予定8 君を忘れる。

 泣き虫な私は、君を忘れようとした。他の家族がしていたように、スマホに沢山保存された写真を見返すこともしなかった。野良猫やテレビの中の猫に、君を重ねて懐かしむこともしなかった。私はスケジュール帳にできてしまった空白を埋めることに躍起になっていた。この頃には本が読めるようになっていた。君がベッドの上から見守っていてくれたおかげかもしれない。そんな思いも隅に押しやるように、私は普段通りに過ごそうした。


無理だった。


 玄関での君のお迎えを期待している自分がいた。仕事帰りにあの独特な声で「おかえり」と言ってくれることを、いつの間にか期待している。


 君の君のご飯の時間には時計に目がいく。そろそろ水を新しく変えて、餌をやらないと、なんて考えていて、君の不在を思い知ることになる。




ほら、私は今も君を忘れられない。



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