第22話 Aクラス模擬戦

「へー、カケルさんと二人っきりでデートした上に、Sクラスのみんなとお茶してきたんだ。ふーん、何てうらやましい!」


 アスカが昨日の出来事をサーシャに話したら、あからさまに羨ましがっているようで、その作り笑顔がちょっと怖い。さらには、お茶会にアオイやリンがいたことで貴族のオーランドを始め、男性陣もこの話に興味津々の様子だ。


「くー、俺も実践力向上研究会に入りたいぜ!」


 話を聞いていた剣士のジョンは、実践力向上目当てか、美人のSクラスメンバー目当てかわからない感じで、興奮していて鼻息が荒い。そう言えば、こいつちょっとチャラい感じがするな。


「ねえねぇ、それよりアスカはカケルさんとどんなお話をしたのかな?」


 そう言う弓術士のニキも、確かカケル派だったな。そばかすが残る小さな顔に乗る大きな目が、何を期待しているのかキラキラと輝いている。


「えーと、主にスキルの話かな。カケルさんが探知と鑑定を覚えたいって言ってたので、そのお手伝いをしてました!」


「へー、探知と鑑定かー。あたいもほしいんだけど、選択肢に現れないんだよね」


 色白細マッチョの格闘少女のユーリがそう言うと、みんながうんうん頷いて賛同している。どうやら、みんなも同じように選択肢に現れていないみたいだ。アスカはカケルに教えたのと同じように、みんなにアドバイスをしてみたけど、残念ながら現れなかったようだ。やっぱり、転生者が特別なのかな。




 ガラッ


 みんなで盛り上がっていると、教室のドアが開いてキャロライン教授が姿を現した。


「何だか騒がしいわね。何かありましたか?」


「アスカさんが入った『実践力向上研究会』のお話を聞いていました!」


 サーシャが代表して質問に答える。


「あら、そんな研究会なんてありましたっけ?」


 さすがにできたばかりの研究会だから、知らない教授もまだ多いようだ。


「できたばかりの研究会らしいです。代表はあのカケル・アマウミですよ」


 なぜか自慢げにそう答えたのは、貴族のオーランドだ。貴族のお坊ちゃんを持ってしても、転生者とは一目置かれる存在なのだろう。


「ええ!? あのカケル君が研究会を!? ということはアオイさんも一緒ですよね? あの二人なんて、すぐにでも学院を出て行くのかと思いましたが……研究会を立ち上げたということは、しばらく残るつもりなのかしら?」


「そう言えば、そうですね。『世界の危機を救うために仲間を探しに来た』って、代表挨拶でアオイさんが言ってましたもんね。でも、申し訳ないがあの二人なら教授達より強そうだ。それでもここで仲間を探すのだろうか?」


「ふふ、悔しいけどブラウン君の言う通りね。彼らの強さは桁違いだわ。おそらく、この武術学院の長い歴史の中でも最強の二人でしょう。その二人が求める逸材がここにいるかしら?」


 キャロライン先生が、トレードマークの赤いリボンを揺らしながら首をかしげている。


「案外、アスカのことが気になっているのかもな!」


 マッチョの色黒格闘家ジャックが、アスカの腕を肘でつついて言った。


(触るな! 筋肉がうつるわ!!)


(もう、うつるわけないでしょ! やめてよお兄ちゃん!)


 まさか、この筋肉マッチョもアスカを狙ってるんじゃなかろうか? 用心せねば。


「へー、なぜアスカさんが?」


 キャロライン教授も、ジャックの言葉が気になったのか、授業そっちのけで話に参加している。


「アスカはその『実践力向上研究会』に誘われたのさ。しかも、あのカケルがアスカの兄さんに頼んだらしいぜ」


 ジョンは他のクラスの男が自分のクラスの女の子を誘ったのが気にくわないのか、明らかに不機嫌になっている。って言うか、さっき自分で『実践力向上委員会に入りてー』という発言をしたことを忘れているんだろうか……。幸せなヤツめ。


「へー、カケル君がアスカさんをねー」


 キャロライン教授は、少し考える素振りを見せたが、何かを思い出したかのように表情を切り替えてみんなに話し始めた。


「まあ、いいわ。この話はこれで終わりにしましょう。それよりも、今日から対人戦の練習を始めますわ。みんな、武器は訓練用のを貸し出すので防具だけ身につけたら、第一訓練場に行きますわよ」


「「「おお!」」」


 キャロライン教授の一言に、先ほどまでの話はどこへやら、俄然盛り上がるAクラスの仲間達。それはそうだろう。強くなるために武術学院に入学したのだから、実戦訓練は彼らが最も望む訓練だろうから。





▽▽▽




 第一訓練場は、入学試験を行った場所と同じだった。Aクラスの生徒達は、色とりどりの防具に身を包み、刃を潰した剣や槍を持っている。訂正、一人だけ上半身裸の男がいた。マッチョの格闘家ジャックだ。防御力よりも、自身のこだわりを重視しているようだ。うん、誰も見ていないけどね……


 訓練場には、Aクラス以外の生徒はいないようだ。キャロライン教授曰く、SクラスとAクラスは模擬戦と言えど、かなり激しい攻防になるから、他のクラスと被らないように訓練場を使うそうだ。


「さて、まずは一対一の模擬戦を行いましょう」


 横一列に並んだAクラスの生徒達に対して、キャロライン教授が模擬戦のルールを確認する。


「まずはみんな、この指輪をつけてください。その指輪には、低級ながら物理結界が付与されています。一定のダメージを受けると破壊されますので、この結界が壊された方が負けになりますよ。

 それじゃあ、まず初めは……剣士同士がいいわね。オーランドとジョン前に出なさい」


「「はい!」」


 キャロライン教授の指名で、剣士の二人が前に出た。剣士とは言っても、オーランドは片手剣、ジョンは両手剣の使い手なので、その戦い方は大きく異なるだろう。ステータス的にも、オーランドは素早さ重視で、ジョンはパワー重視のタイプのようだ。

 ただ、他のステータスはそれほど大きな差があるわけではないし、武器は訓練用で防具に付与もないことから、戦闘技術で勝敗が決まりそうな気がする。


 オーランドは片手剣を持った左手を後ろに、半身の姿勢でジョンの前に立つ。一方、ジョンは両手剣を青眼で構え、訓練とは思えない殺気を放っている。


「初め!」


 キャロライン教授の合図で、両者が同時に動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る