第13話 vs 転生者
「きゃっ!? えっ? 今、決まったと思ったのに反撃した?」
「今の動き見えたか?」
「いや、全く見えなかった……」
「おい、どうなってんだ!? 第2フィールドを見てみろよ! とんでもない試合をやってるぞ!?」
カケルとアスカの試合を見ていた他の受験生が、にわかに騒ぎ始めた。その騒ぎがさざ波のように広がり、第2フィールドの周りに人が集まってくる。
(こいつ、間違いなく転生者だな。しかし、Lv5スキルを最初から2つとは、システィーナの方針が変わったのか? それとも別の神様が転生に関係しているのか?)
俺の思考をよそに、魔王との戦いもかくやといった激しい攻防が続いている。
カケルは、追い詰められて放った必殺技まで通用しなかったことで、さらに劣勢に立たされた。もうなりふり構わず、必死にアスカの剣を捌いていたのだが。
「これは使いたくなかったが、そうも言ってられないな! ケガだけしないでくれ! 退魔斬!」
カケルが使った必殺技は、剣術Lv5の退魔斬。他の必殺技より速度も威力も桁違いで、さらには聖属性を纏っているので、ゴーストのような精神生命体ですら葬ってしまう。
おそらく、この世界でこの技を使える者は、ほとんどいないであろう幻の必殺技だ。とてもじゃないが、こんな学院の入学試験で使っていい技ではないはずだが。
「退魔斬!」
当然、アスカも使えるわけで。俺との約束で、他の技では迎え撃つことはできないので、即座に同じ技で打ち返すアスカ。確かに、同じ技は使っていいって言ったけど、これは……想定外だった。
上から振り下ろされたカケルの退魔斬と、下から振り上げたアスカの退魔斬が、2人の目の前で衝突する。
その瞬間、白い強い光が会場全体を照らした。そして、その光が収まった時には、根元から砕け散った木刀を持ったカケルとアスカが、向かい合って立っていた。
先ほどとは打って変わって、静まり返る場内。カケルの荒い息だけが静かに響き渡る、その直後に……
「ウオォォォォ!?」
「スゲェェェ!」
「なんだ今の光は!?」
蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。
(アスカ! これ以上はダメだ! あいつと互角に戦っちゃいけない!)
ようやくことの重大さに気づいた俺は、慌ててアスカを止めに入ったのだが。
(大丈夫だよ、お兄ちゃん。たぶんもう終わりだから)
アスカの言う通り、時間が来たのと木刀が砕け散ってしまったのとで、審判が引き分けを宣言したのだった。
「君は、いったい何者だい? 最後の技は退魔斬だよね。あれを使える者は、この世界では僕しかいないはずだって、師匠が言ってたのに……」
(だからその師匠って誰だよ!)
「あは! 体が勝手に動いただけだから、アスカわかんない!」
以前のアスカに勝るとも劣らない、下手くそな言い訳が炸裂する。というか、言い訳にすらなっていないわけだが。
「うっ、しかし、いやでもこれ以上は……」
なるほど、カケルとやらは強く出られると途端に弱気になる、いわゆる尻に敷かれるタイプだな。これなら、これ以上追求されることはなさそうだ。
「それじゃあカケルさん、バイバイ!」
「あ、ああ、バイバイ……?」
案の定アスカに押し切られる形で会話が終わってしまった。
しかし、これは少しやり過ぎたかもしれないな。審査に来ていたのであろう教授達は、あまりの衝撃に審査を忘れて立ち尽くしている。
周りの受験生達も、遠巻きにアスカに注目しているようだ。カケルに対してはそれほど驚いていないようなので、彼の実力は誰もが知ってるのかもしれないな。
そして、会場の興奮が冷めやまぬまま、次々と試合が進んでいく。
すでにルークは危なげなく3連勝し、マルコは2試合を勝ちとし残り1試合としていた。アスカは残りの試合も言いつけを忠実に守り、明らかに受験生の中でも実力が劣る者達相手に引き分けで終わり、3引き分けという結果に終わった。
そして、マルコの最後の試合がコールされる。
「試合番号383番。受験番号112番ルーク、受験番号8番アオイ・サザナミ。第3フィールドに入ってください」
なんと!? まだ転生者がいたのか! 受験番号もさっきのカケルと1番違いだし、この2人は知り合いに間違いないだろう。何でこんなところに2人も転生者が?
マルコもアスカの第1試合を見ていたからか、カケルとアオイの関係に気がついたようだ。対するアオイは、日本人にしては茶色い髪に割と整った顔立ちをしている。多少つり目なところが気の強さを感じさせるが、実際はどうなのかな?
手には……弓を持っており、背中には矢筒、腰には木でできた短剣を差している。
(そうか、武術学院だから弓使いもいるのか。しかし、一対一だと弓使いは不利だろうに。その辺は何か配慮事項でもあるのかな?)
遠距離からの奇襲を主な戦闘方法とする弓使いじゃあ勝つのは大変だと思ったのだが、どうやらこのアオイには関係ないようだ。しっかり2勝していて、今もマルコを目の前にしても落ち着きを払っている。
(どれどれ、鑑定させていただこうか)
名前 アオイ・サザナミ 人族 女
レベル 55
職業 勇者
HP 694
MP 885
攻撃力 798
魔力 861
耐久力 776
敏捷 821
運 609
スキルポイント 894
スキル
弓術 Lv5
風操作 Lv5
身体強化 Lv5
ステータス補正 Lv3
(うおおーい! こっちもカケルに勝るとも劣らずじゃん! 攻撃と耐久は若干低いけど、その分、魔力と敏捷はカケルより上だ)
スキルの付き方を見ても、明らかにカケルと同じタイミングで転生してきて、カケルと同じ師匠の元で訓練していると思われた。
(これは、マルコはご愁傷様だな)
(えー、やってみないとわからないじゃない!)
俺の独り言に反論してくるアスカだが……
(いや、この差は無理だ。おそらく一瞬で決まるだろう)
「それでは試合始め!」
審判がそう宣言したと同時に、マルコが崩れ落ちる。いつの間にかアオイは、弓を打ち終えた格好で止まっていた。
「い、いつ弓を放ったんだ……」
「弓を放つ動きが見えないってありえるのか??」
「アオイ様、かっこいい!」
周りの受験生には、カケルとアスカの動き同様、アオイの動きも認識できなかったようだ。
(もう、あのくらいのスピードなら二本指で受け止めれるでしょ!)
(おいおいアスカちゃん! 確かにその必殺技は教えたけど、よく覚えていたね!? ってか、それはアスカちゃんじゃないと無理でしょ)
周りの受験生は何がおきたかわからなくても、俺達にとっては単に、マルコがアオイに見とれている間に倒されたようにしか見えなかったのだ。
(しかしマルコもだらしがないな。エリーが見てたら泣いちゃうぞ)
(それは、大丈夫だと思うよお兄ちゃん。エリーさんはルークの方に興味があるみたいだから)
(それはそれでかわいそうな気が……頑張れマルコ。俺は応援しているぞ)
アスカと無駄話をしたいる間にも、どんどんと試合は進んでいき、最終的にはルークが3勝、マルコが2勝1敗、アスカが3引き分けという結果に終わった。
結果発表は1週間後となっているので、3引き分けの結果がどう出るのか、楽しみに待っていようと思う。
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