第12話 入学試験
校庭に集められた600人を超える受験生は、胸に付けられた受付順に30人毎に並ばされた。
1列目の1番目と2番目にルークとアスカが、少し離れた4列目にマルコが並んでいる。ルークと離れたマルコは心なしか、不安そうな顔をしているようだ。
そして、受験にあたり簡単な説明がなされた後、列毎に別な部屋へと連れていかれた。案内してくれているのは、この学院の教師だろうか、ガッチリとした体格に隙のない歩き方をしている。
案内された部屋というか教室には、30脚の椅子と机が並んでおり、全員が順番に席に着いたところで、筆記試験の説明が始まった。
案内してくれた男性が試験の説明を終えたところで、筆記試験の問題が配られる。それを見た瞬間、俺はホッと一息ついた。いや、スキルだから息はつけないんだけど……。まあ、なぜかというと魔法学院の時と同じで、問題の大半がスキルについてだったからだ。
これについては、アスカも一生懸命勉強したので、俺が答えを教えることはなかったくらい、完璧に答えを書いていた。むしろ、ルークの方が心配になったくらいだ。
(お兄ちゃんに教えてもらった問題ばっかり出たね!)
(ふふふ、そうだろうそうだろう! お兄ちゃんに任せておけば大丈夫って言っただろう!)
アスカとそんな会話をできて、俺の心も大満足というわけだ。
「くそー! 大体はわかったんだけどなー。最後の短剣Lv5の必殺技だけ自信がないなー」
試験が終わった後、ルークが頭をかきむしりながらそんなことを言っていたので、ここぞとばかりにアスカが突っ込みを入れる。
「短剣レベル5の必殺技は"
「うっ!? そう言えば、パパがそんなことを言っていたような……っていうか、何で話を聞いてないお前が知ってるんだよ!」
「えへへー、ひみつー!」
そんなやりとりの相手が俺じゃないのは悔しいが、アスカがかわいいから許すとしよう。
筆記試験が終わると、今度は訓練場に移動しての模擬戦だ。どうやらこの武術学院には訓練場が2つ、校庭が2つあるらしく、受験生は4つのグループに分けられていた。それでも、100人以上の受験生が見ている中で模擬戦をするのだから、マルコ辺りは緊張で身体が動かないかもしれないな。まあ、それでも合格は間違いないだろうけど。
模擬戦の相手は、抽選で決められるらしいが、ここでアスカに再度確認しておかなければならないことがある。
(アスカ、わかっているとは思うけど、まず戦う前に必ず"鑑定"をして相手の力に合わせて戦うんだぞ! くれぐれも相手の力を上回ったりしないように!)
(わかってるよ、お兄ちゃん! そのための訓練をしてきたんだから、大丈夫。まかせてよ!)
(必殺技も、相手が使ってるのと同じのじゃないと使ったらダメだからな!)
(もう、それもわかってるよ! お兄ちゃんは心配性なんだから)
よし、これだけ念を押しておけば大丈夫だろう。とにかく、アスカはSクラスにこだわる必要がないんだから、引き分けでも負けでもいいと伝えてある。
この武術学院では、訓練場も校庭もそれなりに広さが確保されているので、どうやら、ひとつの会場で同時に4試合ずつ行うようだ。1試合は5分とやや短めだが、受験生の数を考えるとこのくらいの時間が妥当なのかもしれない。あんまり見たことないけど、剣道の試合なんかもこんな感じなのかもしれないね。
訓練場に移動する途中で、訓練用の武器と鎧を貸してもらった。アスカが選んだ武器はもちろん片手剣だ。他にも武器は用意されていたが、いずれも木でできた練習用なので、普通に使えば大けがさせることはないだろう。アスカ以外の話だが。
▽▽▽
「それでは第1試合は…………」
150人が集まる訓練場は、さすがに混雑していたが試合開始のアナウンスが始まると、途端に水を打ったような静けさになり、名前を呼ばれた受験生がそれぞれの試合場所に姿を現わす。
アスカは受験生同士の試合を、ワイワイ、キャッキャいながら楽しんでいるようだった。ルークとマルコはと言うと、受験生が呼ばれる度に祈るような仕草を見せていた。おそらく、対戦相手がアスカにならないようになんだろうけど……
「試合番号14番 受験番号2番、アスカ・ライトベールと受験番号7番、カケル・アマウミは第2フィールドに入って下さい」
ついにアスカの名前が呼ばれたのだが……対戦相手がカケル・アマウミ? これってもしかして!? 転生者なのか!?
何も知らないアスカが第2フィールドに行くと、そこには高校生くらいの黒目、黒髪の青年が立っていた。
(鑑定)
名前 カケル・アマウミ 人族 男
レベル 55
職業 勇者
HP 825
MP 803
攻撃力 831
魔力 805
耐久力 822
敏捷 801
運 827
スキルポイント 894
スキル
剣術 Lv5
氷操作 Lv5
身体強化 Lv5
ステータス補正 Lv3
おいおい!? 鑑定してみてびっくり。どうなってんだこのステータスは!? って、ステータス補正のスキルが付いてるじゃん!
初期ステータスも50はあるねこれ。スキルは……Lv5を2つつけてもらって、もうひとつのLv5はスキルクリスタルだな。ステータス補正は、ちゃんとスキルポイントを貯めてつけてるっぽいから……最初は選択肢になかったのかな。
と、そんな分析をしている内に、アスカとカケルの試合が始まってしまっていた。
「すまない。本来なら、こんなところに来るべきではないと思っているんだが……僕の師匠が『最低でも1年は学院に通って常識を覚えろ』と言っていたので、今回受験させてもらっているんだ。君みたいな、可愛らしいお嬢さんと試合をするなんて思っていなくて……でも、Sクラスに入らないと師匠がうるさいし……君を傷つけたくないから、降参してもらえないだろうか?」
言葉遣いは丁寧なんだが、完全に上から目線の物言いだな。まあ、このステータスなら当然と言えば当然だけど……でも、こんな強いヤツが言うことを聞く師匠って誰だ?
「えー、せっかく戦えると思ったのにー、降参なんて、やだやだ! 試合するー!」
このレベルでこのステータスはちょっと異常だけど、アスカにしてみればちょっと強めの雑魚だから、やることは全然かわらないよね……
突然の予想外の出来事に、俺も少々混乱してしまったようで、アスカにアドバイスをするのを忘れてしまっていた。結果的に、それがアスカを目立たせてしまうことになってしまったのだった。
「それじゃあ、なるべく傷つけないようにしないと……」
審判らしき男性の開始の合図と共に、カケルはそう呟いて一瞬でアスカの背後に回る。身体強化も含め、敏捷2400の動きはこの場にいた受験生はおろか、武術学院の教授達も認識できないほどの速さだった。カケル本人も、当然これで決まると思って木刀を振り上げたのだが……
バシィ!
先に攻撃を仕掛けていたのはアスカだった。振り向きざまに放った一撃は、攻撃しようと振り上げていたカケルの木刀に偶然当たり、結果、カケルがアスカの一撃を受け止める形になる。
「えっ?」
当然、驚いたのはカケルだ。まさか自分の動きについてこれるなど、夢にも思っていなかっただろうし、ましてや先に攻撃を受けるなど、このステータスならば経験したことないのではなかろうか。
その後も連続攻撃を繰り出すアスカ。手加減されているとは知らず、自分と全く同じステータスで繰り出される攻撃を、何とか凌いでいるカケル。
ギリギリで凌いでいるところを見ると、この状況に戸惑っているのか、はたまた同レベルとの戦闘経験が少ないのか。いずれにせよ、このままだとアスカが押し切ってしまうと思われた。
「クッ!? このままでは……やむ終えん、双極斬!」
このままではまずいと思ったのだろう、追い詰められたカケルは、必殺技で状況を打開しようと試みる。
「双極斬!」
しかし、間髪入れず同じ必殺技で反撃を封じるアスカ。この時点で、俺の思考は絶賛分析中で、この勇者相手に対等に渡り合えていることが、見ている人達にとって異常事態だということに気づいていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます