第17話 実践力向上研究会
〜side ルーク〜
入学式から1週間、俺達は自分達の武器にあった戦闘技術や戦術を学んだり、この国の歴史やスキルについて学んでいた。
やはり予想通りカケルとアオイの実力はずば抜けていて、実戦訓練では誰ひとりとして、彼らにかすり傷ひとつ負わせることができていない。
ただ、それに幻滅して彼らがすぐにここを離れるということはないようだ。なぜかはわからなかったのだが、その理由が今日判明した。
「先生、我々Sクラスは他のクラスとの交流はないのでしょうか?」
授業終わりにカケルが、イリーナ先生にそんな質問をしたのだ。
「そうですね。他のクラスは合同演習などがありますが、Sクラスは他のクラスとの実力差がありすぎるため、そういった機会はあまりないですね。だいぶ先にはなりますが、魔法学院の生徒と合同で行うツインヒル平原での実戦訓練では、Aクラスのメンバーも参加する予定ですが」
「なるほど、わかりました。ありがとうございます」
イリーナ先生が教室を出た後、僕はカケルに聞いてみた。
「カケル、なんであんな質問をしたんだい?」
「うん? 前にも言ったけど、僕らは仲間を探しに来たんだ。Sクラスのメンバーは当然候補だけど、他のクラスにも優秀な人材がいるかもしれないじゃないか。特に君の妹とかね。
正直、僕は彼女の実力を測りかねている。ぜひ、この目で確かめて見たいと思っているんだよ」
そうか、普通ならSクラスのメンバーが最強だから、他のクラスなんて気にする必要はないけど、今年の入学生にはアスカがいる。アスカの実力は正直僕もわからないけど、あいつならなんだかカケル達に勝てそうな気がする……
「それじゃあ、研究会に参加してみたらどうだ?」
突然後ろから会話に参加してきたのは、ハンクの息子のリックだった。
「研究会?」
カケルが首をかしげて、不思議そうな表情を見せる。さすがイケメン。その顔も女の子受けしそうだな。
「ああ、研究会だ。授業が終わった後に、同じ目的を持った学院生が主体的に集まって、色々研究してるってやつよ。そこなら、クラスに関係なく人が集まってるんじゃねえか?」
そう言えば僕も聞いたことがある。確か、各武器に合った戦術を研究したり、スキルを研究する会などがあったはずだ。
「そんなものがあったのね。それであなたの妹はどこかの研究会とやらに入っているの?」
隣にいたアオイが僕に聞いてきた。この感じからしても、他のクラスと交流を持ちたいのじゃなくて、アスカ一点狙いだとわかってしまうのだが……
「いえ、聞いたことないです。たぶんどこにも入っていないかと」
「そうか、それじゃあ君の妹がどこかの研究会に入るのを待つか、それとも一緒に入ってもらえるように誘ってみるのがいいのか……」
「じゃあ、新しい研究会作る」
カケルがブツブツ呟きながら考え事をしていると、アオイがとんでもないことを言い出した。
「研究会ってそんな簡単に作れるのかい?」
「生徒の自主活動だからな。問題ないと思うぜ。しかし、Sクラスのメンバーが作った研究会となると、人気が出過ぎるみたいだからな、入れるメンバーを絞った方がいいと思うぞ」
驚いて聞き返すカケルに、見た目に反し意外と丁寧に回答するリック。なぜかリックはこの手の話に詳しいようだ。さすがは、情報が集まる冒険者組合のトップの父を持つだけある。
「ねえねえ、なんか面白い話をしてるやん。あたしも混ぜてーや!」
そこにSクラス3位のリンが加わってきた。
「それで何の研究会を作るのカケル?」
アオイは、もうすでに新しい研究会を作る方向で決めているようだ。
「いや、いきなり研究会と言われてもよくわからないし……ルーク、君の妹が興味ありそうなことは何かないのかい?」
突然話を振られて思わず言葉に詰まる。何せ、アスカが興味があることなんて思いつきもしなかったから。って、待てよ? 確かアスカが興味を示した出来事が1つあったな。
「冒険とか人助け?」
僕は、ゴブリンナイトを退治した時のことを思い出していた。
「冒険とか人助けねぇ。それって、冒険者がやってることまんまやないか」
リンの言う通り、アスカは冒険者ごっこが好きなのだ。
「じゃあさ、人助け研究会とか?」
僕の隣にいたマルコがここに来てようやく口を挟んだんだけど、うむぅ、コンセプトはそれでいいんだけど、ネーミングがちょっと安易かな……
「かっこわる……」
アオイのダメ出しに、致命傷を受けてうなだれているマルコ。許せ、慰めてやりたいが今はそれどころじゃない。
「じゃあ、実践力向上研究会ってのはどや? あらゆる場面に対処できるように、この学院生の依頼を格安で受けるっちゅう感じで」
「へえ、いい感じじゃないか。でもそこは格安ではなく、無料では?」
さすがはカケル。リンの提案に同意しつつも、無料と言うあたりが正義の味方っぽい。
「それなら、ギルドの反感を買ってまうやろ」
しかし、それに対するリンの答えはもっともだと思われた。カケルクラスの者が無償で依頼を解決してしまったら、それこそ誰もギルドに頼まなくなってしまうだろう。
「格安でも依頼が殺到するだろうから、宣伝はなしだな。受ける依頼も選んでいった方がいい」
リックが、リンの提案にさらに条件を付け加えていく。というか、僕をおいてどんどん話が進んでいく。
(これでアスカが入らなかったら、責任感じるな……)
リックとリンが、あっという間に実践力向上研究会の活動内容を決めてしまった。カケルとアオイも特に異論はないようで、ここに新たな研究会が誕生した。
「じゃあ、俺がイリーナ先生に報告してくるとするか」
リックがを上腕二頭筋をもりもり言わせながら、教室を出てイリーナ先生のもとへ向かった。
「ほなうちは、宣伝用のチラシでも作るかな。何枚か貼っておけば、後は口コミで広まるやろ」
そう言って、リンが続けて教室を出て行く。
「それじゃあ、ルークは妹さんの勧誘をよろしく頼むね」
カケルの言葉に、ちょっとの不安と大きな責任を感じながら、僕は帰路へとつくのだった。
(……あ、マルコを教室に忘れてきた)
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