第6話 ルーク&マルコ 初実戦訓練!
カラン、コロン
ギルドのドアが小気味良い音を立てて開き、6人の集団はキリバスを先頭に中へと入って行く。
「おっ!? キリバスさんだ!」
「ねえねえ、キリバスさんよ! カッコイイ!」
キリバスがギルドに入るだけで、周りがざわざわと騒ぎ出す。それに加えて、ソフィアとジェーンが中に入ると……
「うお!? ソフィア様もいるぞ!」
「相変わらずお美しい!」
「それに、ジェーンさんまで!」
「クランホープのメンバーが3人も揃ってるなんて、何があったんだ!?」
よくギルドに顔を出すキリバスやジェーンはともかく、滅多に顔を出さないソフィアまでいるもんだから、途端に大騒ぎになる。それだけ、クランホープは冒険者達の憧れの的なのだろう。
しかし、周りの疑問も後からついてきた子ども達を見て氷解する。
「なるほど、子どもを訓練のために冒険者登録をさせるのか」
「しかし、ずいぶん幼いな。男の子達でも10歳に満たないんじゃないのか?」
「それはクランホープのメンバーだからな。その子どもだって、俺らとはできが違うってことよ」
そんな周りの会話を他所に、ルークとマルコの冒険者登録を進めるキリバス。受付のお姉さんも、キリバスを相手にすると、少々顔が赤くなってしまうようだ。
「おー! これが冒険者カードか! カッケー!」
「うんうん。これを持つだけで、自分が強くなった気がします!」
ルークとマルコは、出来上がったばかりの冒険者カードを隅々まで眺めている。
「そいつがあるとパーティーを組むのが簡単になるからな。とりあえず、両方のカードをルークの魔力で同調させてみなさい」
言われた通りに、ルークが自分のカードとマルコのカードに魔力を込めると、2枚のカードが同じ色で光り出した。
「それでパーティーの成立だ。同じ魔力で6枚まで同調できるからな。パーティーの基本人数が6人なのは、この制限があるからなんだ」
パーティーを組めば、共同で魔物を倒した時に、どちらも経験値をもらうことができる。そのために、キリバスはルークとマルコに冒険者登録をさせたのだ。
「わたしもほしい……」
2人の冒険者登録が終わったので、出口に向かおうとしたキリバスに、アスカがボソッと呟いた。
その20分後、1枚のカードを、嬉しそうに見せびらかしている、アスカの姿があった。キリバスは本当にアスカに甘いんだから。
っえ? 人のことを言えないって? いいんです。俺はお兄ちゃんだから!
▽▽▽
「わあ、ひろいー!」
お昼近くになって、ようやく到着したツインヒル平原を見て、アスカが大はしゃぎで駆けて行く。
「待てー、アスカー! ひとりで遠くに行くと危ないぞ!」
その後ろを、アスカを心配したルークとマルコがついて行くのだが……
(ふっ、アスカは ひとりじゃないから大丈夫なのさ)
ルークのセリフにひとりツッコミを入れる俺。
「おーい、まずはお昼ご飯にするから帰っておいでー!」
平原を駆け回っていた3人は、キリバスが呼ぶ声を聞いて、矢のように飛んで帰ってきた。
ジェーンとソフィアが敷物を広げ、そこにお弁当を置く。もちろん作ったのはジェーンではなく、ソフィアだ。
「悪いね! うちらの分まで作ってもらっちゃって」
ジェーンは、はなから作る気がなかったような気もするが、特に悪びれる様子もなくサンドイッチを手にとって頬張る。
「お母さんだけ先にずるいです!」
それを見たマルコが、魔物の肉の唐揚げを口に放り込む。そこからはもう、子どもたちが戦争のごとくお弁当を取り合う姿がしばらく続いた。
そして30分後……
「よしお前達、腹ごしらえは済んだな。それでは、これから2人で、Fランクの魔物を倒してもらう。と言っても、パパ達は探知を持っていないから、一緒について行ってEランク以上の魔物だったら、パパ達が退治するからな!」
「うわー、緊張するなー!」
「僕もドキドキしています!」
ルークとマルコは、初めて魔物と戦うということでかなり緊張しているようだ。ただ、アスカがこの世界に来て最初にブラックウルフと戦ったときに比べ、Sランクのキリバスにソフィア、Aランクのジェーンがいるんだから、安心して戦うことができるだろう。
「ここにいるFランクと言えば、スライムにゴブリン、ワームやオオムカデといったところだな。もちろん、敵の種類や強さを見極めるのも、戦闘では大事なことだから戦いながらしっかり覚えるんだぞ!」
キリバスがレクチャーしている間に、早速1匹のオオムカデが近づいてきた。こちらの実力がわかっていない辺り、Fランクの魔物といったところだ。
「よし、やってやるぜ!」
「行きますよルーク!」
それを見たルークとマルコが、気合いを入れながら同時に飛び出す。オオムカデも頭をもたげて臨戦態勢に入った。オオムカデの体長は3m程なので、頭をもたげた高さはルークとマルコを大きく超えるのだが……
「せい!」
まずは獲物のリーチが長いマルコが、オオムカデの頭に向かって素早い突きを繰り出す。オオムカデは身体を反らすことで、その槍を躱したのだが、その隙を突いてルークが胴体を斬りにかかる。
槍を躱したせいで大きな動きがとれなかったオオムカデは、その剣を長い足で防ごうとするが、新調したばかりのミスリルソードがその切れ味を十分に発揮し、足を2本まとめて斬り捨てた。
ギシャァァァァァ
不気味な鳴き声とともに、身体を振り回して暴れるオオムカデ。しかし、2人はすでにバックステップで距離を取っており、余裕をもってその攻撃を躱す。さすが、キリバスに先読みの力を鍛えられただけある動きだ。
一通り暴れたオオムカデはルークに狙いを定め、一気に上から襲いかかったのだが……
「あまい!」
ルークはその攻撃をサイドステップで躱し様に、触角の1本を斬り捨てる。さらには地面に頭を突っ込む形になったオオムカデの側頭部に、狙い澄ましたマルコの槍が突き刺さった。
ギュゥゥゥ
力ない一鳴きとともに、オオムカデの身体が崩れ落ちる。
「よし! 楽勝だぜ!」
「ふう、思ったより簡単でしたね」
2人の連携で見事にオオムカデを倒したルークとマルコだが、楽勝に見えてもさすがに初めてで緊張していたのだろう、肩で息をしているし、いつもより余計に汗をかいている。
「よくやった2人とも。ちょっと余計な力が入っていたが、練習の成果が十分に出ていたぞ。この調子で、どんどんFランクの魔物を倒していこう!」
その後、ルークとマルコはスライムやワーム、オオムカデを数匹倒し、慣れてきたところでゴブリンの集団を相手に戦った。5匹の集団だったが、上手に連携して危なげなく倒したところを見ると、この2人はすでにFランクを超える力を身につけているようだ。
一方、アスカはというと、最初に出てきたオオムカデが気持ち悪いという理由で、終始ソフィアの陰に隠れてルークとマルコの戦闘を見守っていた。
まあ、それだけじゃ暇だろうから俺が戦闘の解説を面白おかしくしてやったから、それなりに楽しめてはいたようだったが……ソフィアの陰に隠れるアスカのなんと可愛いことか。
ルークとマルコはこの日、レベルが一つ上がったが、ステータスは子ども補正のため上がらなかった。2人を鑑定してみると、アスカのように括弧書きで数字が表示されていたから、10歳になれば補正が解除され一気にステータスが上がる仕組みなのだろう。
その後、ルークとマルコは実戦訓練を週に2度ほど繰り返し、1ヶ月ほどでレベル3に、さらに半年後にレベル4へと上がっていった。少し時間がかかりすぎのような気もするが、彼らはレベルが上がってもステータスは上がらないので、倒す魔物はいつもFランク。中々レベルが上がらないのも仕方がないのだ。
そしてこの半年間、アスカには魔物と戦わないようにさせた。キリバスやソフィアもアスカには戦わせようとしなかったし、俺も子ども補正のアスカに戦わせるのは心配だったから。
もちろん、身体強化や操作系のスキルをつければ、余裕で倒せるようになるのだが、こんなところで目立っても仕方ないし誰に鑑定されるかわからない状況で、無駄にスキルをつけるのは危険だと思ったからだ。
その分アスカには、手加減の練習をさせた。最初は呪いを自分にかけてステータスを調整させようとも思ったけど、力加減ができるにこしたことはないので、ステータスの値を1刻みの力で加減する練習を繰り返しやらせたのだ。今では俺が10といえば10の力で、5と言えば5の力で剣を振るうことができるようになった。
1人で剣を振る姿を見て、キリバスはアスカも剣士を目指していると思い嬉しそうにしていた。逆にソフィアは、スキルを持っていないアスカが剣を振る姿を見て、なんとも言えない心配そうな表情をしていた。
(大丈夫、ソフィア。10歳になれば全ての心配が吹き飛んでしまうから……)
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