第15話 Sクラスの初日
〜point of view ルーク〜
入学式が終わり、新入生はそれぞれのクラス移動する。俺達がSクラスの教室に入ると、まだ誰も来ていなかったので、とりあえずマルコと一緒に一番前の席に座ってみた。座席は6つだったので、この後残りの4人が来るのだろう。
(それにしても、さっきの代表挨拶は強烈だったな。アオイさんだっけか、マルコを一瞬で倒した実力からも、嘘を言うようには見えなかったけど)
「なあ、マルコ。さっきの代表挨拶だけどどう思う?」
「はい? あっ!? 代表の方ですか? とても美人だと思います。少し冷たい印象がありますが、そこがまたいいと言いますか、なんと言いますか……」
「いや、そういうことじゃなくて、世界の危機ってところだけど」
「あ、すいません。世界の危機ですか? 世界の危機のお陰で彼女とパーティーを組めるなら、それはそれでありがたいことかもしれません」
(ダメだこいつ……今のマルコをエリーが見たら何と言うか……ってか、エリーは何とも思わなかったりして……)
マルコは骨抜きになっちゃってるみたいなので、彼との会話は諦めて他のクラスメイトが来るのを待つことにした。
程なくして、続々とクラスメイトが教室に入っ来る。そして最後にアオイとカケルが一緒に教室に入ってきた。
「あの2人、付き合ってるのかな?」
隣で呟くマルコを無視して、俺はその2人を観察する。2人は空いている席、最前列の窓側2つに並んで座った。つまり、マルコの隣の席だ。
「ア、アオイさんが隣に!?」
小さな叫び声をあげたマルコを再度無視して、2人の会話に耳を傾けると……
「おかしいな? Sクラスはこれで全員か? あの女の子がいないが……」
「あなたと引き分けた女の子? 確かにいない」
カケルがクラスメイト達を一瞥して、アオイとそんな会話を交わしている。その時、ドアが開く音がして白い透き通るような髪を腰まで垂らし、同じく真っ白な鎧に身を包んだ、優しい目をした美人さんが入ってきた。
「こんにちはみなさん。私の名前はイリーナ。今日から、このクラスを担当させてもらうことになりました。得意な武器は片手剣です。よろしくね。といってもここはSクラス。私だけでは役不足なので、他の武器を扱う先生にも協力してもらう予定ですけどね」
「う、うつくしい……」
隣で何か呟いている男は放っておいて、聞いたことがある名前に記憶を辿る。
(あー、確か父さんも剣術はこの人に習っていて、国別対抗戦に出た時、練習のために対戦相手を買って出てくれた先生達のひとりだったかな)
先生の自己紹介が終わると、学院生達の自己紹介が始まった。受付番号順ということで、俺が最初に自己紹介をする。そして次はカケルの番だ。
「僕の名前はカケル・アマウミです。名前からお分かりかもしれませんが、転生者です……」
カケルの自己紹介から、彼らが神聖国家クラリリスから来ていることがわかった。ついでに剣術、身体強化のスキルがレベル5だそうだ。アオイが入学式で言っていたことは、本当だったのだ。剣術については、本当にこの学院で学ぶことなどないのではないか?
この自己紹介を聞いて、イリーナ先生も顔を引きつらせている。
さらにアオイの自己紹介で、彼女も弓術と身体強化はレベル5であることが判明。そして、こんなに簡単に手の内を明かすということは、相当自信があるのか、もしかしたら他に隠しているスキルがあるかもしれないと思った。
スキルに関しては、スキルクリスタルを入手する他、追いつく手段はないけど、技術については何とかついていけるように頑張らなければ……
そして、できれば彼らが求める仲間のひとりになりたいと思う。
それから、ハンクさんの息子であるリックが自己紹介をし(彼については、ときどきギルドで見かけていたので知っていた)、続けてマルコがそして最後にリン・クリスティンという女の子がみんなの前に立った。
「! 健康的でかわいい……」
最早、全ての女性に目を奪われている親友(を辞めようか本気で考えてしまう)は、完全にスルーの対象と成り果てている。
しかし、このリンという女性は何ともつかみどころのない感じがした。健康的で透明感のある茶色い肌に、大きな黒い瞳、ショートカットが似合うかわいい女性なのだが……
彼女はスキルなどは明かさず、ただ得意な武器は槍だとだけ告げた。
一通り自己紹介が済むと、イリーナ先生が今後の日程を教えてくれた。実技については、まずは自分達の技術を上げながら、連携などを磨いていく。それから、この国の歴史やスキルについて、座学で学んでいくそうだ。
カケルやアオイに実技訓練が必要なのか甚だ疑問だが、彼らは黙って先生の話を聞いていた。そして、先生の説明が終わった後、何か質問がないか聞かれた時、カケルが静かに手を挙げた。
「イリーナ先生。入学試験の模擬戦で僕と引き分けた女の子は、なぜSクラスでないのだろうか? 合格発表の時に張り出された点数表だと、彼女は筆記試験は満点だったと記憶しているが」
その質問は予想していたのだろうか、イリーナ先生はさして驚きもせずに答えた。
「ああ、アスカ・ライトベールだったね。確かに彼女は筆記試験は満点だが、実技試験は3戦3引き分けだからね。点数的にはAクラスに入っているよ」
「3戦3引き分け!?」
むしろ、その答えに驚いたのはカケルの方だった。
「それってもしかして、狙ってやったのでは?」
「だとすると、相当実力差がないと無理」
「だ、だよね? まさか僕との戦いでも手加減していた!?」
「そうは見えなかったけど、だとしたら相当危険人物」
カケルとアオイが他の目も気にせずに、そんなことを話している。
その時、後ろから『クスッ』という笑い声が聞こえた。チラッと振り返ると、リンと自己紹介した女性が笑っている。
(あの会話を聞いて笑えるなんて、彼女も相当な実力者なのか?)
「そんなに気になるなら、お兄さんに聞いてみたら? そこにいるでしょ」
「「えっ!?」」
この先生のツッコミには、カケルとアオイも驚いた顔を見せた。っていうか、受験番号が繋がってて、同じライトベールだったら、兄妹だって気がつきそうなもんだけどな……
「それは、気がつかなかった……」
「盲点……」
何だか、とっつきづらいと思っていたけど、案外抜けてるところもあると思ったら親しみが湧いてきた。
「アスカの兄のルーク・ライトベールです。僕で答えられることなら、どうぞ聞いてください」
その後、カケルとアオイに色々聞かれ、わかる範囲で答えはしたが、いかんせん僕ですらアスカのことはよくわかっていないから、結局は3人揃って深まった謎に頭を捻るばかりだった。
余談だが、初日からアオイとたくさん話したことで、帰り道はマルコが一言も口を聞いてくれなかった。
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