第12話
「挨拶が遅れて申し訳ありません。ヴィリス王子。ご存じの通り私が当代の要の巫女。名をリシア・ランドロールと申します。この度は――」
「あーナシナシ! お堅いのは性に合わないからもっと気楽にいこうぜ。兄上たちと違って別にオレはそこまで偉いってわけじゃないし!」
「そ、そう言う訳には――」
私が否定しようとすると、ヴィリス王子はどこか悲しそうな表情になる。
同時に私に向けて訴えかけてくるような強い視線も感じた。
……負けだ。仕方ない。
そういう
「……分かりました。挨拶はひとまず置いておいて、ヴィリス王子はどのような御用で私のところにいらしたのですか?」
「んー、一応表向きは王族として亡命してきた要の巫女の状態確認。まあそれよりも巫女は美人だって聞いたからお近づきになっておきたかったってとこ!」
「は、はぁ……」
「って言うのはまあ軽い冗談として。美人なのは間違いないけどさ」
何というか、背中がむず痒い。
一応恵まれた容姿に生まれた事は自覚しているが、それを褒められる事など久しくなかったのでどう返したらよいのか言葉が見つからない。
まして相手は他国の王子。余計に返答に困る。
とは言え美青年に褒められて悪い気はしない私もいたりする。
ちなみに今の私は一人だ。
お父様は今、アガレス王国の国王陛下を含めた方々とお話をしている。
一応すぐ近くの部屋に侍女が控えているが、一人にしてほしいと頼んだのでよほどのことがなければ入ってくることはないだろう。
振り返ってみると、私たちが国を出て数日が経っていた。
お父様が事前に手を回していたこともあり、隣国に到着した私たちはその日のうちに王城へと召喚された。
そして先程国王陛下に挨拶をしたばかりなのだが、どうやら私たちがこの国に来たことは好意的に思ってくださっているようで一安心した。
「まあ実際のところ、オレもよく分かっていないんだけどさ。何というか運命的なものを感じてね。キミには会っておかないといけないって、そう言われた気がしたんだ。だからこうして会いに来た」
「……それはどの立場からのお言葉と受け取ればいいのでしょうか。王子として。一人の男として。或いは――
「おっと、オレの事知っていたのか!」
「ええ。お会いするのは初めてですが、アガレス王国の第三王子ヴィリス殿下はかつて星の意思を宿した
私がそう言うと、ヴィリス王子は右手に嵌めていた手袋を無言で外し、深く息を吸い込んだ。
そしてゆっくりと息を吐くと、次の瞬間彼の手が淡く輝き始めた。
まるで彼の手から発せられているかのように広がっていく光は徐々に細長い棒状となり、やがてそれは一振りの剣を生み出した。
美しい。心を惹かれるような美しい剣だ。
暖かく、優しく、そして強さを兼ね備えた光を纏う、彼の髪色と同じ空色の刀身。
そして羽ばたく金色の鳥の如き
「そう。この通り何故か分からないけどオレにはこんな剣を生み出すことができる。だから星剣士の再来なんて言われている。まあオレには過ぎた称号だけどな」
「これが星剣、なんですね――うっ!?」
「どっ、どうしたんだ!?」
ズキンと、頭が痛む。視界が歪んでいく。声が遠のいていく。
また、さっきの……崩壊した町の映像が……
さらに今度は、何かがいる。恐ろしい目をしたヒトガタが……
ああ、ノイズが――何かが、聞こえてくる。
「せい……けん――し、を……みち、び――っは!!」
次の瞬間、全てが元に戻った。
気づけば私は頭を抱えてしゃがみ込んでしまっていたようだ。
荒く鼓動する心臓を抑えるように私は胸に手を当てた。
「だ、大丈夫か……?」
「はぁ、はぁ……失礼いたしました。もう、大丈夫です」
「疲れているならば一度休んだ方がいい。また後で来るから。急に来て悪かったな」
「あ……ヴィリス王子――」
……行ってしまった。
出会ったばかりなのに何故か少しだけ「行かないで」と思ってしまったのは、何故なのだろうか。
分からない。分からないけれど、彼とはまた必ず会うことになる。
そんな根拠のない確信だけは、私の中にあった。
「……休んだ方が、良いのかも」
今日は何か、いろいろとおかしい。
もしかしたら今まで秘術をかけ続けていた反動が来ているのかもしれない。
お言葉に甘えて、少しだけ休ませてもらうとしよう。
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