第21話 ミラージュキャット発見

 手に入れた探知と鑑定が楽しいのか、カケルが夢中になって遊んでいるので、アスカに言って早くミラージュキャットを探すように促してもらった。


 カケルが『ごめん、ごめん!』なんて爽やかな顔で言うと、男の俺から見ても格好いいって思っちゃうくらいだから、アスカがあの毒牙にかかってしまわないか心配だ。


「どうですか、カケルさん? ミラちゃんは見つかりそうですか?」


 アスカはミラの居場所を知っているが、そんなことはおくびにも出さず真顔で聞いている。


「うーん、正直、光りの点が無数にあってこのなかから探すのは骨が折れそうだ」


 確かに、ここ王都にはとんでもない数の人が住んでいるから、たった一匹の魔物を見つけ出すのは難しいかもしれないな。まあ、うちのアスカちゃんは1発で見つけたけどね。


「それじゃあ、さらにアドバイスです。実はこの光、よーく見ると種族によって微妙に色が違うそうです。人に近ければオレンジっぽく、魔物に近ければ赤っぽく見えるそうですよ! あっ、ちなみに魔族は光が若干暗いそうです!」


「へー、そうなのか? どれどれ……あっ!? 本当だ! 言われなければ気がつかなかったよ。ほとんどオレンジっぽいのに、時々、赤っぽいのが混ざってる!」


 王都にはミュウと同じように、ペットになる魔物を飼っている人が少なからずいる。だから、赤っぽい光りも確かにあるのだが……。アスカちゃん、そこまで教えるなんてサービスし過ぎじゃない!?


「どうやら、僕が見える範囲にはいないようだ。ちょっと、移動しようと思うんだけどどっちに行ってみようか?」


 おそらくカケルは王都に来て間もないから、王都をよく知っているアスカに意見を求めただけなんだろうけど……これは好都合だ。おかげで、自然にアスカがミラの元へ誘導できそうだ。


「そうですね。ミラちゃんが好きそうな場所は……ここから南西にある冒険者地区じゃないでしょうか。飲食店もたくさんありますからね!」


 そう、まさにミラは今、冒険者地区にいるのだ。おそらく、残飯でも狙ってるのだろう。


「じゃあ、冒険者地区に行ってみよう!」


 カケルは、アスカの言うことを寸分も疑うことなく、言われた通りに冒険者地区へと向かうことにしたようだ。




▽▽▽




「カケルさん、ミラージュキャットは動きが素早いです。しかも、気まぐれなので急に動いたり止まったりする素早い魔物の光を探してください」


 アスカも飽きてきたのだろうか、早く見つけてもらいたくてアドバイスが増えていく。


「了解! 赤っぽくて、動きたり止まったりしてるのは……いた! ミラージュキャットだ!」


 アスカのアドバイスが効いたのか、はたまたカケルにセンスがあったのか。どちらにせよ、ようやくペット探しが終わりそうだ。


 カケルが探知を頼りにミラの元へ向かうと、そこには倒れた残飯入れの前に、鈴のついた赤い首輪が浮かんでいた。


「あれだよね?」


「うん、あれだと思う」


 微妙な光景の前に、カケルがアスカに確認を取る。


「さて、素早さには自信があるんだけど、姿が見えないからなぁ。上手く捕まえられるかな?」


「捕まえる時、鑑定を使うといいですよ! ……って教えてくれた人が言ってました!」


 カケルの敏捷なら楽々捕まえられるだろうけど、見えないんじゃどうしようもない。それに対し、アスカのアドバイスは的確だったのだが……


「まるで、探知や鑑定が使える人が近くにいてアドバイスしてくれているようだね!」


 さすがのカケルもおかしいことに気がついた……のか?


「あははー、そ、そんなことないよ!? 前に教えてくれた人が、インビジブルタイガー? と戦った時のことを教えてくれたんだー」


(く、苦しいぞアスカ!)


「そうなんだー、随分ピンポイントでアドバイスをくれるいい人なんだね!」


 前言撤回。カケル、全然気が付いていませんでした……


「それじゃあ、早速……おお! 見える見える!」


 鑑定すると輪郭が青白く光るので、姿さえ見れれば敏捷が800を超えているカケルにとって、ミラージュキャットを捕まえるなど造作もないことだろう。あっという間に背後に回って、ミラージュキャットを抱き上げた。


「へー、触れるとミラージュが解けるのか」


 カケルの言う通り、抱き上げられたミラはその姿を現していた。


「かわいいー! こんな色だったんだね!」


 カケルが抱き上げたミラは、黒い小さな猫だった。


「さて、アスカ。待ち合わせ時間まで結構時間があるけどどうしようか?」


 カケルが探知を覚えたので、思ったより早くミラを見つけることができた。おかげで時間がたっぷり余っている。


「それじゃあ、カケルさんの探知の練習も兼ねて他のみんなを探してみるっていうのはどうですか?」


「おお! それはいいね! 探す探す! えーと、一番近くにいるのは……リンとミュウか。Sクラスのメンバーは光が強いから探しやすい!」


 おそらくリンはこっそり探知を使いながら、商業区を探していたのだろう。ここからほんの数百mのところにいる。






「あー、カケルさん!? ミラを見つけてくれたんですね! ありがとうございます!」


 ミラを抱いたカケルを見つけ、ミュウが手を振りながら小走りで近づいてきた。隣では、リンが小首をかしげている。


「随分早く見つけたやん? それにうちらがここにいるのもわかっていたみたいやな」


 リンは鑑定も持っているから、探知を持っていないはずのカケルとアスカが、先にミラを見つけたことを不思議に感じているようだ。


「いやー、アスカのアドバイスで探知と鑑定を覚えることができてね。それで早く見つけることができたから、こっちからみんなを探そうと思ってね!」


「へー、アスカのアドバイスねー。なんや、アスカって入学試験でカケルと引き分けたっていうし、なーんか、不思議な子やね」


 おそらくリンは鑑定でカケルとアスカのステータスを確認しているのだろう。カケルを見て納得したような表情を見せたが、アスカを見る目は少し鋭くなっている。


「えへへー、ちょっと知り合いに聞いたことを、カケルさんに教えただけなんだけどね!」


 しかし、アスカの隠蔽はLv5だ。万が一にもステータスからバレることはないだろう。


「それから、アオイとルークも近くにいるみたいだ。みんなで一緒に迎えに行こうか!」


 カケルが先導し、みんなでアオイとルークの元に向かった。アオイとルークは探知を持っていないから、我々と同じように商業区に当たりをつけて、しらみつぶしに探すつもりだったようだ。





「アオイ――、見つけたよ! へへっ、僕らの勝ちだね!」


 カケルがアオイを見つけるや否や、自慢げにアオイにミラを見せつけている。


「むむ、いつ勝負になったのか教えてもらえるかしら」


 アオイは嬉しそうなカケルを見て、明らかにふてくされた態度だ。ちなみにミュウはカケルの横にべったりくっついて、ミラをなでなでしている。


「まあまあ、負けたからって怒らない怒らない! いいこと教えてあげるからさ!」


「むむむ、だから勝負をした覚えはない。それとは、いいことは勿体ぶらずさっさと教える」


 まずい、カケルの天然な挑発にアオイのイライラがマックスに達している!


「実はこれアスカに聞いたことなんだけど……」


 カケルは、アスカに聞いたアドバイスをそのままアオイに伝えた。それを聞いたアオイが珍しく興奮した様子で喜んでいるので、おそらく彼女も探知と鑑定を覚えることができたのだろう。


「アスカありがとう。おかげで探知と鑑定を覚えることができた」


 アオイは仕返しとばかりに、カケルにはお礼を言わずアスカにお礼を言った。


「さて、あとはリックとマルコなんだけど……僕の探知はLv3だから半径1kmしか探知できないんだ。それで、彼らは探知にかからないから、ちょっと遠くにいるみたいんなんだよね」


 こっそりリンを見てみると、彼女も密かに頷いている。彼女の探知はまだLv2だからリックとマルコを見つけられていないのだ。もちろんアスカと俺は見つけている。なぜか、居住区をうろうろしているようだ。


「じゃあ、ミラちゃんを家においてからみんなでお茶でもせん?」


 リンが突然ヤバいことを言い出した。マルコが聞いたら呪いの藁人形を人数分用意するレベルのヤバさだ!


「その案には賛成」


 なにー!? アオイがこのヤバい提案に乗ってしまった!?


「私、カケルさんとお茶したいです……」


 ミュウは、余計な邪魔が入らないことを希望しているようだ。


「でもそれはマルコさんに悪い気が……」


「よし、じゃあ僕が見つけた美味しい店を紹介しよう!」


 ア、アスカの常識的な意見がないがしろにされ、勢いよくお茶をすることに決まってしまった……。哀れマルコ。2時間ほど筋肉マッチョとのデートを楽しんでほしい……

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