第12話 エクスとティノの旅立ち


 翌日、私は旅立ちの支度をしていた。修行していた時からずっと決めていたことがある。それは、ヴァーギンさんに変わってジャッジメントライトを潰すということ。ジャッジメントライトがどれだけ恐ろしく、今後世界に対して驚異的な存在になるのか私は理解した。もしかしたら、ヴァーギンさんのように大事なものを失う人々が出てくるかもしれない。悲劇が起きないため、私が動く。


「エクスさん。どうかしたんですか?」


 と、パジャマ姿のティノちゃんが私に話しかけてきた。どうやらエルラの騒動で受けたショックは回復したようだ。


「これから旅立つ支度をするの。長い旅になりそうだから」


「えええ! 長い旅って、エクスさんギルドを辞めるんですか?」


「うーん……一つのギルドに所属するのを辞めるってことね。まぁ、フリーの戦士になるってことかな」


 私はティノちゃんにこう言って支度を続けた。話を聞いたティノちゃんは、何かを考えている素振りを見せた。


「どうかしたの?」


 考えているティノちゃんにこう聞くと、意を決したかのようにティノちゃんはこう言った。


「お願いです! 私もあなたの旅に連れて行ってください!」


 あらま、こんなことを言われるとは思ってもいなかった。まぁ、一人旅より相棒がいた方がいいし、私は反対する気はない。それに、ティノちゃんは魔力使いとしては未熟だが、鍛えればいずれエルラより強い魔力使いとなる才能がある。私と一緒に行動すれば強くなるんだけど、私と所属しているギルドが違うし、一度話をするためにティノちゃんが所属しているギルドへ向かわなければならない。


「うーむ……私は前々からジャッジメントライトの件で何かあったらこのギルドを辞めるって言っていたけど……急にギルドを辞めるって言って大丈夫?」


「た……多分。でも、所属しているギルドの人たちはすぐに私を甘やかすんですよ。もう子供じゃないのに。私は十四ですよ!」


 十四歳。まだ子供のような気がするが、まぁ根はしっかりしているから私と一緒に行動しても大丈夫だろう。多分。とにかく、今することはティノちゃんのギルドに報告すること。それが大事ね。




 私はギルドから離れることを伝え、すぐにフリーになることができた。前々から手続きをしていたから楽に終えることができた。が、ティノちゃんの方は大変だった。急にギルドから離れること、ケサクの死や依頼主であったウラガネが死んだことでギルドが慌てている中、ティノちゃんが離れると言ったためかなり手続きに時間がかかった。電話での手続きだったためか、終わるまで一時間はかかった。


「すみません、お待たせしました! 今、ギルドを辞めることができました」


「大変だったね。それじゃあ行こう」


「はい! エクスさん、これからよろしくお願いします!」


 その後、私とティノちゃんはギルドから旅立った。向かう場所はバッハ。ジャッジメントライトが引き起こそうとするテロを食い止めないと。




 私とティノちゃんはギルドから近くのバス停から、最寄りの駅へ向かい、そこから乗り継ぎを使いつつバッハへ向かった。時折、私のことを心配するギルドの皆から連絡が入った。私とティノちゃんが無事であることを返信する中、一つだけ異質な文章があった。その文章を見て、私は声を出した。


「どうかしましたか?」


 心配したティノちゃんに、私は携帯の画面を見せた。ティノちゃんは驚きの声を出し、動きが固まった。その文章は、刑務所に入れられたエルラが何者かによって殺されたことが書かれていた。


「エルラさん……」


 ティノちゃんは小さな声で奴の名前を呼んだ。自分を裏切った奴だとしても、ティノちゃんはまだ奴のことを実の姉のように思っているのだろう。


(これは多分、ジャッジメントライトの仕業だ。あいつらの中にはギルドの戦士もいる。スパイがいた可能性があるな)


(私もそう思います。エルラのようにギルドに入っていながらも、ジャッジメントライトに入った奴が存在します)


 私はヴァーギンさんに言葉を返した。エルラのようにギルドの戦士であるにもかかわらず、何らかの理由でジャッジメントライトに入った奴もいる。宗教のように心惹かれたのか、あるいは別の理由なのか分からないが……もし、入っていたとしても、敵として出てくるなら斬るだけだ。そう思っていると、急に電車が止まった。


「あらら。どうかしたのかしら」


「事故ですかね?」


 私とティノちゃんは窓から外を見た。だが、事故が起こったような形跡はない。なら、非常識な人が線路内に入ったのだろうと私は考えた。その時、乗客の悲鳴が聞こえた。しばらくして、アサルトライフルを構えた黒マスクの集団が入ってきた。


「動くな! お前たちは人質だ! 変な動きを見せたらすぐに撃つ!」


 あらま。裏ギルドかテロ組織か分からないけど、電車を乗っ取るつもりだ。むー、こっちはすぐにバッハに向かいたいのに、邪魔をしないでほしいな。


「なっ! 動くなと言ったはずだ! 私の言うことが聞こえなかったのか!」


 立ち上がった私を見て、黒マスクの一人が私に銃口を向けた。私はティノちゃんの方を向き、小声でこう言った。


「危ないからバリアで身を守って」


「分かりましたが……エクスさんはこれからどうするつもりですか?」


「あいつらを倒してくるわ。すぐ終わるから安心してね」


 私はそう返事をして、高く飛び上がった。


「なっ! 撃て、撃ち殺せ!」


 黒マスクの集団は私に向かってアサルトライフルを撃ち始めた。だけどまぁ、何と粗悪なアサルトライフルだ。弾を打つたびに発生するブレが大きすぎる。それじゃあ狙った獲物は倒せないよ。私はそう思いながら、奴らの近くに着地し、足払いで素早く近くにいた二人の足を蹴り、転倒させた。


「なっ! あっ!」


 私が無傷であることを把握した残りの黒マスクは、すぐに私に向かって銃口を向けた。だけど、引き金を引いても弾は出なかった。


「下手な鉄砲を撃ち続けた結果だね」


「クソッたれ!」


 アサルトライフルが役に立たないことを知った奴らは、アサルトライフルを投げ捨ててナイフを取り出した。見た感じ、小さな道具屋や武器屋で売っている小さなナイフだ。しかも、すぐに刃がボロボロになる使い捨ての安物。そんな物を利用するとは。


「死ねぇ!」


 目の前にいた黒マスクが私に向かって安物のナイフを振り下ろしてきた。私は奴の攻撃をかわし、股間に蹴りを入れた。急所を蹴られた男は悶絶しながらうずくまった。


「この野郎! よくも仲間の急所を!」


 仲間を倒されたことに怒った黒マスクが、私に向かってナイフを投げた。ナイフを投げる攻撃方法はあるが、それは予備がある時に使う攻撃方法だ。私は急所を蹴って倒した黒マスクを盾にするように立たせ、攻撃を防いだ。


「ガグアッ!」


 飛んできたナイフは、縦にした黒マスクの右の脇腹に刺さった。攻撃が仲間に当たってしまったことに動揺したか、黒マスクの動きは隙だらけだった。


「あらま。酷いことをするわね」


 私はそう言いながら黒マスクに接近し、力を込めて腹を殴った。渾身の一撃を受けた黒マスクは小さな悲鳴を上げ、気を失った。だがその時、最初に倒した二人の黒マスクがアサルトライフルを持って立ち上がった。


「これまでだ! よくも俺たちをこけにしてくれたな!」


「ハチの巣にしてやるから覚悟しろ!」


 ほう。まだ私とやるようだ。仲間があっさりと倒された光景をちゃんと見ていないようだ。私はため息を吐きながら剣を取り、奴らが持つアサルトライフルの銃口を斬り落とした。


「覚悟しろ? 覚悟するのはあなたたちの方じゃないの?」


 激しい動揺を見せる黒マスクに対し、私は勝ち誇ったかのようにこう言った。

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