第7話 洞窟探検!
ルークとマルコが実戦訓練を始めてから半年、2人のレベルは4になっている。
そんなある日、いつものようにライトベール家に来ていたマルコとルークが、何やら相談をしていた。
「なあ、マルコ。俺達も大人達みたいにパーティーを組んで、冒険してみないか?」
実戦訓練にも慣れてきて、Fランクの魔物なら複数でも対処できるようになって、自信がついたからだろうか、ルークがそんなことを言い出した。
「うーん、確かそれはすごく楽しそうですが、都合よくFランクの魔物だけが出るところなんてありますかね?」
この2人、Fランクの魔物なら余裕で倒せるのだが、まだEランクの魔物とは戦ったことがない。魔物はランクが1つ上がるだけで、その強さは段違いになるからだ。レベルが上がっても、補正がなくなるまではステータスが上がらないので、彼らはまだEランクの魔物とは戦わないように、キリバスにきつく釘を刺されているのだ。
「それはあれだよ。パーティーさえ組めば、Eランクの魔物だって倒せるはずさ! 実際、俺たち2人だけでゴブリン5〜6匹だって余裕だろう」
「それはそうですが……ランクが1つ上がるだけで、魔物の強さは大きく変わると言いますし、キリバスさんにも止められてますし……」
ルークの強引な誘いにも、慎重派のマルコは渋っていたのだが……
「大丈夫だって、俺だって無理にEランクの魔物と戦うつもりはないさ。ただ万が一の時でも、俺たちなら対処できるって意味だよ。それと、パーティーを組むならエリーも誘おうぜ! あの子は、治癒のスキルを持ってるから安心だろう?」
ルークがエリーの名前を出した途端、マルコの顔色が変わった。なぜなら、おませなマルコは1つ年上のご近所さんのエリーに、密かに恋心を抱いていたからだ。まあ、ルークにバレてる時点で密かにではないのだが。
ちなみにそのエリーは、父親がBランクの冒険者で、ゆくゆくは王都魔法学院への入学を希望しているのだ。もちろん憧れの冒険者はソフィアで、その息子であるルークにも少なからず好意を抱いている。
「エリーさんですか……まあ、あの方がいてくれれば安心というか、何というか……」
「よし 、決まりだな! まずは3人で始めて、他にも一緒にやりたいってやつがいれば、パーティーにいれてやろうぜ!」
ルークの半ば強引な決定に引きずられるように、エリーを誘いに行こうとする2人の前に、小さな影が立ちはだかった。
「アスカもいっしょにいく!」
そう、2人の話を盗み聞きしていたアスカだ。
「げげ! アスカ!? もしかして今の話を聞いてたのか!?」
両手で頭を抱え、明らかに失敗したという顔をするルーク。
「ちゃーんときいてましたよ。アスカもパーティーにいれてくれないなら、ママにいうからね」
声にならないうめき声をあげて、ルークが言い訳を考える。一方、マルコの方はすでに諦めているようだ。
少しの間、言い訳を考えてみるものの、アスカを黙らせるような言い訳など思いつくわけもなく……
「あー、わかったよ。アスカもパーティーに入れてやるよ! だけど、絶対魔物に近寄るなよ! 少し離れたところから見てるだけだからな!」
まだ、子どもたちだけで魔物と戦ったことがない彼らは、実戦に潜む罠など知る由もなく、危険な冒険へと旅立ってしまうのだった。
▽▽▽
王都から少し離れた洞窟に、4人の小さな子どもたちの姿があった。この洞窟は、本来無人の洞窟だったのだが、実はつい最近、ゴブリンたちの住みかとなっているらしいのだ。
なぜ、そんなことがわかったのかというと、Bランク冒険者であるエリーの父親が話しているのを、偶然エリーが聞いてしまい、それをルークとマルコに伝えたからだ。
ルークとマルコは、まだギルドから討伐依頼が出ていない最新情報に興奮して、準備もそこそこに、衛兵の目を盗んで王都の外に出てきてしまったのだった。
「ここか」
最初は勢いがよかったルークも、いざ自分達だけで魔物の前に立つとなると、万が一のことを考えてしまったのか、声が震えている。
「今ならまだ止めれるよ?」
「な、何言ってんだよ! ここまで、きてそんな格好悪いことできるか!」
心配したエリーがそんな声をかけるが、どうもそれは逆効果になってしまったようだ。
ルークは不安な気持ちを押し隠すように、両手で自分のほっぺたを叩いて気合いを入れる。
そんなルークを先頭に、4人の子どもたちは、恐る恐る洞窟へと足を踏み入れた。
「なーんか、ジメジメしてくらいし、へんなにおいがするー」
ひとりこの緊張感と無縁のアスカが、突然能天気な声を上げる。
「おい、アスカ! 静かにしろ! いつ、ゴブリンが襲ってくるかわからないんだぞ!?」
慌ててルークがアスカに注意をするが……
「えー、このへんにはまだいないよ。たぶん200mくらいさきに10ぴきくらいいるとおもう」
「なんでそんなことが分かるんだよ!?」
「えーと、なんとなく?」
「アスカ、遊びじゃないんだからいい加減なことを言うなよ!」
アスカの返答を、いい加減に答えたものだと思ったのだろう、ルークは全く信用していないようだったが、実はこの洞窟に入る前に、俺はアスカに探知Lv5をつけておいた。そのおかげで、アスカはこの洞窟どころか半径100km圏内の魔物が全て分かってる。
(ルークよ、アスカの言うことは聞いておいた方がいいぞ)
ただ、スキルについては誰にも話さないように、アスカに念を押してるので、アスカはそれ以上何も言わずに、鼻歌を歌いながらついていく。
その鼻歌を聞いた俺は愕然とした……
(ア、アスカ! やはりお前は2回転生しても音痴なのか!?)
それから慎重に進むこと5分、前方からゴブリンたちの話し声が聞こえてきた。
「アスカちゃんの言った通りだったわね……」
ドンピシャ200mの地点にゴブリンがいたので、エリーが思わず声を上げる。
ルークはそれを面白くなさそうに聞きながら、ミスリルの剣を構えた。
それを見たマルコも槍を構え、エリーも杖を握りしめる。
「ルーク、いそいだほうがいいよ。ちょっとつよめのごぶりんが、おうちにかえってきたみたい」
入り口から入ってきたゴブリンを探知したアスカが、ルークにそのことを伝えるが……
「だから、なんで分かるんだよ! また何となくなんて言うなよ!」
「ふーんだ。しんじてくれなくてもいいもんねー」
またも信じようとしないルークに、あっかんべーをするアスカ。
(か、かわいい!)
「ですがルーク、先ほどのこともありますし、これが本当ならちょっとまずいですよ」
ルークたちは今、ルークを先頭にマルコ、エリー、アスカの順に並んでいる。前衛2人が後ろの2人を守るための陣形だ。しかし、この陣形で挟み撃ちされてしまうと、後衛が危険にさらされてしまうのは目に見えている。
「あー、うるさい! わかったよ! 入り口から来てるならそっちを先にやっつけるぞ! 来てるならな!」
ルークは、そう叫んで踵を返そうとしたのだが……
「ルーク!」
エリーの声に振り向くルーク。そこには、ルークの声に気がついたゴブリンたちが、こちらへ向かってくる姿が見えた。その数、アスカが言った通りの10匹。
「くそ! まずこいつらから倒すぞ!」
ここまでアスカの言った通りになっていれば、さすがのルークも信じざるを得ない。今までにない厳しい顔で、マルコとともにゴブリンの集団に突っ込んでいった。
「くっ!? きついです!」
戦闘が始まってすぐに、マルコが弱音を吐く。
それもそのはず、今までの実戦訓練で、一度に相手をしたゴブリンの最高数は6匹だ。しかもそれは、キリバスやソフィア、ジェーンが後ろに控えていて、何も考えずに倒せばいいだけの状況だった。
しかし今彼らは、後ろにいる2人を守らなければならず、ゴブリンを後ろに抜かせることすら許されない。
さらに後ろからは、『ちょっと強めのゴブリン』が迫っていることで、早く倒さなければならないという、時間の制約までついている。
これらの条件が焦りを生み、2人は普段の実力を発揮できないでいた。それでも、ゴブリン10匹相手に、1匹も後ろに抜かせることなく善戦しているのだから、訓練の成果は出ていたのだが……
「ギギィ!?」
ゴブリンを3匹倒したところで、後ろから別のゴブリンの声が聞こえてきた。
「ルーク! ゴブリンナイトよ! ゴブリンも3匹いるわ!」
後ろにいたエリーの悲痛な叫び声が、洞窟に響き渡る。たった3匹しか倒していないのに、もうタイムリミットが来てしまったのだ。
「マルコ! ここをお前に任せてもいいか!」
ルークは、自分がゴブリンナイトを相手にするために、ゴブリン7匹をマルコに任せる作戦を立てたのだが……
「無理です! 10秒も持ちません!」
即座にマルコに否定される。というか、ルークもゴブリン4匹を相手にしているのだから、後ろを向いた瞬間切り捨てられてしまうだろう。
「くそ! すまない。こんなことになるなんて……」
ルーク、マルコ、エリーの顔に諦めの顔が浮かんだその時……
「ふーんだ。だから、アスカのいうことをきけばよかったのにー」
再び、アスカの能天気な声が洞窟に響き渡った。
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