あー!! あそこにブラッドベアーがいますよ! 倒しましょう!」
アスカがカブトムシを見つけた少年のように、一目散にブラッドベアーに向かって駆け出してしまった。
「おい! それはC級のブラッドベアーだ! 戻れアスカァァァああ?」
森の中にジャンの声が響く。
Aクラスのメンバーは全員レベル40超え。C級の魔物に後れを取るとは思わないが、単独で相手をするには決して油断できない相手なのだろう。
ましてや、いくら模擬戦で圧倒的に勝ったとはいえ、10歳の女の子が蝶々を追いかけるように魔物に向かっていけば、反射的に止めてしまうのも無理はない。
だがしかし、俺のアスカにとってはC級の魔物など、それこそカブトムシや蝶々と何ら変わりがない。ジャンが生意気にも俺の妹を呼び捨てにしている間に、アスカはブラッドベアーの首を切り落とし、その頭を持ってパーティーメンバーの元に戻っていた。
「えっ!? アスカ、どういうこと?」
アスカに指を差したまま固まっているジャンの代わりに、サーシャがみんなの疑問を口に出す。と言っても、アスカがブラッドベアーを倒しただけだから、疑問の余地など何もないんだが。
「あれ? 倒したらまずかったですか?」
アスカはブラッドベアーの頭を片手にぶら下げながら、笑顔でその問に答える。うん、かわいい女の子に血が滴る魔物の頭。ギャップ萌えだね!
「いえ、その、倒すのがまずいということではないのですが……いつ倒したのかなって? いえ、その前にどやって見つけたのかなーって、木の陰で全く見えなかったのに」
(うん、そうだよね。そうなっちゃうよね。アスカちゃん、ちょっとばかし自重しようか。俺が一生懸命アスカちゃんの力を隠してるのに、無駄になっちゃってるね)
(えー、なんで隠す必要あるのかな? みんなお友達だから、隠し事なんていやだなー)
うっ!? 昔は俺の言うことに何の迷いもなく従ってくれたのに、歳を重ねる毎に自分の考えで行動するようになってきたしまった。
(だって、アスカちゃんがすごい力を持ってるってわかったら、怖い人達がきてアスカちゃんをさらっちゃうかもよ?)
(その人って、アスカより強いの?)
ぐっ!? 確かにそんなことできる者は魔王も含めていない……。これはまずい、何か上手い言い訳を考えなくては。
(ほら、でもアスカより弱くてもたくさん来るからいちいち相手するの面相くさいよ)
(うーん、面倒くさいからって隠すより、自分らしく生きる方がいい!)
て、手強い!
(でもでも、アスカちゃんの力が強すぎて、友達がみんな怯えちゃうかもよ?)
咄嗟の思いつきにしては、ナイスな言い訳では?
(えー、そんなことでアスカのことを嫌いになるなら、そんなの本当の友達じゃないからいらない!)
……もう何も言うことがない。
「えへへ、私、実は探知を使えるんだ。だからジャンさん、私が魔物を見つけるね!」
「えっ? そうなのか? でも……いや、それならお願いするとしよう」
アスカがどんどん俺の手を離れて行く。でも、アスカが言うことも一理あるかもしれない。この時俺は、アスカの自由を奪うのではなく、自由になったアスカの助けになろうと心に決めた。
それからは、アスカが魔物を見つけて来てはみんなで倒すという、ハイペースながらごく普通のレベル上げがしばらく続いた。アスカも最初のブラッドベアーで満足したのか、一人で先走ることもなくみんなとのレベル上げを楽しんでいるようだった。
そして数時間後、アスカのレベルが17に他のメンバーも3つ上がったところで、決められた時間となる。
「よし、そろそろいい時間だから森の入り口まで戻るぞ」
ジャンの指示でみんな揃って森の入り口を目指す。思ったより早くレベルが上がったことで、みんな満足げな顔をしている。アスカはもちろん獲得経験値倍化のスキルがあるから、圧倒的に早くレベルが上がっていた。他のメンバーもアスカの経験値共有スキルで魔物の経験値を無駄なく獲得できるから、いつもよりレベルの上がりが早いはずなんだよね。たぶん誰も気づいていないと思うけど。
「おかえりー! これで全員揃ったね!」
アスカ達が集合場所に戻ると、すでに他のメンバーは揃っていて、一番最初に気がついたニキが代表して出迎えてくれた。
「俺たちが最後か。それでお前達はどんな感じだったんだ?」
ジャンが斧に付いた血を拭きながら、別グループのリーダーであるオーランドとジョンに今日の成果を確認している。
「こっちはいまいちだったよ。魔物を見つけるのに少々苦労して、レベルが上がるまではいかなかったな」
「俺がもう少し斥候としての上手く機能すれば……すまない」
オーランドのパーティーは、暗殺者のクロウが斥候役を務めたみたいだが中々上手くいかなかったようだ。
「その点、俺たちのパーティーはニキが頑張ってくれたからな。全員、ひとつずつレベルが上がったぜ!」
ジョンのパーティーは、狩人のニキが斥候を務めたようだ。さすがは狩人、魔物を見つけるのは得意なようだ。しかし、所詮Aクラスの技。探知Lv5を持つアスカちゃんの敵ではないわ!
(お兄ちゃん、私、ニキさんとは戦ってないよ……)
おっと、ただアスカの方がすごいって言いたかっただけなのだが、ちょっと興奮してしまったようだ。
「それで、ジャンのパーティーはどうだったんだ?」
ジョンが金髪の前髪をかき上げながら、嬉しそうに聞いてくる。自分達が、1番多く経験値を稼いだとでも思っているのだろう。あまいな!
「えーと、何て言ったらいいのか。俺らは全員3つレベルが上がったんだが……」
頬を掻きながら、ちょっと困ったようにジャンが告げる。
「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」
これにはジョンだけじゃなく、他のメンバー達も驚きの声を上げていた。
「ちょっと待ってください!? ジャンさんのパーティーは斥候役なんていませんでしたよね? それに4人パーティーだから、一回の戦闘でもらえる経験値は少ないはずですよ? 3人より殲滅速度は速いでしょうが、魔物を探すのにも一苦労するこの場所ではそんなにレベルが上がるはずありません!」
まあ、ニキの言うことは最もなんだけど、アスカには経験値共有と探知スキルがあるからな。常識は通用しないんだよ。しかし、ニキには斥候としてのプライドがあるのだろう。かなりの熱量でジャンに詰め寄っている。
「うーん、アスカこれは言ってもいいのかな?」
むやみに人のスキルをバラすのは、冒険者にとってタブーだからジャンはアスカに確認を取っているのだろう。筋肉バカに見えて、意外とその辺はしっかりしてるんだな。ジャックと違って。
「え? 全然オッケーだよ!」
しかし、当のアスカは全く気にしていないようで、
「実はアスカが探知のスキルを持っていて、次々と魔物を引っ張ってくるもんだから、休みなく戦いっぱなしだったんだよ。それにしても3つは上がりすぎだとは思うんだが……」
ジャンの言葉に、みんな『うーん』とうなり声を上げながら考え込んでしまった。『探知を持っていたらあるえるのか? でも、それにしても3つは上がりすぎでは?』と言った心の声が聞こえてきそうだが、誰一人経験値共有というスキルにたどりつくはずもなく、そう簡単には結論が出ない。
すると、長身で大人しいブラウンがこちらのパーティーのおかしなところに気がついたようだ。
「すまない、ジャン。ちょっといいだろうか? 君達のパーティーはやけに持ち物が少ないようだが、もしかして素材は置いてきたのかい?」
ブラウンの言葉に、みんな顔を上げて自分達とジャンのパーティーを見比べている。言われてみれば、他のパーティーはメンバー全員が大きな袋を足下に置いているのに対して、ジャンのパーティーはみんなほぼ手ぶらで、唯一アスカが小さなリュックを担いでいるだけだ。
それを見て、ブラウンの言う通りだと判断したのだろう、全員がじっとジャンの顔を見つめ次の言葉を待っている。
「それもだな……」
ちょっと言葉を濁しながら、再びアスカの顔を見るジャン。最早、リュックの中身が気になって全く気がつかないアスカ。それを見たジャンは、諦めた顔で言葉を続けた。
「あのちっこいリュックに全部入ってるんだよ。俺らも最初は驚いたさ。あのリュック、
「マジか……」
それを聞いた、ジャックが思わず本音を漏らしていた。ジャンに負けないようにだろうか、大胸筋をぴくぴく動かしながら。
「あら、みなさん随分と早く終わったのですね」
ちょうどそのタイミングで、キャロライン教授が森の中から姿を現した。その姿を見て、みんな引きつった顔をしている。なぜなら、その白い鎧が返り血で真っ赤に染まり、赤いリボンと同じ色になっていたからだ。
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