第23話 Aクラス模擬戦②

「ハッ!」


 動き出したのは同時だったが、敏捷が高い分先に仕掛けたのはオーランドだ。鋭い突きを顔に目掛けて放った。


「クッ!?」


 先手を取ろうとしたジョンは、カウンターを喰らうようなタイミングになってしまったが、身体と首を捻ることで辛うじて躱すことができた。


 そして、その回転の勢いそのままに身体をコマのように一回転させ、大剣を横薙ぎに振るう。


「おっと」


 掠っただけでも吹き飛ばされてしまいそうなその一撃は、オーランドが身を低くして躱すことで空を切る。しかし、ジョンも体勢を崩すことなくピタッと止まり、再びオーランドの前で大剣を正眼に構えた。


「せい!」


 今度はジョンが先手を取って、大剣を振り回しながらオーランドに迫る。


 ジョンは、一見でたらめに剣を振り回しているように見えて、実は相手の動きをよく観察して計算し尽くされた軌道で剣を振るっていた。


「クッ!? 反撃の隙がない……」


 そのことは剣を合わせているオーランドが一番感じていた。


(フフッ、もうオーランドのクセを見つけてしまった!)


 ジョンは剣を重ねるうちに、オーランドが左からの剣戟を盾で受け止めた後、必ず片手剣を横なぎに振るうクセがあることに気がついたのだ。


(後は、タイミングを見極めて……ここだ!)


 さらに何度か撃ち合う中で、チャンスを窺っていたジョンはついにその瞬間を見つけ勝負に出た。


 ジョンがオーランドの左側に振るった剣が盾に受け止められる。そして、ジョンの予想通り、オーランドの右手の片手剣が左から迫ってくる。


「もらった!」


 その攻撃をあらかじめ予測していたジョンは、身体を回転させオーランドの左側に回り込みながら大上段からその頭部を狙った……のだが。回転するほんの僅かな時間目を離した隙に、そこにいるはずのオーランドの姿が消え失せていた。


「なに!?」


 ジョンは大上段に剣を構えたまま、オーランドを見失い動きを止める。そして、その頭上から片手剣が振ってきた。


 バキン!


 オーランドの片手剣がジョンの頭を捉え、その結界を打ち砕いた。


「そこまで!」


 キャロライン教授の宣言で模擬戦の初戦が終了する。


「くそ! なぜだ!? 完全に見切ったと思ったのに!」


 ジョンが悔しさを隠そうともせず大声で叫んだ。おそらくジョンは何が起こったのかわかっていないのだろう。その問に、オーランド本人が答えた。


「ジョンは僕のことをよく観察していたみたいだったから、わざとクセを作ってみたんだ。思いの外上手くいってくれたよ!」


 そう、ジョンがオーランドのクセだと思っていた盾で防いでからの横なぎは、実は戦闘中にオーランドがわざとそう見せかけて作ったものだったのだ。剣を扱う技術はほぼ互角だったが、経験の差が勝敗を分けた結果になった。

 というか、このオーランド、間違いなく対人戦闘の経験があるな。貴族のはずなのにどういうことだろうか? ただ単に訓練で身につけた技術にしては、妙に実践的というか何というか。まあ、それがわかったところで、何かが変わるわけではないけど……ちょっと、オーランドの生い立ちに興味が沸いた瞬間だった。


「ジョンは自分の力を過信しすぎですね。あなたより強い者はたくさんいます。色々な経験を積んで、あらゆる状況に対応できるように訓練なさい。その点、オーランドはよく自分の力を把握していると言えます。ただ、今の勝ち方が通用するのは初見の相手だけです。これからも精進を怠らないように」


 キャロライン教授が、今の模擬戦を踏まえてジョンとオーランドにアドバイスを送る。さすがに教授だけあって、ちゃんと見えているようだ。アドバイスも的確だし。ジョンとオーランドも素直に頷いている。


 そして、二人がみんなが並んでいるところに戻ると、次に呼ばれたのはジャックとユーリだった。 剣士同士の戦いの次は、格闘家同士の戦いらしい。


「ふふ、俺の筋肉の前にひれ伏すがいい!」


 そう言いながら、胸の筋肉を上下に動かすジャック。特に筋肉好きでもないみなさんは、若干匹気味だし、同じ格闘家のユーリも好みのタイプはスリムな美形と言っていたな。ひとり浮いてるぞ、ジャック!


「それでは、始め!」


 キャロライン教授の合図で、始まったユーリとジャックの試合は先ほどの試合と打って変わって静かに始まった。微動だにせず見つめ合う二人。それもそのはず、二人の装備は動きやすさ重視のためほとんど防具の意味を成していない。そんなところに攻撃を受けたら、あっと言う間に結界が破壊されてしまうだろう。


 つまるところ、一撃で勝負が決まる可能性が高いのだ。その一瞬の隙をお互いに狙っている。動かずとも戦いは始まっているということだ。


 しかし、いつまでもこのままでいるわけにもいかないだろう。まずはどちらが先に動くかだが……


「ジャック、ごめんね! ちょっと本気出すよ!」


 突然、ユーリの口から飛び出した言葉にジャックは咄嗟に左に飛び退った。


『シュ!』っと音がして、先ほどまでジャックが立っていた場所にユーリの正拳が撃ち込まれていた。


 今の攻撃はほとんど勘で躱したジャックだったが、ユーリの目はしっかりと逃げるジャックの動きを捉えているようだった。ユーリは地面を蹴り直角に移動し、直ぐさまその後を追う。


「ハッ!」


 今度はその動きに合わせ、ジャックが左足の蹴りをお見舞いする。


 バキィ!


 カウンターに近い形で放たれた蹴りを、何とユーリは肘と膝で挟むように止めていた。あの高速移動中に向かってくる蹴りを受け止めるなど、とんでもない目と反射神経だ。まあ、それでもSクラスのメンバーにはかなわないだろうけど。


「これでお終い!」


 左足を止められバランスを崩したジャックの鳩尾に、ユーリの回し蹴りが炸裂した。鈍い音とともに結界が破壊され、さらに吹き飛ばされる筋肉の塊。ジャックは『ドゴォン』と音を立てて、訓練場の壁に激突した。


「そこまで!」


 キャロライン教授が宣言するまでもなく、ユーリの圧倒的勝利だ。スピード、パワー、技術、全てにおいてユーリが一枚上手だったようだ。

 ただ、敗れたジャックは落ち込むどころかなぜかこの場で筋トレを始めていた。


「うぉぉぉぉ、修行が足りなかったぁぁぁ! トレーニングあるのみぃぃぃ!」


「「「…………」」」


 うん、みんなキレイにスルーしている。哀れなり。


「それでは次、サーシャとブラウン前に出なさい」


 キャロライン教授も、筋トレを始めたジャックには目もくれず、次の対戦者を指名する。

 剣士、格闘家ときて今度は槍術士同士の戦いだ。長い得物同士の戦いは、これまでとはまた違った展開を見せてくれるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る