第26話 レベル上げの準備
「明日はレベル上げ~!!」
模擬戦が終わった後、アスカは明日のレベル上げの準備をするため研究会に参加せず、街で買い物をしてから家に帰ってきた。何度転生してもへたくそな鼻歌まで歌っているところを見ると、よっぽど楽しみにしているようだ。家ではSクラスも同じようにレベル上げに行くのだろう、ルークも武器や防具を手入れしていた。
「なあアスカ。アスカって今、レベルいくつだっけ?」
アスカがルークの横に並んで武器や防具の整備を始めると、不意にルークがそんなことを聞いて来た。
「えっ? ルークは知ってるでしょ? アスカ、あの時しか魔物と戦ったことないからまだレベル2だよ!」
「そうだよな? うん、そうだと思ってたよ!」
知っていたという割には、アスカの答えを聞いて随分ホッとした様子を見せてるな。さては、アオイ辺りにレベルを聞かれたな。確か、アオイもカケルも鑑定スキルを手に入れたって言ってたから、アスカが隠蔽持ってることもバレちゃったっぽいね。
俺がそんなことを心配していると、アスカが能天気なお返事をくれた。
(多少バレてもいいじゃない? 心配しすぎだよ、お兄ちゃん!)
うむう。過去のことがあるから、心配になるのは当然だと思うんだけど……。何というか、今回のアスカはすごい明るくて楽天的だから、前回のようにはならないかもと思っている自分も確かにいる。ならば——
(そうかもしれないね。もし、世界の危機とやらに一緒に立ち向かうことになるなら、ある程度お互いの実力はわかっておいた方がいいのかもね)
(そうそう、お兄ちゃんは気にしすぎなんだよ!)
なんて会話を頭の中でしつつ、武器と防具の整備をしていたアスカは、次に明日持っていくものをリュックに詰め始めた。しかし、必要最低限のものしか用意していないルークに比べ、えらいたくさんの物を並べているアスカ。それを見たルークは――――
「ア、アスカ? まさかそれ全部持っていくつもりなのか?」
ルークが驚くのも無理がない。アスカの前には各種回復ポーションに状態異常回復ポーション、剣や槍や斧、弓など様々な種類の武器、野営道具に食料に飲み物が並べられていた。
その横に申し訳なさそうにちょこんと置かれている、ピンクの小さなリュックサック。とてもじゃないが、全部入るようには見えない。
「うん、全部持っていくよ!」
それでも、力強く持っていくと言い張るアスカに、ルークはそれ以上何も言えなくなっている。そして、唖然として並べられている物を見ていたら、今度はその価値に気がついたようだ。
「ア、アスカ? これはどこで手に入れた物なのかな?」
ルークが目の前に並べられている数々のポーションの中から手に取ったのは、買えば5000万ルークはする
「えー、わかんない? 誰かからもらったのかな~?」
もちろんそれは、以前住んでた家から持ってきた物なのだが、意外にもルークはその価値を知っているようだった。うん、これはちょっとまずいかも。
「いや、アスカ、これが何かわかってるのか? これ買えば5000万ルークはするぞ? こんな物くれる人いるわけないだろう!?」
俺が必死に言い訳を考えていると、その努力をあざ笑うかのようにアスカは思いつきで言い訳を口にする。
「うーん、じゃあ、どこかの洞窟で見つけたヤツだったかな~? 覚えてないや!」
普通なら『そんな訳あるか!』ってなりそうなところだが、ルークには忘れられないトラウマがある。そのおかげで、『アスカならそういうこともあるのか?』って思ってくれたみたいだった。
そして、ルークが難しい顔をしている間に、次々とリュックに入れていくアスカ。明らかに容量を超えている物が、どんどんリュックに吸い込まれていく様子を、口をあんぐりと開けて見つめているルーク。
ものの数十秒で全てを入れ終えたアスカは――――
「それじゃあ、ルークおやすみなさい! 明日は頑張ってね!」
余計なことを聞かれないように、さっさと部屋に戻ってしまった。
▽▽▽
「おはようございます!」
翌朝アスカは誰よりも早起きして、ウキウキ気分で武術学院へと向かった。学校に着き、元気よく挨拶をしながら教室に入ったのだが、残念ながらまだ誰も来ていなかったようだ。
ちょっと恥ずかしがっているところもまた、超絶にかわいかった。
ただ、今日のレベル上げを楽しみにしていたのはみんなも一緒だったようで、次々と教室に入ってくるAクラスのメンバーは、期待と興奮が入り交じった何とも言えない顔をしていた。
Aクラスのメンバーが全員揃ってからしばらくして、キャロライン教授が教室に姿を現した。今日は、教授も愛用の武器と防具を装備している。髪飾りの赤いリボンが、今日に限って不気味に見えるのはなぜだろうか。
「さて、みんなそろってるわね。今日のレベル上げは、この王都の北にあるチックの森ですわ。詳しくは現地に着いてから、説明するわね。それからアスカさん。あなたの荷物は、そのかわいらしい小さなリュックサックひとつなのかしら?」
「はい! このリュック、色もピンクでかわいいですよね! 私のお気に入りなんです!」
キャロライン教授の心配をよそに、『かわいらしい』という言葉に反応して、見当違いの反応を示すアスカ。教授も呆れ顔になっているが、本人が気にしてないのだから大丈夫という判断だろう。それ以上突っ込むことなく、みんなについてくるように指示を出して教室を後にした。
(アスカ、武器ぐらい腰に差しておこうか。みんなはアスカのリュックが
(はーい!)
アスカがリュックから片手剣を出したときには、すでにみんなは教室から出た後だった。アスカは青い片手剣を腰に差し、慌てて後を追う。
それにしても今日のレベル上げはチックの森で行うのか。確かチックの森は、中心に行くにしたがって魔物が強くなっていく傾向があるから、まずは外側の弱い魔物で実戦経験を積みながらレベル上げをするのかな。
▽▽▽
俺の予想通りに、チックの森に着いた後のキャロライン教授の指示は、チックの森の外側でF〜Dランクの魔物を見つけて狩るというものだった。Aクラスのメンバーなら遅れを取ることはないと思うが、万が一に備えてパーティーを組んで戦うようだ。組み合わせはすでに決まっており、オーランド、クロウ、ジャックの3人、ジョン、ニキ、ブラウンの3人、そしてジャン、サーシャ、ユーリ、アスカの4人となっている。最初に名前を呼ばれた者が、各グループのリーダーを任命された。
キャロライン教授はそれぞれのリーダーに、数個ずつ回復薬を配り注意事項を伝える。あまり、奥まで入りすぎないように、十分注意して行動するようにとでも言われたのだろう。
各パーティーのリーダーが戻ってきたところで、待ちに待ったレベル上げが始まるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます