第4話 特訓開始!
ルークが特訓を開始したのと同時期に、ジェーンの息子であるマルコも槍術の特訓を始めたようだ。初期ステータスはルークに及ばないものの、マルコもまた普通の子どもより遙かに高い値だったのだ。
特訓は主に、ライトベール家の庭で行うことが多かった。意外にも体力作りや筋力作りのトレーニングがメインで、一通り基礎トレーニングを終えてから、技のトレーニングに入る。
「エィ!」
ルークのまだ可愛いかけ声とともに繰り出される斬撃は、その可愛さとは裏腹にかなり鋭い。マルコの突きも、並の大人なら受けきれない勢いがある。しかし、相手をするのはSランク冒険者のキリバスだ。2人同時に相手をし、それでもまだまだ余裕がある。
「相手の動きを読むんだ。自分から仕掛けるなら、3手先は読まないと苦しくなるぞ!」
受けが得意なキリバスは、戦闘において相手の動きを読むことを重視するようだ。それは、スキルやステータスとは関係なく、経験や技術なので今からでも覚えることが可能なのだろう。
この技術を身につけ、年齢やレベルとともにステータスやスキルが上がったならば、それこそSランク冒険者になることも夢ではない。いや、訂正しよう。人の身でSランク冒険者になろうとするならば、スキルクリスタルによる恩恵か、装備による恩恵が必要かもしれないな。
「ヤァ!」
今度はマルコが掛け声とともに、キリバスの足元めがけて突きを繰り出す。小さい身長を活かした、いやらしい攻撃だ。しかし、キリバスの木刀がその槍を打ちつけ、マルコは槍を落としてしまった。
「とー!」
そこへ、タッタッタと足音を響かせながら、アスカが小さな木刀を持って駆けていく。
ポコン
アスカが振った木刀が、キリバスの足に当たり……
「うわー、やられたー!」
キリバスがその場に倒れ込む。
「わーい! パパをやっつけたー!」
アスカが嬉しそうに飛び跳ねている横では、ルークとマルコが面白くなさそうな顔をしている。
「アスカ、ぼくたちの訓練のじゃまをしないでよ。それからお父さん。ぼくらの攻撃はぜーんぶかわすくせに、アスカの攻撃だけ毎回当たるのはやめてよ!」
「そうだよ、キリバスおじさん。たまにはぼくらにも勝たせてくださいよ!」
ルークもマルコもほっぺたを膨らませながら、娘にだけ甘いキリバスを非難する。
「いや、お前らの攻撃が当たると、ちょっと痛そうなんだもん。2人ともスキルを持ってるから、油断したら必殺技が飛んできそうだし……」
なんとも大人気ない言い訳をするキリバスだったが、確かに2人とも7歳とは思えない強さだ。
「あすかもいっしょにたたかうー!」
ルークの抗議も、残念ながら5歳児のアスカには通用しなかったようだ。この年頃の子どもは、とにかくみんなの真似をしたがるから無理もない。何せアスカのおままごとには、必ずけが人が登場し、それを治すくだりがあるくらいだから。
「そうか、アスカもパパとお兄ちゃんと同じ剣士を目指すのかな?」
ソフィアがいないのをいいことに、アスカまで剣士にしようとするキリバス。
「うん、けんしになるー」
よくわからずに答えるアスカ。なんて可愛いんだ!
「あなた……」
直後に聞こえる、殺気を含んだ氷のように冷たい声。キリバスが『ギギギー』っと音を立てて振り返ると、オリハルコンの包丁を持って、笑顔で仁王立ちするソフィアがいた。
「ご、ごめんなさい……。あ、アスカ魔法使いもいいぞー……」
「うん、まほうつかいにもなるー!」
キリバス、どんまい!
「さあ、お昼ご飯ができましたよ。マルコも一緒に食べていきなさい」
本来は、それを伝えにきたのだろう。ソフィアのお誘いに、マルコもルークもアスカも、凄い勢いで家の中へ飛び込んでいく。
「おい、こら! 武器を放り投げていくな!」
キリバスは、子ども達が放り投げた武器を拾いながら、苦笑いしている。
「うわ! ジャイアントボアのやわらか煮だ! ぼくの大好物です!」
ソフィアが作った料理を見て、大喜びのマルコ。ここだけの話、ジェーンはあまり料理が得意ではないらしい。マルコがライトベール家に来る目的は、修行半分、料理半分なのだろう。もちろん、柔らか煮はルークもアスカも大好物だ。
(そういえば、この世界でアスカが初めて食べた料理も、ジャイアントボアの柔らか煮だったな)
妙なところで、感慨深くなってしまう俺だった。
午後からはキリバスがギルドに行く用事があったため、ルークとマルコの2人で訓練していた。時々、アスカも参戦して2人を困らせていたが、なんだかんだ言って2人ともアスカに優しいんだよね。アスカは2人を木刀で叩いては大喜びしていた。
こんな感じで、ルークとマルコの修行の日々は続き、1年が経つ頃には2人も大人顔負けの技術を身につけるまでに成長していた。
▽▽▽
そしてルークは8歳になり、かなりのイケメンに、アスカは6歳でもう美人になること間違いなしと思われるまでに成長した。ちなみにマルコは、どちらかというと普通の顔立ちだ。そんなマルコに親近感が湧いたのは内緒の話だ。
「よし、明日はツインヒル平原にピクニックに行こう!」
いつもの訓練を終えたある日、キリバスが突然そんなことを言い出した。
「おー!? ピクニック行きたいー!」
「行きたいですー!」
突然のキリバスの宣言に、疲れてぐったりしていたはずのルークとマルコが、飛び起きて喜んでいる。
「お前ら疲れた振りしてたな……」
しかしキリバスの呟きは、大喜びする2人の歓声にかき消されてしまった。
「ママー、アスカもピクニックにいっていい?」
アスカはピクニックが何か分かっているか怪しいが、どこかに出かける雰囲気は察したのだろう、ライトベール家の全ての決定権を持つソフィアに許可をもらいにいく。
「もちろんみんなで一緒に来ましょう。それにしても、キリバスったら突然決めるんだから。お弁当を準備する私の身にもなってほしいわ」
それを聞いたソフィアは、ため息をつきつつも、子ども達の嬉しそうな様子を見て、思わず微笑んでしまうのだった。
「ピクニックと言っても、ただ遊びに行くだけじゃないぞ。お前達2人にはF級の魔物を倒してもらう!」
「「ええ!?」」
またもやキリバスの突然の宣言に、声をハモらせて驚くルークとマルコ。しかし、その驚きは次第に喜びに変わっていく。
「マルコ! ついに実戦訓練だぞ!」
「うん! ようやくレベルが上がるんだね!」
そう、彼らはいい加減、模擬訓練には飽きており、早く実戦を経験したいと思っていたところだったのだ。それに、武術学院の入学試験までに、1つでも多くレベルを上げて、1つでも多くスキルを覚えておきたいというのも、実戦訓練を希望していた理由なのである。
「アスカもまものたおすの?」
「いやいや、アスカちゃんにはまだ早いかなー。アスカはママと一緒に遊んでいてね!」
実はアスカもルーク達の訓練にいつも参加していたため、剣の腕がそれなりに上がっているのだが、さすがに6歳の女の子に魔物を倒させる気はないようで、慌ててキリバスが否定するのだが……
「やだ、アスカもルークといっしょにまものたおす……」
こうなってしまったアスカは意地でも動かない。この意志の強いところは誰に似たんだか……いや、転生したんだから元々の自分なのか?
そしてお気づきだろうか、アスカはルークのことをお兄ちゃんと呼ばず、"ルーク"と呼ぶようになっていることに。
俺はこの1年で、アスカとコンタクトを取ることに成功していたのだ。どういう作戦をとったのかというと、2〜3回アスカがピンチの時に声をかけて助けてあげたら、俺のことを神様だと思ってくれたようで、俺の言うことを聞くようになってくれたのだ。
ちなみに最初の頃は、神様、神様と呼ばれていたのだが、数ヶ月の説得の末、お兄ちゃんと呼ばせることに成功した。そのせいで、ルークのことを呼び捨てで呼ぶようになってしまったのだが……。悪いなルーク。ここだけは譲れないのだよ。
それはともかく、アスカのわがままに、キリバスとソフィアは顔を見合わせて苦笑いをしている。こうなったアスカは、ダメと言っても聞かないので、まずはルークとマルコが魔物を倒すところを見るところから始めるということで、何とか説得したのだった。
「それじゃあ、明日はジェーンも誘ってツインヒル平原に行くが、その前にお前達に新しい剣と槍を買ってやらなければならないな。出発前に、レコビッチさんの店に寄っていこうか」
キリバスがそんなことを言えば、もちろん子ども達は……
「うぉぉぉぉー! 新しい剣だーーー!」
「ほしかった槍があるんですーーー!」
「かわいいピンクのけんがほしいーーー!」
若干一名、武器に求めるものの方向性を間違えている子どももいるが、当然、3人とも大興奮するのであった。
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