第14話 世界の危機!?
試験から1週間後、今日は武術学院の合格発表の日だ。Sクラスかどうかは別として、さすがに落ちるということはないだろう。キリバスとソフィアも変装し、一緒に見に行くようだ。
武術学院の玄関に着くと、入学試験以上の人混みが出来上がっていた。もう、何て言うか、みんな家族総出で見に来ている感じだった。
キリバスとソフィアは、変装してきて正解だったかもしれない。こんな人混みの中に、憧れのSランク冒険者が現れたらどうなってしまうかわかったもんじゃないからね。
その人混みをかき分けながら、合格者が張り出されている掲示板のところまで歩いて行く。ルークもマルコも緊張のせいか、顔がいつもよりこわばっているようだ。
しかし、アスカはと言うと……
(うー、人がいっぱいいすぎて歩きづらい! お兄ちゃん、空飛んじゃダメ?)
(お願いだアスカ……今までの努力を一瞬で無駄にしないでくれ……)
相変わらずマイペースだった。
ようやく掲示板の前にたどり着き、みなで一斉に上を見上げると……
Sクラス
1位 8番 アオイ・サザナミ
筆記試験 90/100 実技試験 100/100
2位 7番 カケル・アマウミ
筆記試験 90/100 実技試験 98/100
3位 444番 リン・クリスティン
筆記試験 86/100 実技試験 95/100
4位 1番 ルーク・ライトベール
筆記試験 87/100 実技試験 93/100
5位 89番 リック
筆記試験 75/100 実技試験 92/100
6位 112番 マルコ
筆記試験 80/100 実技試験 85/100
Aクラス
1位 2番 アスカ・ライトベール
筆記試験 100/100 実技試験 測定不能
2位 156番 オーランド・ポートミル
筆記試験 75/100 実技試験 77/100
3位 502番 クロウ・サリバン
筆記試験 70/100 実技試験 80/100
4位 343番 ジョン・ハミルトン
筆記試験 71/100 実技試験 73/100
5位 297番 モーガン
筆記試験 62/100 実技試験 75/100
6位 96番 サーシャ・クルス
筆記試験 70/100 実技試験 66/100
・
・
・
この結果を見たとき、ルークはかなり悔しそうな顔を、マルコはホッとした顔を、アスカは……ポカンとしてました。俺はというと……測定不能ってなんやねん!? って顔をしてました。
ルークとマルコに関しては、トップ合格は逃したもののSクラスでの合格と言うことで、キリバスもソフィアも一安心といったところだったのだが、その下のアスカの結果を見て明らかに動揺しているようだった。
(わかるよ、その気持ち。前のアスカの時は『検討中』だったからね。思い出しちゃったんだろう。名前も一緒だけに)
「パパ、ママ、測定不能ってなに? 私、合格したのかな?」
アスカは予想外の結果に、合格できたのかどうか不安になったのだろう。キリバスとソフィアに心配そうに尋ねている。
「Aクラスのところに名前があるから、合格は間違いない。ただ、点数は……わからない」
キリバスは以前の経験を思い出し、そう断言するがやっぱり気になったのだろう、受付のおばさんのところに聞きにいった。
「あー、あれね。正直、私もわかないんですよ。合格は間違いないから、入学した後に教授にでも確認してみてください」
どうやら受付レベルではわからなかったようで、後で知り合いの教授に聞いてみるといっていた。そういえば、前のアスカが国別対抗戦に参加するとき、武術学院側の教授もいたよな。
確か……あだ名が『セクハラ』って教授がいような。というか、そいつしか思い出せない……。いずれにせよ、キリバスは武術学院に所属していたことがあるから、知っている教授もまだいるのだろう。
とりあえず、話を聞いた受付のおばさんに入学手続きを進めてもらった。入学式は明日の昼からだそうだ。アスカは合格できたと知って、満面の笑みを浮かべている。そんなアスカの様子を眺めていると、キリバスとソフィアの会話が聞こえてきた。
「あのSクラスの1位と2位、転生者だな」
「ええ、でも、王都に転生者がいるとは聞いたことがないから、別の国から来たんじゃないかしら」
「だろうな。だとすると、神聖王国クラリリスか軍事帝国オウグストか……」
「そうね。ちょっと気になるから、私、調べてみるわ」
「ああ、俺は父さんに伝えて、場合によっては国王の耳にも入れておいてもらおう」
なるほど、なるほど。転生者がよその国から来るというのは、結構大変なことなのね。まあ、万が一戦争になって攻められたときに、あの2人に中で暴れられたら致命的なダメージを受けること間違いないからね。
普通は、入国するときに厳しいチェックがあるんだろうけど、まさか受験生があれだけの戦闘力を持っているとは誰も思わないってか。
これがどこかの国の陰謀なら、中々手の込んだ作戦だけど……個人的な感じで言えばなんか違う気がする。純粋に何かを学びに来たとは思えないけど、少なくとも悪意は感じなかったし。
まあ、俺の勘違いかもしれないけど。どっちにしろ、アスカがいれば問題ないから、俺はこの件についてはノータッチでいこう。
兎にも角にも、無事全員合格したので今日の夜はルークとジェーンを誘って、合格記念パーティーを行うことになった。アスカも、大好物のジャイアントボアの柔らか煮を食べられると大喜びだ。
転生者について、気にならないわけでもないが、あまり考えすぎても仕方がないので、俺もアスカの幸せそうな顔を見ながら、エネルギーを充電しようと思ったのだった。
▽▽▽
合格記念パーティーを盛大に行った次の日、午前中に入学するための準備や買い物を済ませ、午後はみんなで王都武術学院の入学式に参加した。
今回はキリバスもソフィアも変装せずに参列したが、さすがにSランク冒険者が普通に混ざっていたら混乱を期すと思ったのだろう、学院側からの申し出で来賓席に並ぶことになった。
キリバスはそのついでに、教授に『測定不能』の件を聞いてみたらしいのだが、何でも模擬試験の結果が、相手の強さにかかわらず全部引き分けだったのが原因らしい。
それも、ただの引き分けではなく今回2位で合格した"カケル"相手にも引き分けで、最下位だった受験生にも引き分けだったことが、教授達の理解を超えてしまっていたそうだ。
しかも、全く手を抜いた様子がなく、どちらも全力で引き分けていたように見えたというのだ。
まあ、アスカには力をコントロールする訓練を嫌と言うほどやってもらったから、そのぐらいはできて当然だなと俺は思ったけど、見ている人にはわからなかったというわけだ。さすがアスカ!
武術学院の入学式は、魔術学院の入学式とさほど変わらない日程だった。学院の方針やシステムの話と各クラス毎の入学者の紹介が終わり、首席合格者の挨拶となった。確か、首席は転生者の1人、アオイ・サザナミだったな。どんな挨拶をしてくれるのか楽しみだ。
静かに壇上に立ったのは、茶色の髪にきつめの目元の高校生くらいの美少女だった。
「私の名前はアオイ・サザナミ。名前を聞いたらわかるだろうけど、私は異世界からの転生者。私が転生してきたのは半年前。前の世界で死んだ後、クラリリスという国に転生してきた。どうやら私が転生してきたのは、この世界に迫っている大きな危機を防ぐためらしい。
私以外にも転生者が複数いるって、神様が言ってた。その人達やこの世界の人達と協力して、その危機から世界を救ってほしいと。1人はそこにいるカケル。彼も神様から同じ話を聞いている。
私達がこの王都武術学院に入学することにしたのは、私達の師匠がここで仲間を探せと言ったから。だからここに来た。正直、入学試験を見る限りは、ここに来る必要があったのか疑問だけど、とりあえずは師匠が言うように仲間を探したいと思う。
どんな危機かもわからないし、命の危険があるかもしれないけど、それでも私達と戦いたいなら歓迎する。ただし、足手まといは容赦なく切り捨てていくからそのつもりで。
以上、私の挨拶を終わる」
……何というか、とんでもない挨拶だった。会場の全員が言葉を失っている。そりゃ、そうだろう。いきなり、この世界に危機が迫っていると言われたら、誰だって言葉を失うだろう。ましてや、圧倒的な実力を示して首席合格した転生者の言葉なら、疑う余地もなさそうだ。なにせ、彼女が嘘をついたって、何の得もないのだから。
しかし、大きな危機とは何だろうな? 考えられるのは魔王の暴走だろうけど、現魔王が約束を破るとは思えないし。しかも、転生者が複数で対処するような大きな危険って……想像もつかないな。まあ、仲間を集めるって言うくらいだから、今すぐ起こるってことではないのだろうけど。
そんなことを考えながら、何気に辺りを見回すと入学生達はもちろん、それなりの立場にあるだろうその保護者達や武術学院の教授達、果てはキリバスやソフィアまで深刻な顔をしている。おそらくこの場でこんなキラキラした目で、楽しそうな顔をしているのはアスカだけだろう。
そして俺は思った……
(システィーナは、アスカがこの世界に転生してること知らないんだな……)
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