第24話 Aクラス模擬戦③

「「閃光突!」」


 槍術士同士の戦いは、開始直後の必殺技の撃ち合いから始まった。剣と違い槍は間合いが遠いのが特徴と言えるだろう。逆に近寄られると戦いづらくなるため、間合いが遠い内に有利になるように仕掛けるのが定石なのだ。


 もちろん、槍術士としての経験がある2人はそのことは百も承知のはず。結果、発動が早く奇襲に向いている閃光突をお互いに選んだというところだろう。だが、その後の動きには明確な戦闘スタイルの違いが現れる。


 相手の動きに合わせ、直感で槍を繰り出すブラウン。相手の動きから、最適な対応を考えるサーシャ。


 サーシャは相手が動く度に毎回考える時間がかかるため、どうしても攻めが後手に回ってしまっている。だが、一度ひとたび相手が考えた通りに動けば、一気に形勢を逆転することができるのだ。


 ブラウンが息もつかせぬ連撃を見せたと思えば、トドメとばかりに大振りになったところにカウンターをお見舞いするサーシャ。戦闘スタイルは違えど、その実力は拮抗しており一進一退の攻防を繰り広げている。


(サーシャは考えてから行動に移るから、時間のロスがもったいないな。"思考加速"のスキルがあれば、もっと強くなれるだろうに)


(へー、そうなのお兄ちゃん? それじゃあ、"思考加速"のスキルを獲得すればいいのにね?)


(いやいや、できるなら獲得してるだろう。だけど、思考加速のスキルは確かまだ未発見じゃないのかな? それに獲得するのに必要なスキルポイントが50000ポイントくらいだったような……)


(えっ? そんなの普通の人には無理じゃないの?)


(そうなんだよね。レベル100まで1ポイントも使わなかったとしても、5054ポイントしか獲得できないからな。普通にLv5スキルを手に入れるのすら無理なんだよ。何でこんな設定で、こんなスキルが存在するんだか)


(ふーん、何だかみんなかわいそう……)


 だからこそ、この世界では俺のスキルが輝くわけなのだが。後はアスカの使わないスキルポイントだけど……経験値倍化Lv5でレベルを200まで上げたら、最終的にスキルポイントは20万を超えるな。気軽にほいほいあげれるわけじゃないけど、その世界の危機とやらに対処するために、多少周りに配ることも視野に入れておくか。


 っと、アスカとスキル談話してたらサーシャとブラウンの戦いに動きがあったようだ。ブラウンがアスカにとって予想外の攻撃を仕掛けたため、それに対処できなかったサーシャが槍を落としてしまい、模擬戦終了だ。


「そこまで! ブラウンは直感で動くところが長所でもあり、短所でもありますね。直感故に攻撃を誘導されやすいのです。もう少し、相手の考えを読む訓練をしなさい。それから、サーシャ。あなたはブラウンと真逆ですね。よく考えて行動するのが長所であり、短所であります。考える前に判断することも時には必要です。反射的な対応も鍛えるように」


 キャロライン教授も、俺が思ったことと概ね同じことを感じていたようだ。ただ、"思考加速"スキルの存在を知らないから、サーシャには反射的な対応を磨くように言ってるけどね。

 サーシャもブラウンも、真剣にキャロライン教授の話を聞き頷いている。やはり、Aクラスともなると向上心も高いらしい。


「続いて、クロウとニキ前に出なさい。それから、ジャック筋トレしながらちょっとずつ近づいてこない!」


 うぉっと、確かに誰にも相手にされなくて寂しかったのか、ジャックが腕立て伏せをしながら近づいてきていた。せ、切ない……


 とまあ、ジャックのことは置いておいて次の対戦を見ておこう。


 クロウは左右の手に短剣を逆手に持ち、姿勢を低くして構えている。一方、ニキは弓を左手に矢筒は背に1つ持っている。うん、あの矢筒は魔法の袋マジックバッグになっているね。容量はそれほど大きくなさそうだけど、矢だけ入れているなら何百本単位で入っているっぽい。


 弓術士は基本、正面からの接近戦には向いていないからだろう、槍術士同士の戦いよりさらに遠い間合いでスタートするようだ。これはこれで面白い。


「では、始め!」


 開始と同時に、ニキが弓をつがえる。当たり前だが、弓術士は接近されれば負けるのは必至だから、いかに接近を許さずに倒すのが鍵となる。逆に言えば、いかに迫り来る矢を躱しながら接近するかが、クロウにとっての勝敗の分かれ目となるだろう。


(Aクラスの弓術士が放つ矢を躱しながら接近するのか……普通に考えたら厳しそうだが、クロウの職業は盗賊の上級職、暗殺者アサシンだ。素早さには相当自信があるはず。しかし、ニキの職業も弓術士の上級職、狩人ハンターだ。矢をうつ速度、矢そのもののスピードが弓術士とは比べものにならない。狩人と暗殺者の一騎打ち。中々見れる物じゃあないな)


 この模擬戦は静かに始まった。ニキは矢をつがえているが、狙いを定めるだけで矢を放たない。クロウも開幕ダッシュかとは思いきや、静かにその矢を……いやニキの指を見つめている。


(意外だな。クロウは開始直後にある程度の距離を詰めると思ってたのに)


2本撃ちダブルショットを警戒したんじゃないの? 直感で動いてアレが来たら、出会い頭に衝突する可能性があるから)


 おおっと、アスカの洞察力がそこまで優れてるとは!? 確かに適当に狙いをつけた2本撃ちダブルショットは読みでは躱しづらい。でも、実戦経験がほとんどないアスカちゃんがそこになぜ気づく? 天才か!?


 しかし、いつまでもにらみ合いを続けているわけにはいかないと判断したのだろう、クロウが静かに前に進み始めた。


2本撃ちダブルショット!」


 そのクロウの動きを見たニキが、まずは2本撃ちダブルショットで仕掛けるが……


 キン!


 クロウは躱すことをせずに、短剣の腹で矢を弾いた。


(上手いな。下手に躱そうとすると出会い頭に衝突してしまうかもしれない。だが、自分にムかかってくる物を見極めて対処するなら、あの距離ならそう難しいことではない。あくまでもあの距離ならだけど)


 クロウが距離を詰めると、その分矢が放たれたから対処するまでの時間が短くなる。そこにどう対応するのかが攻略の鍵となりそうだが。


「連切り!」


 上手い! 全く射程外の距離から短剣の必殺技を放ったから、どうしちゃったのかと思ったけど、必殺技を放ちながら距離を詰めることで、放たれた矢の全てを斬り捨てて接近している。必殺技を惜しげもなく防御に使うとは。


 シュ!


 突如放たれた、見当違いの方向への矢。天井に向かって放たれた矢に対し、クロウが取った行動は全力での回避だった。


 必至に横に転がりその場を離れるクロウ。天井に向かって放たれた矢は、急にその進路を変え、先ほどまでクロウがいた場所に背後から突き刺さった。


追尾撃ちコントロールショットか!? 確かに背後から狙われたら、今までの対応じゃ捌ききれないぞ)


 しかし、いち早く追尾撃ちコントロールショットを見破ったクロウの実力も見事だ。あのまま突っ込んでいたら、確実に背後から撃ち抜かれていたはずだから。


2本撃ちダブルショット!」


 再び、2本撃ちダブルショットを放つニキ。先ほどより近距離から放たれた矢は、しかし微妙にその狙いがずれてしまっていたようだ。


「もらった!」


 ここが最後のチャンスとばかりに、一気に距離を詰めるクロウ。ようやく射程距離に入ったニキに対して、左右の短剣が振り抜かれようとしたその時――――


「十文字ぎ……グハッ!」


 勝利を確信し、必殺技を放とうとしたクロウの背中に矢が突き刺さり、結界を破壊した。


「勝負あり! 勝者ニキ!」


 何が起こったのかわからず呆然とするクロウの前で、キャロライン先生がニキの勝利を宣言した。

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