第105話 ハモニッカのトリック


 アソパを追ってボロ小屋の中を走っていたが、道中でハモニッカと言う男と遭遇する。そいつの足元には、私とティノちゃんより先に隠し階段を上がったギルドの戦士たちが死体となって倒れていた。奴に倒されたと思うが、死んだはずのギルドの戦士たちが立ち上がって動いている。


「さて、それでは本格的に遊びの時間と参りましょうか」


 ハモニッカはそう言いながら笑みを浮かべた。それに合わせるかのように、死んだはずのギルドの戦士たちが動き出した。


(二人とも、ギルドの戦士たちをよく見ろ)


 と、ヴァーギンさんが私とティノちゃんに声をかけた。ヴァーギンさんに言われた通りにギルドの戦士たちを見ると、腕や足からオレンジ色のひものような物が見えた。


(あれは……)


(エクスさん。あいつが使う魔力は火です。私の推測ですが、あいつは火をひものように出して、殺されたギルドの戦士の皆さんを操り人形のように動かしているんだと思います)


(操り人形か……)


 ティノちゃんの話を聞いた私は、納得がいった。もし、ハモニッカの野郎がギルドの戦士の遺体を操り人形のように動かしているとしたら、死んだ人に対して侮辱しているようなものだ。絶対に許せない!


「何をボーっとしているんだい? そちらが来ないなら、私の方から来てあげよう!」


 ハモニッカは両手を動かした。その動きにどんな意味があるのかは分からないが、それに合わせるかのようにギルドの戦士たちの死体が動いた。


「来ます!」


 ティノちゃんがこう言った後、バリアを張って攻撃を防いだ。ギルドの戦士が持つ剣がバリアに触れた瞬間、激しい火花が散った。


「あのバリアからすごい音が出たけど、一体何をしたの?」


「電気の魔力を込めて、触れた瞬間に電撃が流れるように仕組みました」


 火花が散った後、バリアにぶつかったギルドの戦士の死体は宙に浮かんだ。


「チッ!」


 それを見たのか、ハモニッカは舌打ちをしながら魔力を解放した。ティノちゃんの推測通り、奴は火のひもでギルドの戦士の死体を操っているようだ。


「トリックを見抜いたわ。あんたに勝ち目はない!」


 私は風を発し、ギルドの戦士の死体の周りに竜巻を放った。私が放った竜巻によって、ギルドの戦士の死体を動かしていた火のひもはあっという間に散った。


「クッ……どうやら私のトリックを見抜いたようだね。流石エクス・シルバハートと、言っておこうか」


「あんまり気取らない方がいいわよ。あんたの攻撃の手は大体察ししたからね」


「ばれてしまってはしょうがないが……まぁ、ばれても同じ手を使うけどね!」


 そう言って、ハモニッカは再び火のひもを放ってギルドの戦士の死体を操った。




 奴の技を見て、さっきの部屋で不自然に発生した家具の奇妙な動きも納得がいく。ハモニッカは俺たちがこの階に来たことを最初から知っており、家具を操って遠くから攻撃を仕掛けていたのだ。恐らく、ギルドの戦士たちもこの階に到着して、それからハモニッカに殺されたのだろう。


 攻撃の手は分かった。だが、それでも火のひもをどうやって攻略するかが分からない。攻撃を出しているハモニッカを叩けば開放している魔力が止まり、火のひもは消滅するだろう。だが、奴もそのことを察している。近付いた途端に何か仕掛けるつもりだ。


(エクス、飛び道具か何かでハモニッカに直接攻撃できないか?)


 俺がこう聞くと、エクスはギルドの戦士たちの死体の攻撃を防ぎながら答えた。


(隙を見て、風の刃で奴に攻撃しようと考えています。ですが、奴の顔を見てください。余裕こいて笑っていますよ)


(そうだな。俺たちが遠距離から攻撃するだろうと予測していそうな顔だ)


(私の微力に解放した魔力を探知できるほどの実力者です。半端な攻撃では確実に対処されます)


 と、ティノが攻撃をかわしながらこう答えた。半端な攻撃では確実に対処されるか。それならこれはどうだろう。


(半端の攻撃では無理だが、全力の攻撃はどうだ?)


(全力で?)


(ああ。考えても対処できないほどの攻撃を奴に向かって放つんだ)


(そうですね。一か八かやってみる価値はあります)


(それじゃあ、私が囮になるわ)


 エクスはそう言って、前に出た。ハモニッカは前に出たエクスを見て、驚いた表情になった。


「ほぉ。死にに来たのですか?」


「バカ言わないでよ。私は死なないわ」


 エクスはどや顔でこう言った。その直後、ハモニッカが操るギルドの戦士たちの死体が、一斉にエクスに向かって剣を振り下ろした。エクスは左手を上に上げてバリアを張り、攻撃を防いだ。


「ギルドの戦士の死体をこんな風に使って……絶対に許さないわよ。クソ野郎!」


 エクスは叫んだ後、猛スピードでハモニッカに向かって走って行った。この時のエクスの速度を、ハモニッカは見切ることができていなかったのか、動揺した表情になっていた。


「なっ……早すぎる……」


 目の前に現れたエクスを見て、ハモニッカは小さく呟いた。その直後、エクスの強烈な蹴りがハモニッカの左頬に命中した。


「グオッハッ!」


 ハモニッカは悲鳴を上げ、体を回転させながら宙を舞った。床に激突した後、エクスは風の魔力で作った無数の刃をハモニッカに向けて放った。


「グッ!」


 飛んでくる無数の風の刃を見て、ハモニッカは魔力を解放した。ギルドの戦士の死体を盾代わりにするつもりかと俺は思ったが、ハモニッカは無数のひもを発して何重にも重ねた。


「ひもを何重に重ねて盾にしたつもりね」


「今、このひもの盾は何百もの層がある! この程度の風の刃、防げるさ」


 ハモニッカの言う通り、エクスが放った風の刃はひもの盾に命中したが、ひもの盾はなくなることはなかった。それを見たエクスは驚きの声を上げていた。


「へぇ、結構頑丈ね」


「当たり前だ。そしてこれは、武器にも使える!」


 ハモニッカはそう言うと、ひもの盾を投げ捨てた。その直後、ひもが動き出し、エクスに向かって飛んで行った。エクスは剣を使ってひもを弾いたが、その際に金属音がぶつかる音が響いた。


(あのひも、強度が増している!)


(魔力を使って硬くしたようですね。厄介なことをしてきましたね)


(あの強度で飛んで来たら、確実に弾丸のように体を貫く! これはまずいぞ!)


 俺は周囲を飛び回るひもを見て、エクスにこう言った。だが、エクスはにやりと笑っていた。


(危機的状況の中でも、確実に逆転できる一手があります)


(何か手があるのか?)


(ええ。思い出してください。どうして私が前に出たのかを)


 そうか。戦いの展開が早すぎてさっき言ったことを忘れてしまった。俺としたことが。どうやら、ティノの攻撃準備が終わったようだ。


(ティノちゃん、お願い)


(はい!)


 エクスとティノは俺を通じてテレパシーで合図を送った。ティノは杖を振り回し、巨大な炎の剣を作り出した。


「なっ! しまった!」


「アハハハハハ! 私ばかり注目していると、後で痛い目を見るわよ」


 エクスは笑いながら、後ろに下がってこう言った。ハモニッカは自分に向かって飛んでくる炎の剣をかわそうと態勢を整えていたが、エクスが放った風の刃がハモニッカの右足に命中した。そのせいで、ハモニッカは転倒した。


「ガアッ! なっ……そんな……」


「これで終わりね。ティノちゃん、やっちゃって」


「はい!」


 ティノは返事をした後、炎の剣をハモニッカに向かって突き刺した。炎の剣はハモニッカに命中した後、大爆発を起こした。




 爆風が周囲に舞う。これで奴も大きなダメージを負って戦えないだろう。私はそう思いながら、ティノちゃんに近付いた。


「これであいつも動けないわね」


「ええ。それなりに魔力を使って炎の剣を作ったので、あれで動いたら化け物と呼んでもいいですよ」


「アハハハハハ。確かにそうね」


 私とティノちゃんは笑いながら話をしていたが、突如ティノちゃんの笑顔が消えた。


「え……嘘」


 ティノちゃんの声を聞き、私は身構えた。その瞬間、ティノちゃんは私に向かって杖を振り下ろしてきた。

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