第106話 非道な野郎に一閃を
ハモニッカの野郎は越えてはいけない一線を越えてしまった。あの野郎は火のひもでティノちゃんを操り、私に攻撃を仕掛けてきた。
「あわわわわわ! エクスさん、避けてください!」
操られたことを把握したティノちゃんは、慌てながら叫んだ。私はティノちゃんの杖を防ぎ、周囲を見回した。炎の剣によって発生した爆発の煙が周囲にあったが、煙は薄くなっていた。その中に、痛々しい姿のハモニッカがいた。
「どうだ……エクス・シルバハート。これで攻撃できるか?」
あの野郎はにやりと笑いながらこう言った。私はティノちゃんの攻撃をかわしつつ、ハモニッカを睨んだ。
「ティノちゃんには攻撃できないわ。けどね、あんたには攻撃できるわよ」
「そうかいそうかい!」
と言って、ハモニッカはティノちゃんを操り、自分の前に立たせた。盾のつもりか。
「これでも攻撃できるって言うのかい?」
「エクスさん! 私に構わず、やってください!」
ティノちゃんの声を聞き、ハモニッカは笑い始めた。
「アハハハハハ! 素晴らしい犠牲の精神だ! エクス・シルバハート! 私を倒したければ、相棒であるティノ・オーダラビトを攻撃しなければならないぞ! さぁ、どうする?」
いちいちあの野郎は私を苛立たせることを口にする。追い詰められたからって、ティノちゃんを人質にするなんて……あの野郎はただの腐れ外道だ。
「いい加減その口を閉じなさい。これ以上私をイライラさせないでよ」
「誰がお前の言うことを聞くかよ! お前が来ないのなら、こっちから仕掛けてやるぞ!」
と言って、ハモニッカは再びティノちゃんを操り、私に攻撃を仕掛けた。
「キャアアアアア! かわしてください!」
ティノちゃんは泣き叫びながらこう言った。杖はかなりの速度で左右に振られている。この勢いの杖に命中したら、それなりにダメージを受けるだろう。だけど、ティノちゃんを救うならそれ相当のダメージを受ける覚悟はできている。私はわざと攻撃を受け、杖の動きを止めた。
「エクスさん……」
「大丈夫よティノちゃん。ちょっと痛かったけど、大したダメージじゃないから」
私はティノちゃんを抱きしめ、そのついでに風を放ってティノちゃんを操っているだろうひもを切断した。その時、ハモニッカは驚いた表情をした。この顔を見て理解した。ひもを切ることに成功したと。
「グッ……最後の手段だったのに……こうなったら、道連れを覚悟してお前を殺す!」
「私を道連れにするつもりなのね。残念。痛い目を見るのはあんただけよ!」
私はティノちゃんを後ろに下がらせ、魔力を解放した。その時、物凄い風が発生した。
「強い……これが修行を終えたエクスさんの本気……」
風を受けながら、ティノちゃんはこう呟いた。一方で、ハモニッカは私の魔力を感じたのか、その顔は恐怖の色で染まっていた。
「そんな……じゃあさっきは手を抜いて戦っていたのか……」
「その通りよ。不運ねあんた。私を怒らせなかったら、こんな目に合わなくて済むのにね」
そう言って、私はハモニッカに近付いて奴の右手を斬り落とした。目で追えない速度だったからか、ハモニッカは自分の右手がないことに気付くまではそれなりの間があった。
「あ……ああ! うわあああああ!」
「手がないのに気付くのが遅すぎよ」
私はそう言って、もう一度剣を振るった。今度は奴の左手を斬り落とした。
「へあっ! そんな……あ……あああああ!」
「言ったでしょ。痛い目に合うって」
痛みで泣き叫ぶハモニッカを見下しながら、私は素早く二回剣を振るった。この攻撃で、ハモニッカは右腕と左腕を失った。
「ウワァァァァァァァァァァ! 止めろ! 止めてくれ、降参だ! もうこれ以上戦えない! 負けを認める!」
泣きながらハモニッカは何か言ったが、一体何を言ったのか私には分からなかった。だから、私は奴の右足の甲に剣を突き刺した。
「ギャアアアアアアアアアア!」
「今何か言った?」
「降参する! もう止めてくれ!」
また何か言っているようだけど、何を言っているか分からないし、理解したくもない。私は続けて剣を振り、奴の右の太ももを深く斬り、左足のふくらはぎに刃を突き刺した。
「ギャアアアアアアアアアア! 止めてくれェェェェェェェェェェ!」
「だったら土下座しなさいよ。両手を使って、両膝をついて頭を下げる。さ、やってみなさい」
私は攻撃の手を止め、土下座をしようとするハモニッカを見た。ハモニッカは両腕がない上、両足を剣で攻撃されて痛みでまともに動かすことができない。そんな状態だが、ハモニッカは何とか土下座に似た変なポーズをとった。両膝と頭は地面に付いているが、これじゃあ土下座とは言えないわね。
「許してください……お願いします」
「それ、何のポーズ?」
「は? 土下座だが……」
「ちゃんと両手を使いなさいよ」
「ふざけるな! お前が私の両手……両腕を斬り落としたではないか!」
「口答えするんじゃないわよ」
イラッとした私は、ハモニッカの右足を斬り飛ばした。ハモニッカは悲鳴を上げながらその場を転げまわったが、邪魔だったので遠くの壁に向かって蹴り飛ばした。
「が……ああ……」
壁にへばりついたハモニッカは、両眼から涙を流し、斬られた個所から血を流していた。私の足音を聞いたハモニッカは、変な声を上げて私の方を見た。
「た……頼む……これ以上攻撃するのは止めてくれ。もう……私は戦えない」
「知らないわよそんなこと。まだまだまだまだまだまだまだ私の怒りは収まってないわよ」
私は両手を鳴らしながらハモニッカに近付いた。それから、気が済むまでハモニッカの顔面を殴り続けた。
ハモニッカを殴り始めて数分が経過した。エクスはスッキリとした表情になっていた。その一方で、ハモニッカの顔面は見るも無残な姿になっていた。
「ふぅ。満足した。ティノちゃん、体に異変はない?」
「大丈夫です。特に異変はありません」
(火のひもで操られただけだからな。まぁ、無事でよかった)
俺がこう言うと、二人は同時に扉の方を見た。そこから、アソパの魔力を感じたからだ。
「アソパの奴、私たちの魔力を感じてわざと魔力を解放したわね」
「誘っているんでしょうか?」
「かもね。でもま、向こうが場所を知らせて来るんだったら、行くだけよ」
「ええ。アソパを倒しにここに来たんですからね」
(二人とも、気合を入れろよ)
「はい!」
エクスとティノは表情を切り替えて俺の言葉に返事をした。そして、アソパの魔力を感じる場所へ向かった。
扉の奥は階段だった。その階段をのぼり、再び扉が見えた。エクスが扉を開けると、少し強めの風が入った。
「屋上でしょうか?」
「そうね。そこに奴はいるわ」
エクスは完全に扉を開け、目の前の光景を見た。そこには、柵以外何もない屋上と、その中央にはスクワットをしているアソパの姿があった。アソパはエクスとティノの存在を察し、振り向いた。
「予想通りだよ。君たちがここに来るってことは」
「仲間がやられるって思っていたわけ?」
エクスがこう聞くと、アソパは少し笑ってこう答えた。
「その通りさ。足止めには役に立つかなって思っていたけど、ラーパもハモニッカも、ストッパーブレイクで強化した戦士たちもあまり役に立たなかったな」
「あんたのために、ジャッジメントライトのために戦ったのよ。少しはねぎらいの言葉を上げた方がいいんじゃないの?」
「負けた奴にそんな言葉をかける必要はない。俺は役立たずな奴は大事にしないからな」
「そーね。だからあんたはロツモを殺したんだったわね」
エクスはそう言ってため息を吐くと、俺を鞘から抜いた。ティノも魔力を解放し、周囲に炎の渦を発した。それを見たアソパはにやりと笑い、構えを取った。
「さぁ。君たちのリベンジマッチを受けよう! かかって来い、ジャッジメントライトの怨敵共よ!」
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