第19話 実践力向上研究会(初依頼)

(お兄ちゃん、このリンって人すごくない? カケルさんやアオイさんよりステータス高いよ!?)


(ああ、このクリムゾンって魔王の名前だからな。おそらくこの子は魔王の娘なんだろう。何が目的でこんなところにいるのかわからないが、このレベルでこのステータスなら魔王を超える逸材だな)


(魔王!? お兄ちゃん魔王と知り合いなの?)


(まあ、知り合いというか俺が一方的に知っているというか……)


(そうなんだー。それで、これ黙ってた方がいいのかな?)


(そうだな、すごいと言ってもアスカに比べれば全然だからな。目的がはっきりするまでは放っておいていいだろう。どこかで二人っきりになるタイミングでもあれば聞いてみてくれ)


(うん、わかった!)


 我々が脳内でそんな会話をしていると、カケルからのご指名でリックが活動内容の説明を始めたようだ。


「……ということで、昨日リンが作ってくれたチラシのおかげで早速一件以来が来てるぞ。えーと、これはCクラスのミュウさんだな。何々、『私の妹が飼っているペットが行方不明になってしまいました。一緒に探してくれませんか?』だそうだ。どうするカケル?」


「もちろん受けるさ。我らが研究会の初依頼だ。それにこの依頼は丁度いいかもしれないからね」


 カケルはどうやらこの依頼を受けるつもりのようだ。それにしても丁度いいとはどういう意味だろう? ペット探しが実践力の向上に繋がるとは思えないけど。


「カケルさん、丁度いいってどういう意味なの?」


 アスカも同じことを思ったようだ。これぞシンクロってやつだな。俺とアスカの繋がりを感じる……ふふふ。


「ああ、実は僕もアオイも"探知"のスキルがほしいんだけど、まだ選択肢に出てなくてね。もしかしたら、こういった捜し物のクエストを受けたら出てくるんじゃないかって思ってね」


(ぶほっ!? こいつら探知スキルをとらないんじゃなくて、選択肢に出てないのか!? そう言えば、こんな便利なスキルなのに持ってるヤツ少ないな。盗賊とか狩人系の職業だとすぐに選択できるみたいだけど……大変なんだなスキルを覚えるのって)


(そうみたいだね。私にはお兄ちゃんがいてくれるから、なーんの苦労もしてないけどね! ありがとう、お兄ちゃん!)


(きた。久々に心にきちゃいました。もう今すぐにでも死ねる! いや、スキルだから死ねないし、生きてもいないんだけどね)


「こら、カケル。あまり自分のスキルのことをペラペラしゃべらない」


「ごめんごめん、でもこれくらいはいいだろう?」


 アオイに怒られたカケルは、謝ってはいるが悪びれた様子はない。かく言うアオイもそれほど怒っているわけではなさそうだし。まあ、彼らもSクラスの仲間とはいえまだ信頼に値するほど仲良くなってわけか。


「それじゃあ、早速依頼主に会いに行こう。我々が依頼を受ける場合は、指定している時間に玄関にある掲示板の前に行くようにしてるんだ。逆に受けない場合は行かないから、時間を過ぎれば依頼者は帰っちまうがな」


 なるほど、リックのいう通りそう決めておけばいちいち断りを入れなくてもいいわけだ。なかなか考えられてるじゃないか。


「よし、じゃあ僕が行ってミュウさんを連れてこよう。みんなで行くと相手が緊張しちゃうかもしれないからね」


 カケルはそう言い残して教室を出て行ったのだが、むしろ依頼主が女の子ならカケル以外の方がいいんじゃないかと思ったりもした。だってねぇ、彼イケメンだし……




 数分後、教室のドアが開きカケルとその後ろに、薄い金髪を左右で2つに縛った可愛らしい女の子が現れた。おそらく彼女が依頼主のミュウさんなのだろう。案の定、その顔は赤く染まっておりうつむき加減でもじもじしながら教室へと入ってきた。


「あの、Cクラスのミュウと言います。今回は依頼を受けて下さりありがとうございます!」


 ミュウはまずみんなの前でお礼を言い、頭をぴょこんと下げた。


「ち、小さくて可愛い……」


 もう何度目になるかもわからないマルコの呟きを、出会ったばかりのミュウも含め周りにいる全員当然のごとく無視をして話を進めていく。


(マ、マルコがかわいそうだ……)


 ミュウの話によると、ペットがいなくなったのは2日前。学院に来るときに、うっかり2階の窓を開けたままでてきてしまったそうだ。そして、家に帰るとペットがいなくなっていたとうことらしい。そのペットとは、ミラージュキャットという魔物で体長20cmくらいのかなり小柄な猫型の魔物だ。特徴は、名前にもある通り周囲の光を屈折させ、自身の姿を見えなくする特技を持っているところだろう。名前はミラで、鈴のついた赤い首輪をしているらしい。


「ミラージュキャットか、あいつらは文字通り消えちまうからな。"探知"がないとちょっときついな」


 リックの言う通り、見えない相手を探すなら探知がないと厳しいだろう。この場で探知を使えるのは、アスカとリンだけだ。どっちもスキルを隠してるから、大っぴらには使うつもりはないはずだ。となると……カケル達の選択肢に"探知"が出ればいいのだが。


「ここで、無いものねだりをしても仕方がない。早速探しに行こうか。1人ずつ探してもいいけど、せっかくの初依頼だからお互いを知るって言う意味も込めて、2人一組で探しに行こうか。組み合わせは……僕とアスカ。アオイとルーク。リックとマルコ。リンはミュウちゃんについてあげてくれ」


「はーい! カケルさん頑張ろうね!」

「わかった」

「えっ!? アオイと!? あっ、了解!」

「ふっ、俺達が1番に見つけてやるぜ! なあ、マルコ!」

「わざとだ……呪ってやる。絶対に呪ってやる……」

「はいな。ミュウちゃんはうちに任せて!」


 組み合わせを聞いて、ルークは明らかに動揺して顔を赤くしているし、マルコはもう何というか鬼の形相をしている。問題はカケルだ。カケルならアオイと組むと思ったのに、アスカを指名しやがった。これは何か下心の予感がする。気をつけるんだアスカ!


「それじゃあ、見つけても見つけられなくても、2時間後に学院の正門前に集合しよう。それじゃあ、初依頼、頑張っていこう!」


 カケルの爽やかな号令で、みんな一斉に動き出した。


 それを見ながら俺は、カケルの毒牙からアスカを守り抜くことを誓っていた。

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