第10話 アスカの誕生日!

 ルークの誕生日から半月後、今度はアスカの誕生日だ。俺はスキルだから、直接プレゼントをあげることはできないから、アスカに喜んでもらうためには、アイディア勝負になるな。


(絶対、1番喜んでもらえるプレゼントにしてやるぞ!)


 俺が考えているプレゼントにするためには、まずは手に入れなければならないものがある。


 そのためには、これから向かうレコビッチ商会で、アスカに一芝居打ってもらおうか。





 ▽▽▽





「いらっしゃいま……あっ!? ソフィアさん! 少々お待ちください!」


 ソフィアを見た店員が、『いらっしゃいませ』もそこそこに、走って店の奥へと走って行った。


「あっ、今日はレコビッチさんを呼ばなくても……って、もう行っちゃいましたね」


 ソフィアが止める間も無く走り去る店員。いつもはうるさいレコビッチさんだが、今日ばかりはいてもらわなくては困るのだ。


 ソフィアとアスカが、アクセサリーコーナーで誕生日プレゼントの髪留めを探していると、ものすごい勢いでレコビッチさんが駆けてきた。そして、ソフィアの横にちょこんと立っているアスカを見つけ、周りの迷惑も顧みず、叫び声をあげた。


「はぁ、はぁ、はぁ、ようこそソフィア様っ!? アスカたん! おじいちゃんだよー!」


「こんにちは、レコビッチのおじいちゃん!」


 毎回恒例のこのくだりは、普段ならスルーするところだが、今回は打ち合わせ通りのセリフを、破壊力抜群の笑顔とともに展開する。


「ぐは! む、胸が苦しい……」


 いつものスルーを予測していたのだろう、予想外の嬉しいセリフにレコビッチさんの心臓が止まりかけている。


「だ、大丈夫ですか? 治癒魔法でもかけましょうか?」


 あまりに苦しそうなレコビッチさんを見て、ソフィアが心配そうに尋ねる。


「はぁ、はぁ、ありがとう。もう大丈夫じゃ。嬉しさのあまり、心臓が止まるかと思ったわい」


 深呼吸をし、胸を撫で下ろしながら答えるレコビッチさん。


「それで、今日はアクセサリーを見ておるようじゃが、プレゼントか何かかのぅ?」


 パッと見ただけでわかるとは、このおじさん、アスカのことになるとアレだけど、仕事に関しては本当にできる男だね。


「はい、実は明日はアスカの誕生日でして、髪留めを……」


「ぬぉぉぉーーー! わしとしたことが、アスカたんの誕生日を知らなかったとは!?」


 ソフィアの言葉を最後まで聞かずに、雄叫びをあげる好々爺。


 ここで、用意していた3つ目のセリフを送り込む。


「おじいちゃん、アスカ、かわいいバッグがほしいな!」


 出ました。上目遣いからのおねだり。これで落ちないおじいちゃんはいない。


「ぐほ!? やられた……おじいちゃん何でも買っちゃうよ!」


 よし、これで予定通りかわいいリュックをプレゼントできそうだ。


(すごい! お兄ちゃんのいうとおりにしたら、バッグをもらえることになっちゃった!)


 レコビッチさんを無事陥落させたアスカは、ソフィアにイチゴのような果物の形の髪留めを買ってもらい、レコビッチさんから薄いピンクの背中に背負うタイプのリュックをもらった。


「えへへ、2人ともありがとう!」


 こうして、俺のプレゼント作戦の前半は成功したのだった。




 ▽▽▽




 プレゼントを無事にゲットしたアスカは、家に帰って来たらすぐに髪留めをつけて、嬉しそうにリュックを背中に背負っている。


(アスカ、お兄ちゃんのプレゼントはこれだけじゃないぞ!)


「えっ!? これだけじゃないの?」


 アスカは驚いて声を上げる。


「アスカ、何か言った?」


 その声を聞いて、キッチンにいたソフィアが不思議そうに尋ねてきた。


「ううん、なんでもない! ひとりごとー」


 危ない危ない、今は上手く誤魔化せたようだが、気をつけさせなくては。


(よし、まずはアスカに時空間操作のスキルをつけるから、そのリュックに空間拡張を付与するのだ!)


(はい、お兄ちゃん!)


 アスカは言われた通りに、リュックに空間拡張を付与する。


(続いて、時間停止を付与するのじゃ!)


 いかん、偉そうにしたらレコビッチさんの喋り方が移ってしまった。


(ふよしました!)


(よろしい! それでは最後に重力操作をつけるから、そのリュックの重さを0にするのだ!)


(はい! できました!)


 こうして、俺のオリジナル……とは言えないけど、かつてのアスカが持っていた、魔法の鞄マジックバッグが完成した。


(さあ、アスカ。そのリュックはどんな大きいものでも、いくらでも入るし、温かいものは温かいままで、冷たいものは冷たいままで保存できるぞ!)


(えー!? それってパパやママがもってるのと、おんなじリュック? あれ、すっごくほしかったんだよね!)


(いやいや、アスカ。あの魔法の鞄はたくさんものが入るだけで、中の時間は止まっていないのだよ。つまりだ、アスカのリュックはパパやママのよりすごいのだ!)


(うわー! お兄ちゃんありがとう!!)


 ふふふ、アスカが喜んでくれている。これだけでも、転生してでも生き延びたかいがあるというものだ。うむ、実際はスキルだから生き延びてはいないのだが……





 夕方帰って来たキリバスとルークは、それぞれスイーツとぬいぐるみをプレゼントしていた。アスカはどちらも喜んで受け取っていたが……


(ふっ、勝ったな!)


 それを見た俺は、妙な優越感に浸ったのだった。

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