第16話 Aクラスの初日

「こんにちは! みなさん!」


 ルークが初めてSクラスで過ごしていた同じ時、アスカはAクラスで同じようにクラスメイトと顔を合わせていた。


 アスカは勝手に学院の中をうろうろした挙げ句、道に迷ったのでAクラスの教室に入ったのは最後になってしまっていた。教室の中にはすでに9人が椅子に座っており、アスカが残り1つの席に座る。するとすぐに、隣に座っていた女の子が話しかけてきた。


「こんにちは、私の名前はサーシャ。あなた、アスカさんよね? 筆記試験で満点だったからどんな人かと思ったら、随分若いのね。おいくつかしら?」


 さらさらの金髪ヘアーを肩まで下ろした青い瞳の割ときれい系のお姉さんが、アスカを興味津々といった目で見つめている。ちなみに机には槍が立てかけてある。


「はい! アスカと言います! 年は10歳です!」


「「「10歳!?」」」


 なぜか、サーシャさんだけじゃなくクラス全員が叫ぶ声が聞こえてきた。


(でも、筆記試験が満点なのにAクラスってことは、実技試験はそれほどでもなかったってことよね? 他のみんなは強そうだし、私より弱そうな人がひとりでもいてよかったわ!)


 という心の声らしきものが、サーシャさんの口から漏れ出ていた。見た目のキレイさとは裏腹に、天然が入っているのか!? これは期待してもいいのか!?


 アスカの年齢にみんなが驚いていると、教室のドアが開き金髪のクルクルヘアーに赤いリボンが特徴的な、背中に槍を携えた女性が入ってきた。


「みんな揃ってますわね。わたくしの名はキャロライン。このAクラスを担当することになりました。みなさんこれからよろしくおねがいしますわ」


 見るからにいいところのお嬢様といった感じだが、確かこの女性も以前国別対抗戦の練習をしたときいたはずだな。確かあだ名は……"血まみれリボン"だったような……


 それからお互いの自己紹介が始まる。


 オーランド・ポートミル 剣術Lv3 身体強化Lv2

 クロウ・ブラック  短剣Lv3 身体強化Lv2

 ジョン・ハミルトン 剣術Lv3 身体強化Lv2

 ジャック・モーガン 格闘Lv3 身体強化Lv2

 サーシャ 槍術Lv3 身体強化Lv2

 ジャン  斧術Lv3 身体強化Lv2

 ニキ   弓術Lv3 身体強化Lv2

 ユーリ  格闘LV3 身体強化Lv2

 ブラウン 槍術Lv3 身体強化Lv2


 みんな持っている武器を見れば得意な獲物はわかるが、さすがにスキルをペラペラしゃべる人はいないようだ。ただ、俺は鑑定があるからスキルが丸見えなんだけどね。そして、武術系で強くなろうとすれば、面白いほどに似たようなスキル構成になる。

 まあ、それもそうだろう。一生に獲得できるスキルポイントが限られているから、基本となる武術スキルと身体強化外せないのだろう。つくづく転生者は人外の存在だと思い知らされる。それこそ化け物と思われるくらいに……


 自己紹介が済んだら、キャロライン先生がAクラスのこれからの日程について話してくれた。大体、予想通り個人の技術を磨きながら、この国の歴史やスキルについて学ぶ。その後、魔物と戦いながら連携を覚えていくのだ。


 しかし、このメンバーだと回復することができないだろうから、治癒スキル持ちが常駐している学院はともかく、魔物との実戦訓練では回復薬ポーションは必須だな……アスカ以外は。前衛は後衛とパーティーを組むまで、お金がかかりそうだ。


(……そう言えば、前の家はどうなってるのかな? 結界を張ったまま放置してきちゃったけど、まだ残ってるならアスカの活動拠点にできるんだけどな。帰りに様子を見にいかせるか)


 キャロライン先生の話が終わり、後は学院の中を一通り案内してもらって、今日は解散となるようだ。Aクラスのメンバー達は、キャロライン先生の後をついて校舎を回る。Aクラスにはアスカを含め、4人の女の子がいて、早速仲良くなったようだ。こういった環境の変化に対応するのは、男子よりも女子の方が圧倒的に早いのかもしれない。


 ワイワイ、キャイキャイ言いながら楽しそうにおしゃべりしている。おそらくみんな10代後半であろうその中に、10歳のアスカを混ぜてくれているのはありがたい。


 年頃の女の子が集まれば移動中の話のネタは、『誰が格好いいのか?』に決まっている。現在1番人気はSクラスのカケル・アマウミのようだ。


 さらにはルークの名前も上がっていたのだが、それでいいのか女子達よ。彼はまだ12歳だぞ。


 Aクラスの中では、明るい金髪がトレードマークのさわやか貴族、オーランド・ポートミルの人気が高そうだ。


 ゴリゴリマッチョのジャック・モーガンなんて、その道の娘がいたら泣いて喜ぶ筋肉だが、武闘派の女の子達は華奢な男子の方が好みのようだった。


 施設案内が一通り終わったところで、教室に戻ってきて今日は解散となった。


(さて、アスカを連れて以前買ったの家でも見に行ってみるか)





 ▽▽▽




「もう! サーシャさん達とおいしいスイーツのお店に行きたかったのに! 」


 俺がアスカを連れ出したせいで、女子会に参加できなかったとご立腹のようだ。


(だけど、アスカちゃんは貨幣を持ってないでしょうに?)


(それでもいいの! お姉さん達がごちそうしてくれるっていってたもん!)


(でも、毎回そういうわけにもいかないだろう? 今から行くところには金貨もたくさん置いてあるんだけどなー)


(行く! 今すぐ行く!)


 あんまり大金を持たせるつもりはないけどね。こう見えても(スキルだから見えないけど……)、妹のお金の使い方に関しては厳しいのだ。





 ▽▽▽





(お兄ちゃんこれって……)


 商業区の中心からは少し離れたところにあるその家は、工房や研究室、販売スペースまで兼ね備えたかなり大きな建物だ。しかし、建物は結界で守られているせいか綺麗なままだったが、周囲は雑草が生え放題の状態だった。


(実はこの家、お兄ちゃんの家なのだ!)


(えっ!? お兄ちゃんのって、お兄ちゃんは私の頭の中だけにいるのかと思ってた。もしかして、お兄ちゃんって別のところに住んでるとか!? だったら会いたい!)


 会いたいか……確かに会いたいよね。でもそれは無理なんだよな……


(うーん、残念。お兄ちゃんはやっぱりアスカの頭の中にしかいないのでした。では、なぜ家なんか持っているかというと……)


(いうと?)


(内緒です!)


(うー、お兄ちゃんのケチ! 教えてくれたっていいのに!)


 アスカはそうは言ったけど、それ以上は追求しないでいてくれた。でも、いつかは話せる時が来ればいいなと思う。


(それじゃあ、中を案内するよ。だけど、ここがアスカの家だとバレたら、パパやママに色々聞かれちゃうから、バレないようにこっそり入ろうね)


(はーい!)


 アスカは人気のないところで、光操作を使い自分を見えないようにしてから、結界を解いて家の中へと入って行った。





 一通り家の中を案内した後、最後に倉庫へと向かった。そこにはさらに結界が張っており、中には希少な薬草や鉱石、魔物の素材などが入った魔法の箱マジックボックスが置いてある。さらには、10億ルークほど入った魔法の袋マジックバッグまであるのだよ!


(お、お兄ちゃん金貨がいっぱい!!)


(ふふーん、だから言っただろう! だけど、全部持って行くのはダメだぞ! まずは金貨1枚にしなさい)


(はーい! わっかりましたー!)


 そう言って、嬉しそうに金貨を1枚取り出すアスカ。


(それから、今後この家に入るときは、家の中に直接転移すること。後、出るときは必ず結界が張ってあるか確認すること)


(うん、わかった!)


(よし、じゃあ結界を張り直して帰ろうか)


 アスカは俺の言う通り、すぐに結界を張り直して元の自分の部屋に転移した。


(でもお兄ちゃん? あの家、なんだか初めて入った気がしなかったな。なんだか懐かしい感じがした)


(そ、そうなのか? 何でだろうね? 不思議だな)


 最後に呟いたアスカの言葉に、思わず言葉が詰まってしまった俺だった。

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