第2話 ミーシャ来訪!
「やっほー、ソフィアはいるかな? 女の子が生まれたって聞いたから、見に来たよ!」
まず、我が家を訪れてくれたのは、近くに住む子育て仲間のジェーンだった。息子のマルコも連れてきている。マルコは生まれつき《槍術》スキルを持っていて、ルークの友達でもあり、ライバルでもあるようだ。
「あそぼ!」
ルークがマルコを誘って、庭へと駆け出していく。彼らは2歳だが、別にステータスに補正などかかっていなかった。補正とは、元々のステータスが何らかの理由で高い場合にかかるものであって、年相応に成長している彼らには、補正など必要ないのだろう。ただし、2人は剣術スキルと槍術スキル持ちなので、冒険者ごっこが割と様になっていたりする。
アスカはというと、ジェーンに抱かれているのだが泣くでもなく笑うでもなく、ふてぶてしい態度で抱かせてやっているといった感じだ。これは、ソフィアが抱こうがキリバスが抱こうが似たような反応なので、今回のアスカは何事にも動じない性格だということなのだろう。
……よくよく思い返せば、日本にいた頃も同じような光景を見た気がする。アスカは、成長した後でこそ、可憐で可愛い女の子に成長していったが、赤ん坊の時はふてぶてしかったのだ。
こんな調子で、3日に1回くらいの割合で、誰か彼か訪ねてくる。俺達が転生した後に知り合ったであろう人達もいるから、みんながみんな知っているというわけではないのだが、俺が最も期待している人物はまだ来てくれていない。
アスカが生まれてから1ヶ月ほど経ったある日、ついに俺の探知に求めていた人物が引っかかった。他にも連れがいるようで、1人ではないようだが、来てくれただけでもありがたいとしよう。
「こんにちはー、ソフィアさんはいますかー?」
俺の探知にかかってから、真っ直ぐここに向かってくれたようで、しばらくして元気のいい声が玄関から響いて来た。
というか、彼女も探知を持ってるはずなので、ソフィアがいることは百も承知のはずだが。
「いらっしゃい、ミーシャさん久しぶりですね! ゴードンさんもお元気そうで!」
そう、俺が待ちに待っていた人物とはミーシャだったのだ。決して、ゴードンの方ではない。
「ソフィアさんが女の子を産んだって、ダンジョンから戻った時に聞いたので、それはもう急いで来たんですよ!」
どうやらミーシャはゴードンと一緒に、とあるパーティーに頼まれて、一緒にダンジョンに潜っていたようだ。その背中には、アスカが作った弓"
(随分と綺麗に使ってくれているな。あれを見ただけで、アスカに対する思いが伝わってくる)
それを見た俺は少し涙ぐんでしまった。
「それで、肝心の女の子は……いたいた! うひょーーーーからのおきょーー! メチャクチャ可愛いじゃないですか!?」
(うお! いきなり来たか! こいつは油断しちまった! そして、叫び声が進化している!? まさかの二段構えとは!)
出会って早々、こんなに俺を喜ばせてくれるとは。さすがミーシャ。恐るべし。
「ふふ、ミーシャさんは相変わらずですね! って、ええ!? アスカが笑ってる!?」
なんと、いつもふてぶてしいアスカが、ミーシャの叫び声を聞いて、声を出して笑っている! もしかして、俺の喜びがアスカに伝わったのだろうか!?
「へー、そんなに笑うのが珍しいんですか?」
「そうなのよ。私が抱いても、キリバスが抱っこしても、誰が来たって笑うことなんて滅多にないのに……すごいわ、ミーシャさん!」
ソフィアがあまりに驚いているので、返って恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてアスカのほっぺたを人差し指で掻いているミーシャ。ちなみにこの時点で、ゴードンは完全に蚊帳の外である。
「それにしてもソフィアさん、聞いてはいましたけど、本当に"アスカ"って名前をつけたのですね」
ミーシャは苦笑いをしつつも、その行為自体は好ましく思っているようだ。
「ええ、女の子が産まれたら"アスカ"って名前をつけようって、結婚した時からキリバスと一緒に決めていたから……」
「うんうん。その気持ち分かりますよ。私ももう一度アスカさんに会いたいですから……」
そんなミーシャの言葉に、ソフィアもしんみりしてしまった。ちなみにゴードンは、『この子は絶対美人になる』と、それはそれは恐ろしいセリフを吐いていた。
「ごめんなさい。ちょっとしんみりしちゃいましたね。それで、この子を【鑑定】してもいいですか?」
ミーシャは黙って鑑定することもできたはずだが、あえてソフィアの許可をとる。こういう気遣いができるところも、ミーシャのいいところなんだよな。
「ええ、そうですね。正直、ちょっと聞くのが怖いのですが……お願いします」
生まれつきスキルを持っているのかいないのか、今後の人生に与える影響が少なくないだけに、親としてはそれがはっきりとわかる瞬間は、ちょっと怖いらしい。
「それでは失礼して……こ、これは……でも、何だろうこの感じ……どこかで似たような経験を……」
俺がつけたのは隠蔽のみだが、Lv5の隠蔽はミーシャには見破ることができない。隠されたステータスを見ることはできないし、スキルも"なし"と表示されていることだろう。それにしては、反応が微妙なところがあるのだが……
「えっ!? えっ!? それでスキルは?」
はっきりしないミーシャの言動に、慌てて聞き返すソフィア。
「あの、がっかりしないでくださいね。スキルは"なし"でした」
ミーシャのその言葉に、ソフィアは……
「そうでしたか。ルークが剣術スキルを持っていたので、アスカは水操作を持ってるんじゃないかと思ったのですが、そう上手くはいきませんでしたね」
少しがっかりした表情は見せたものの、それはどこかホッとした表情にも見える。
やはり、母親としては危険と隣り合わせの冒険者より、安全な職業に就いて欲しいのかもしれない。それならば、いっそスキルが無い方が選びやすいのだろう。
ソフィアはアスカがスキルを持っていないとわかって、吹っ切れたようだったのだが、逆に鑑定したミーシャは依然として険しい表情を崩していなかった。
それに気づいたソフィアが、不思議そうに尋ねる。するとミーシャは、以前同じような感覚に襲われたことがあると言い、昔経験したある出来事を話し始めた。
「あれは私がクランホープの新メンバーに選ばれ、アスカさんと
そう言ってミーシャは、持っていた弓を撫でる。
「それから、
ソフィア達はその時別行動をしていたので、詳しい話を聞いたことがなかったのだろう、ミーシャの突然のカミングアウトに、目を見開いて驚いている。
「2日目には70層に到達して、レベルは64、この時すでにA級の魔物を一人で倒してました。今ならわかりますが、あれは本当に異常事態だったんですね」
ソフィアがそれを聞いて、遠い目をしている。うん、確かにあの時はやりすぎちゃったかも……
「そして3日目なのですが、すぐにレベルを66にして、アスカさんをサポートする形で、S級のカイザーキマイラを倒しました。そしたら、アスカさんはもう練習はいいからレベルを上げようって言い出して、そこからはもう……見たことのない魔法のオンパレードで、あっと言う間に100層に到達。レベルは96になってました……」
「……あの時、そんなことが起こってたんですね。早いとは思いましたが、まさか3日でレベルが96まで上がるとは……やっぱりアスカさんですね」
久しぶりに聞いたアスカの武勇伝に、呆れながらもなんだか懐かしい思いでいっぱいになるソフィアだった。
「それで、ここからが大事な話なのですが……」
えらい長い前置きの後、ようやくミーシャが本題を話し始める。
「レベルが一気に上がって、スキルポイントも溜まっていたので、予定通り、探知Lv3と身体強化Lv3と鑑定Lv1をつけました。それで、ちょっと興味本位で、こっそりアスカさんを鑑定してみたのですよ。S級の魔物を虫けらのように倒していく人が、どれほどのステータスか知りたくて……」
ソフィアもそれはずぅーっと知りたかったことなのだろう、息を止め、身を乗り出してミーシャの次の言葉を待っている。
「その時私が見たアスカさんのステータスは……
Lv30、一番高いステータスが魔力の156。スキルに至っては土操作Lv2、治癒Lv1でした……」
「ええーーー!? どう言うこと!?」
とんでもステータスを期待していたソフィアは、あまりに予想外のことに思わず大声で叫んでいた。しかし、その声にもふてぶてしい態度のちびっ子アスカは、全く動じることがない。
「いや、ここまで隠すのが下手くそなら、いくら私でも隠蔽してるってわかりましたよ! 見た感じも、感じる魔力も桁違いでしたからね。というか、一緒に戦ってた私のレベルが96なのに、アスカさんのレベルが30のわけないじゃないですか! それで、何が言いたいのかと言うと、今、このアスカちゃんを鑑定した時、あの時と同じ感じがしたような気がしたのですよ……一瞬だったので絶対とは言い切れませんが……」
さすがはミーシャ。感の鋭さは天下一品だよ。俺は素直に感動した。
「それって、まさか、この子は生まれつき隠蔽のスキルを持ってるとか?」
ソフィアが、それっぽい答えを思いついたのだが……
「うーん、でも生まれつきだとLv1ですよね。スキルのレベルも。だとすれば今の私の鑑定はLv2なので見破れるはずなのですが……それに生後1ヶ月の赤ん坊が、スキルを使いこなせるとは思えないのですし……」
ミーシャが冷静にそれを否定する。
「じゃあ、いったいどういうことなのかしら?」
そう言われたら、それ以上の答えが出てこない。ミーシャもソフィアも、唸るだけで正解と思える考えは浮かんでこなかった。
「やっぱり勘違いかもしれないです」
納得できる答えが見つからない以上、これ以上考えるのは無駄ということで、その話はここで終わりとなった。
ただ、それを抜きにしても、このアスカちゃんの雰囲気が、あのアスカにとても似ているとミーシャに言われ、思わず笑顔になるソフィアだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます