第9話 ルークの誕生日!

 ゴブリン洞窟の大冒険から一夜明けた次の日、キリバスとルークはエリーの家に出向いてた。もちろん、ルークのせいでエリーを危険な目に遭わせてしまった謝罪するためだ。


 しかし、突然のSランク冒険者の来訪に、エリーの父親は恐縮しっぱなしである。元はと言えば、自分の会話を娘に聞かれてしまったことが、原因のひとつでもあるので、逆に頭を下げてきた。


 お互いの謝罪合戦がひと段落すると、今度はルークとエリーのこれからの話になる。


 エリーの父親は娘を王都の魔法学院に入学させ、ゆくゆくは冒険者になってほしいと考えているそうだ。そのためにも、ルーク達とパーティーを組んで経験を積むことには、むしろ賛成の立場なのだ。


 キリバスも今回の件は別として、入学前にたくさんの経験を積んでほしいと思っているので、それならばとツインヒル平原での訓練にエリーもどうかと尋ねてみた。


 エリーの父親はこのキリバスのお誘いに、二つ返事でOKを出す。何せ、毎回ではないにせよ、治癒使いの最高峰を行くソフィアが訓練に付き添うこともあるのだ。エリーにとって、これ以上ない環境であることは間違いないからだろう。


 そんな感じで、謝りに行ったはずのキリバスとルークは、ニコニコ顔で帰ってきてソフィアに呆れられるのだった。


 ちなみに、『この結果を1番喜んだのはマルコだった』ということは言うまでもないだろう。





 ▽▽▽





「マルコ、そっちに1匹行ったぞ!」


「あっ、はい!?」


「おい、エリーに見とれてる場合じゃないぞ!」


「ちがっ、違うよルーク!?」


「えっと、どう言うことかな?」


 キリバスがエリーの家に行ってから、訓練は3人で行うことが多くなった。何度か一緒に訓練していると、さっきみたいに、マルコがエリーに見とれてボーッとしてるのを、ルークが突っ込むというのが定番になっていた。そんなマルコの気持ちにエリーは気づいているんだか、いないんだか。女心はわかりません。


 そんな訓練が1ヶ月ほど続いたある日、パーティーとしてのさらに戦い方の幅を広げようと、キリバスはテッドという名のドワーフの血を引く少年を誘ってきた。テッドは、王都で5本の指に入るくらいの鍛冶師に成長したアレックスの息子なのだそうだ。


 テッドは生まれつき土操作のスキルを持っており、かつての父親と同じように魔術学院に通おうか、鍛冶師としての道を歩もうか、迷っているらしい。『それならば、鍛えておいて損はない』と言うキリバスの言葉に共感し、まずは同世代の子ども達とパーティーを組んでみることにしたのだ。


 テッドの加入でパーティーの攻撃の幅はさらに広がり、半年の訓練を経た今ではEランクの魔物が主な訓練の相手になっていた。


 1年も経つ頃にはレベルも7まで上がっており、ルークとマルコは武術学院入学前の訓練としては、いい成果が出ていると思われた。





 ▽▽▽





 ルークとマルコが訓練を開始してから、もうすぐ1年が経とうとしていたある日……


(お兄ちゃん! もうすぐルークのたんじょう日だから、なにかプレゼントしたい!)


 突然アスカがそんなことを言い出した。


(そうか、もうすぐルークも9歳か)


 10歳になれば子ども補正が解除されるので、ルークとマルコは一気に強くなるはず。


 それからさらに訓練を重ね、12歳で王都武術学院の入学試験を受け、首席で合格する予定なのだ。


 おそらく2年もあれば、レベルは30くらいまで上がるだろう。冒険者としてのランクも上げておくつもりのようだし。キリバスは、自分が持っている最年少入学記録を、ルークに更新させる気なのかもしれない。


 それはさておき、今はルークへの誕生日プレゼントを考えねばならない。初めは強力な武器とも思ったけど、そんなもの渡せば、どこで手に入れたのか問い詰められるに決まっている。まだ幼いアスカが隠し通すには、無理があるだろう。


 そこで思いついたのが、スキルを使わずにアクセサリーを作るというものだ。アレックスにでも教えてもらいながら、ミスリルあたりで腕輪を作ってあげるのだ。


 最初、その腕輪には何の仕掛けもしない。ただ、『ピンチの時には魔力を込めて祈ってね』と伝えておく。そんなこと言われたら、すぐに魔力を込めてみるに決まっている。しかし、その時は何にも仕掛けをしていないので、当然何も起こらない。それでもルークは、大好きな妹からのプレゼントだから、大事にしてくれるだろう。


 それを確認してから、こっそりその腕輪に結界Lv4を付与し、それを隠蔽する。そして、本当にルークがピンチになった時に、その身を守れる腕輪にする作戦なのだ。


 これを聞いたアスカは、すっかり乗り気になってくれたようで、明日一番にアレックスの工房を訪れるつもりだと喜んでいた。





 ▽▽▽





 翌朝、キリバスとルークはいつものメンバーとチックの森に訓練に行ったので、アスカはソフィアに頼んでアレックスの工房へと連れてきてもらっていた。最初に渡すのは、何の変哲も無い腕輪だから、ソフィアにバレても全く問題ないのだ。


 ソフィアは、アスカがルークの誕生日プレゼントに腕輪を作りたいと言ったら、それはもう喜んで工房に連れてきてくれた。アスカの成長が嬉しかったに違いない。


 アレックスも、テッドをキリバスに鍛えてもらっているということで、ただで工房を貸したくれた。材料となるミスリル付きで。アレックスのやつ結構儲けてやがるな。


 そこでアスカは鍛治スキルは一切使わず、アレックスに教えてもらいながら、ミスリルの腕輪を作製した。ソフィアと一緒に、俺もハラハラドキドキで見守っていたよ。


 そして完成したミスリルの腕輪は、とても6歳児がスキルなしで作ったとは思えないくらい、素晴らしい出来栄えだった。それこそ、アレックスが弟子にしたいと言い出すくらいに。


 それから数日後、ルークの誕生日パーティーが行われ、アスカはルークにミスリルの腕輪をプレゼントした。ルークは妹からのプレゼントに、とっても嬉しそうだった。俺はちょっと悔しかったけどね。


 さらにそれから数日後、俺はアスカにスキルをつけて、アスカはルークの腕輪に結界Lv4と隠蔽Lv5を無事に付与することができた。その時のアスカの、にやけた顔といったら……可愛すぎてたまらん。


 そして、あと半月後にはアスカの誕生日が控えているのであった。

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