第18話 魔王の娘
「ただいまー、アスカはいる?」
アスカが学院から帰ってきた十数分後、ルークも帰ってきたのだが、今日は珍しく帰ってきた途端アスカの所在を確認している。
(何かあったのか?)
(ルークから声をかけてくるなんて珍しいよね)
「お帰りルーク。こっちの部屋にいるけどアスカに何か用?」
アスカが返事をすると、すぐにルークが部屋に入ってきた。
「何やってるんだ?」
その時アスカは、部屋の床一面に並べたポスターとにらめっこをしていた。
「うーんとね。今日、アスカはAクラスの友達と『研究会』を見に行ったんだよね。そこでいっぱい紹介が書かれてる紙をもらってきたから、どこに入ろうか悩んでるんだ」
「えっ? それで、どこに入るかはもう決めちゃったのかい!?」
なぜか慌てて聞き返すルーク。アスカが研究会に入ると何かまずいことでもあるような感じだ。
「うーん。アスカは今迷ってるの。剣技研究会か料理研究会のどっちにしようかなって」
アスカはたくさんのポスターの中から、その2つを目の前に並べ真剣に見比べている。
「そ、そうなんだ。じ、実はお兄ちゃんは今日できたばかりの研究会に入ったんだよなー」
何だ? 急に棒読みでしゃべり出したぞ。
「ふーん、そうなんだ。なんていう研究会?」
アスカが聞き返すと、ルークは待ってましたと言わんばかりに、急に笑顔になって饒舌に語り出した。
「『実践力向上研究会』って言ってさ、学院の人達からの依頼を受けて、みんなで解決するっていう、いわゆる冒険者みたいな活動をする予定だよ」
「冒険者!?」
ルークの説明に明らかにアスカが食いついた。というか、俺にはアスカが食いつくような研究会をあえて作ったように見えたのだが……
「そう、冒険者のようにどんな依頼でもこなせる実践力を身につけようってことさ。しかも、研究会の代表はあのカケルだよ。アスカが入学試験の一回戦で戦った」
「ふーん。あの転生者のカケルさんか。ということは、アオイさんも一緒ってことね。へー、それはそれは」
それを聞いたアスカが、ニヤニヤしながらルークの方を見つめている。
「ど、どういう意味だよ!? カケルとアオイはいつも一緒だからな。そ、そりゃ彼女もこの研究会のメンバーだよ」
不自然なくらいに慌てているルーク。そこにさらにアスカの追撃が続く。
「随分必死に否定するんだねルーク。それにちょっと顔が赤くなってるよ。私はただ、アオイさんって美人だなーって思ってるだけなんですけどね」
「うるさい、うるさい! それでどうなんだ? アスカは実践力向上研究会に入るのか、入らないのか!」
「えー、なんでそんな話になるの? ルークが入ってるって話で、アスカが入りたいなんて一言も言ってないのにー。さてはルーク、アオイさんに頼まれたな?」
アスカの突っ込みに、『ギクー!?』って音が聞こえてきそうなくらい後ずさるルーク。
「そ、そんなことはないけど、アスカって冒険者のまねごとが好きだったから、単純にどうかなって思っただけで……」
「はいはい、わかりましたよ。アスカもちょっと興味があるし、ルークのために入ってあげるよ。その実践力向上研究会に」
「よかった……じゃなくて、俺のためかどうかは置いておいて、明日みんなにアスカも入るって伝えておくよ。授業が終わったら、Sクラスの隣にある空き教室に来てくれよな」
意地悪そうな笑顔で見つめるアスカにそう答えると、ルークは顔を赤くしながら早口でそうまくし立てて自分の部屋へと戻って行ってしまった。
(いいのか? アスカ)
(うん。料理研究会はちょっと興味があったけど、こっちの方が面白そうだし、お兄ちゃんもこの世界の危機にちょっと興味がありそうだったから)
(む、アスカはそんなことまで見抜いていたのか!?)
(ふふふ、お兄ちゃんのことなら何でもわかるよ!)
(うう、ありがとうアスカ……)
この最後のやりとりで、俺の涙腺はきっちり崩壊してしまった。いや、スキルだから涙は出ないんだけどね。
▽▽▽
次の日、剣技の基本の型とエンダンテ王国の歴史について学んだ後、アスカは放課後、ルークに言われたとおりに、Sクラスの隣にある空き教室に来ていた。Aクラスの他のメンバー達は、アスカと同じ研究会に入りたかったと残念がると同時に、転生者のカケル達が作った研究会に誘われたアスカを、うらやましそうに見ていた。特にカケル押しの女の子達が。
「こんにちは。ルークに誘われてきましたアスカです。よろしくお願いします」
自己紹介するアスカの目の前にいるのは、カケル、アオイ、サーシャ、リン、、リック、ルーク、マルコの7名。つまり、Sクラス全員がこの研究会に入っていることになる。
それから、他のメンバーがアスカのために1人ずつ自己紹介をしてくれた。そして今、代表のカケルが自己紹介をしてくれているのだが——
「僕の名前はカケル・アマウミ。今回は僕らの研究会に入ってくれてありがとう。僕と引き分けた君なら相応しいと思って、ルークに誘ってもらったんだ。これからよろしく!」
カケルのことは知っていたし、アオイが仲間を探しているって言ってたから、いずれはこうなると思っていたから問題ないんだが……俺とアスカは全然違うことで頭がいっぱいになっていて、カケルの自己紹介は全然耳に入ってこなかった。
(お兄ちゃん、なんで魔族の人がここにいるのかな?)
(いや、お兄ちゃんにもわからない。何でこんなことになってるんだ?)
俺とアスカは、Sクラスのメンバーが自己紹介する度に鑑定していたのだが、その中のひとりに魔族が混ざっていたのだ。
その魔族とは……
《鑑定》
名前 リン・クリスティン(クリムゾン)(人族(魔族) 女)
レベル 40(83)
職業 槍術士(不明)
HP 301(2672)
MP 189(4002)
攻撃力 311(1247)
魔力 165(1309)
耐久力 254(1093)
敏捷 277(1165)
運 202(614)
スキルポイント 215
スキル
槍術 Lv4(Lv5)
(闇操作 Lv5)
身体強化 Lv3(Lv5)
(全属性耐性 Lv4)
(限界突破 Lv3)
探知 Lv2
鑑定 Lv2
(隠蔽 Lv3)
(おいおい、リン・クリムゾンってこいつは魔王の娘なんじゃないか!?)
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