第5話 お買い物

 翌朝、ライトベール家全員とマルコそしてジェーンのの6名は、レコビッチ商会の武器防具専門店に来ていた。


「いらっしゃいませー……あっ!? ジェーンさん!? そ、それにキリバス様とソフィア様まで!? しょ、少々お待ちください! 丁度、会長がいらっしゃってますので!」


 さすがはSランク冒険者、買い物に来ただけでも特別扱いである。それにしても、レコビッチさんが偶然ここのお店にいたようだ。アスカのことを、孫のように可愛がってくれていたから、アスカが居なくなって落ち込んでいたのではなかろうか?


 最初に応対してくれた店員が、慌てて店の奥に走って行ってすぐに、バタバタとこちらに向かって走ってくる足音がした。


「ハァ、ハァ。これはこれは、よくぞお越しくださいました。ハァ、ハァ。本日はどのようなご用件で……ウォォォーー! 儂の孫が、儂の孫が帰ってきたーーー!!」


 レコビッチさんは途中まで、商人としてのあいさつをしていたのだが、その視界にアスカを捉えた瞬間、突然訳のわからないことを叫び出した。


「ママ、この人はアスカのおじいちゃんなの?」


 孫という言葉に反応して、アスカがそんなことを言ったもんだから、レコビッチさんの興奮はさらに増していき、顔を真っ赤にして叫び続けている。


「アスカじゃ、儂の孫のアスカが小さくなって帰ってきおったーーー!!」


「いえ、違います」

「アスカのおじいちゃんではないわね」


 キリバスとソフィアの間髪入れないツッコミに、微妙な空気が流れる……


「ハッ!? す、すまん。その女の子を見た途端、なぜかアスカのことを思い出してしまったのじゃ。名前まで同じとわかって、理性が飛んでしもうた。……それで、子ども達を連れているところを見ると、今日は彼らの装備を買いに来てくださったのかな?」


 ひと通り大騒ぎをしたものの、さすがは大商会の会長まで上り詰めた男、一目見ただけでキリバス達の目的を見抜いたようだ。


「えー!? すごいなおじさん。何で俺らの目的がわかったんだ!?」


 ルークは、レコビッチさんが自分達の装備を買いに来たことを当てたことに、素直に驚いていたようだ。隣でマルコもうんうんと頷いている。こういう姿を見ると、子どもって純粋でいいよねって思う。


「ハッハッハ! こんなに大勢で来てくれたら、見ただけでわかるもんじゃ。それにな、クランホープのメンバーの装備は、あのアスカが用意したと言われておるんじゃ。儂の孫が作った装備以上の物は、残念ながらこの店には置いてないんじゃよ。まあ、この店どころか、世界中を探してもそんな物、見つからないじゃろうがな」


「へー、アスカって少し前にいなくなっちゃったSランク冒険者のことだよね? 冒険者なのに装備を作れちゃうのか? どんだけすごいんだよ、そのアスカって!?」


ルークはアスカのことを冒険者としか聞いていなかったのだろう、素直に驚いている。


 さて、レコビッチさんの儂の孫発言は置いておいて、実際に今キリバスやソフィア、ジェーンが装備しているものは、アスカが作り付与をつけたものがほとんどだ。付与が3つも4つも付いているものなど、自然界では滅多に出てこないし、ましてやその付与が有用なものばかりなので、手に入れようとしても夢のまた夢なのである。


「でも、そのアスカって人は、お母さん達はその人の仲間だったんですよね? 本当に、そんなに凄かったんですか?」


「ああ……」

「ええ……」

「そりゃあもう……」


 マルコの素朴な疑問に、ジェーン、ソフィア、キリバスは即答しつつも、全員明後日の方を見ながら、遠い目をしている。


 その様子に、それ以上突っ込めなくなる子ども達。


「ねえねえ、おじさん。ピンク色のけんはないの?」


 その微妙な雰囲気を物ともせずに、マイペースに突き進むちびアスカ。


「おおう、空気を読まないところもアスカそっくりじゃのう」


 アスカのマイペースぶりに苦笑しつつも、残念ながらピンクの剣は置いてないと答えるレコビッチさん。何でも、ピンク色の魔物自体が少ないため、素材の関係でほとんど出回っていないそうだ。


「えー、じゃあ、あの水色のきれいなけんがいい!」


 切り替えの早いアスカが指差した先には、確かに綺麗な水色に輝く剣が飾られているのだが……


「あ、アスカちゃん。ずいぶんお高いのを選ぶのね……」


 その剣を見たキリバスの顔が引きつっている。


 それもそのはず、その剣はこの店の看板商品で、ブルードラゴンの牙から作られた一品である。さらに、有名な付与師が鋭利を付与したところ、素材のおかげで最初から水属性も付いていて、付与が2つも付いてる希少な剣が出来上がったというわけだ。


「アスカ、あなたには長いし重すぎるわ。まずはこっちの短剣からにしたらどう?」


 ソフィアもちらっと値札を見たのだろう、最もな理由をつけて、アスカを短剣の方へと誘導していく。


 しかし……


「やだ。アスカはこっちの方がいいの!」


 またもや発動する、わがままスキル。こうなると、テコでも動かない。


 結局、ルークにはミスリル製の片手剣(鋭利の付与付き)を、アスカには水色のアクアソード(鋭利と水属性の付与付き)を買うはめになったライトベール家。お値段の総額は、2億5000万ルークとなりました。


 マルコは付与付きではないものの、アダマンタイトの刃がついた槍を、5000万ルークで買ってもらっていた。


 何だかんだいっても、ジェーンもAランク冒険者だから、かなりのお金持ちなんだね。


 新しい武器を買ってもらった3人は、当然のごとく大喜びで早く試したくて仕方がないといった様子なのだが……


(お兄ちゃん、このけんおもい……)


 アスカが俺に愚痴をこぼしてきた。


(だからママが短剣にしなさいって言ってたのに)


(だってこっちの方がかわいいんだもん! お兄ちゃんなんとかして!)


 言ってることはダメダメなんだが、6歳児だから仕方がないと自分に言い聞かせて、何とか助けてあげよう。決して、プンスカ怒っているアスカが可愛いからではないよ?


(じゃあ、一時的に付与Lv5を付けておくから、自分で軽身をつけておきなさい。付け方はわかるね?)


(はーい! ありがとうお兄ちゃん! だいすき!)


 くっ! この言葉を聞けるとは! もう死んでもいい! ……スキルなんで生きていないけど。


 アスカはこっそり軽身を付与し、軽くなった剣に満足したようだった。


 それから、子ども達3人は防具も買ってもらった。3人とも、軽さを重視したレザーメイルを選んでいた。いや、若干1名は色で決めている子もいたが……


 そして、装備が整ったところで、6人はようやくツインヒル平原……ではなく、冒険者ギルドへと向かうのだった。

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